SI接頭語 利点

SI接頭語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/22 23:01 UTC 版)

利点

ある物理量について1種類の単位(例えば長さについてのメートル)しかなかったら、非常に大きな数字や小さな数字を扱わなければならなくなる。尺貫法ヤード・ポンド法などの伝統的な単位系では、異なる値の複数の単位(例えば)を用意し、それらを組み合わせて値を表現していた。これで、扱う数字を小さくするという目的は達せられたが、色々な単位を覚えなければならない。

メートル法はこれに対し、同じ接頭語を様々な単位につけるだけで単位を様々な大きさにすることができ、伝統的な単位系のような大きさによって全く別の単位を覚える必要がない。

また、十進法なので計算のための換算も簡単にできる(尺貫法のように接頭語を使わずとも部分的に十進法を採用していた度量衡もあるが、全面的に採用することは難しい)。これはメートル法の大きな利点の1つである。

欠点

  • 単位名称が長くなりがちである。加えてそれらはしばしば接頭語だけで呼称されることがあるために紛れることがある。例えば、キロメートルとキログラムのように、様々な「キロ○○」が単に「キロ」と呼ばれると、誤解を生む元になる。
  • 体積など次元に高い次数(体積では3)を持つ物理量の単位では、桁が開きすぎてしまう。たとえば、キロは1000倍なので、立方キロメートルは10億 (109) 立方メートルになる。このため、1万立方メートル – 1億立方メートル程度の体積が、立方メートル単位では桁が大きくなりすぎて、使いづらいという問題が起こる。
  • 従来の度量衡に比べれば広い範囲の値を表せるが、それでも原子・素粒子や宇宙についての物理定数に関しては接頭語が足りない。そのため、これらの分野では指数表記や特別な単位が使われることが多い。そういった単位のうち、天文単位ダルトン電子ボルトの3つはSI併用単位に指定されている。これらの分野で特別な単位が使われるのには、桁が違いすぎるという理由のほか、その物理量が特定の分野の計量の基準として使われてきたという事情がある。例えば、天文単位太陽質量地球質量天文学の分野での距離や質量の基準となっている。ダルトンは物理学における質量の基準となっている。
例:長さ(3000 m 又は 3 km)と時間(50 s)から速度を求める。
量方程式は、v = l / t (速さ = 長さ / 時間)である。
  • 長さにメートル(m)を用いる場合は、
数値方程式は、速さ = 3000 m / 50 s = 60 m/s であり、量方程式と全く同じ形である。
  • これに対して、SI接頭語のついたキロメートル(km)を用いると、
数値方程式は、速さ = 3 km / 50 s = 1000 × 3 / 50 = 60 m/s であり、右辺に1000という余分の係数を付けるので、量方程式と同じ形にはならない。

歴史

起源

1790年5月に「メートル」という新たな名称が初めて提案[注 13][20]された後の数年間は、メートルの倍量・分量単位として、それぞれ異なった名称を使えばいいと考えられていた。例えば、ペルシュ(10メートル)、スタッド(100メートル)、パルム(0.1メートル)、ドワ(0.01メートル)などである[20]

1793年5月の度量衡委員会のメートル法に関する報告書において初めて、キロ(1000)、ミリ(0.001)などを使うというアイディアが登場した。これらはいずれもギリシャ語やラテン語の接頭辞を使っているが、フランス語の一つである低地ブルターニュ語とするという対立案もあった[20]

この報告書では、10倍刻みで10±3までの6つの接頭語が定められた。名称とその由来は次のとおりである。

  • 倍量接頭語であるデカヘクトキロ
    • 由来はいずれもギリシャ語のδέκα (deka)(10)・ἑκατόν (hecatón) (100)・χίλιοι (khilioi)(1000)である。
  • 分量接頭語であるデシセンチミリ
    • 由来はいずれもラテン語のdecimus(0.1)・centum(100)・mille(1000)である。

1795年4月7日に国民公会が可決した法令の中にミリア (104) が導入された[21]。ミリアはギリシャ語の「10000」から作られた。しかしそれ以上の接頭語は作られず、デシミリ (dm = 10−4)、ヘクトキロ (hk = 105)、センチミリ (cm = 10−5) などの二重接頭語が使われた。なおミリアと同時にミリオ (10−4) が導入されたとも言われるがはっきりしない。

その後の接頭語

18731874年、英国科学振興協会 (BAAS) はCGS単位系に、接頭語としてミリアを含む7つに加え、10±6を表すメガとマイクロを導入した。ただしメガとマイクロはMKS単位系やMKSA単位系ではなかなか使われなかった。メガとマイクロは、ギリシャ語の「大きい」「小さい」から作られた。なお、この後に作られる接頭語は、メガとマイクロのように、倍量接頭語は‐a、分量接頭語は‐oで終わるようになる。

1935年国際度量衡委員会 (CIPM) はメガを採用し、代わりにミリアを廃止した。

1960年の第11回国際度量衡総会 (CGPM) でSIが定められたときには、メガ・マイクロまでの8つの接頭語(ミリアは除く)に加え、さらに新しく10±9のギガとナノ、10±12のテラとピコを加えた12の接頭語を導入した。ギガ、ナノ、テラはギリシャ語の「巨人」「小人」「怪物」、ピコはイタリア語の「小さい」から作られた。また同時に、二重接頭語が廃止された。

1964年の第12回CGPMで10−15のフェムトと10−18のアト、75年の第15回CGPMで1015のペタと1018のエクサが導入された。ペタとエクサはギリシャ語の「5」と「6」(10005・10006なので)、フェムトとアトはデンマーク語ノルウェー語の「15」と「18」から作られた。

1991年の第19回CGPMで10±21のゼタとゼプト、10±24のヨタとヨクトが導入された。ゼタとゼプトはイタリア語の「7」、ヨタとヨクトはギリシャ語の「8」から作られた。元は同系の語であるため、10nと10nは語形が似ており、記号は大文字・小文字の違いのみになった。なおこのとき初めて、「倍量接頭語はギリシャ語」という慣習が崩れた。

2022年の第27回CGPMで10±27のロナとロント、10±30のクエタとクエクトが導入された。国際度量衡委員会 (CIPM) の下部委員会である単位諮問委員会 (CCU) は、2019年10月8・9日の第24回会議において、イギリス国立物理学研究所 (NPL) から提案(主導者は、NPLのRichard J. C. Brown である。)された1030、1027、10−27、10−30の接頭語について議論を行った[22][23][24]。2021年9月の第25回CCUでも議論された上で[25]、同年10月に開催された第110回CIPMでは、CCUによるこの提案を2022年11月開催予定の第27回国際度量衡総会 (CGPM) に決議案として提出することを決定した[26][27][28][29]。なお、1030に対する接頭語は、議論の段階ではquecca(クエカ)だったが、国際度量衡局 (BIPM) がCGPMに提出した草案ではquetta(クエタ)に変更された[29][30][31]。そして2022年11月18日に第27回CGPMにおいて正式に決定した[32]


  1. ^ 日本国語大辞典、第12巻(せき-たくん)、p.44、1976年4月15日第1版第2刷発行、では、「接頭語」を主見出しにしている。
  2. ^ 広辞苑 第4版、p.1447、1991年11月15日第4版第1刷発行、においては、「接頭辞」を主見出しにしている。
  3. ^ ただし、文脈上明らかな場合は、単に「接頭語」と記述している。
  4. ^ インターネット百科事典ウィキペディアでは、2005年7月から2022年6月までは「SI接頭辞」となっていた。
  5. ^ 計量法では「接頭語記号」と規定している。
  6. ^ ただし計量法では、SI接頭語と組み合わせることができない。
  7. ^ 計量法上は、特殊の用途のみに用いることができる単位であり、規定の仕方から、SI接頭語と組み合わせることができない。またアールはSI併用単位ではない。
  8. ^ 国際単位系国際文書では、数字の 1 を「単位 1 の記号」とみなす場合がある。
  9. ^ この「文章の様式」とは、欧文における立体イタリック体斜体のことである。
  10. ^ SI接頭語の「k」は代数学の変数とは異なり、乗法の単独の要素とはなり得ないが、ここでは説明上、便宜的に記述している。
  11. ^ ヘクタール(ha)は歴史的にはh(接頭語のヘクト)とアール(a)の組み合わせであるが、現在ではSI単位ではなく、SI併用単位となっている非SI単位である。
  12. ^ デシベル(dB)は由来としては、d(接頭語のデシ)とベルとの組み合わせであるが、現在では独立したSI併用単位となっている。
  13. ^ 市民のオーギュスト・サヴィニアン・ルブロンが提案した。
  1. ^ SI国際文書第9版(2019) p.112
  2. ^ 計量単位令 別表第四 - e-Gov法令検索
  3. ^ 計量単位規則 別表第三 - e-Gov法令検索
  4. ^ SI国際文書第9版(2019) 2.3.4 組立単位、 p.106
  5. ^ 難かしい公式も樂に覺えられる算術うた繪本(わかもと物識繪本第2輯)、1937年4月
  6. ^ いいことする? メートル法單位のページの写真
  7. ^ SI接頭語、追加決定 SI接頭語の名称と記号の決まり方、産総研 計量標準総合センター、2022年11月
  8. ^ 計量法 第5条第1項
  9. ^ 計量単位令 第4条第1号 キログラム、分、時、度(角度の計量単位の度に限る。)、秒(角度の計量単位の秒に限る。)、平方メートル立方メートル、毎秒、毎分、毎時、毎メートル、キログラム毎立方メートル、平方メートル毎秒、キログラム毎秒、キログラム毎分、キログラム毎時、立方メートル毎秒、立方メートル毎分、立方メートル毎時、デシベル、回毎分、回毎時、気圧、質量百分率、質量千分率、質量百万分率、質量十億分率、質量一兆分率、質量千兆分率、体積百分率、体積千分率、体積百万分率、体積十億分率、体積一兆分率、体積千兆分率及びピーエッチ除く
  10. ^ 計量単位令別表第5、項番1~4
  11. ^ 計量単位令別表第5、項番5~10
  12. ^ http://www.bipm.org/utils/common/pdf/si_brochure_8.pdf (PDF) の94ページ以降、http://www.bipm.org/utils/common/pdf/si_brochure_8_en.pdf (PDF)
  13. ^ The International System of Units (SI) (PDF) , NIST Special Publication 330, 2008 Edition, p.iii, 第3段落
  14. ^ a b SI国際文書第9版(2019) p.112
  15. ^ SI国際文書第9版(2019) p.105、p.112、p.120
  16. ^ SI国際文書第9版(2019)、 p.112
  17. ^ SI国際文書第9版(2019) p.112右端注記
  18. ^ 英語による原文:The grouping formed by a prefix symbol attached to a unit symbol constitutes a new inseparable unit symbol (forming a multiple or sub-multiple of the unit concerned) that can be raised to a positive or negative power and that can be combined with other unit symbols to form compound unit symbols.
  19. ^ SI国際文書第9版(2019)、p.112、複数の接頭語記号を並置して作られる接頭語記号、すなわち合成接頭語記号を使用することはできない。同様に、合成接頭語名称を使用することも許されない。
  20. ^ a b c ケン・オールダー、万物の尺度を求めて、p.117、早川書房、2006-03-31初版発行、ISBN 4-15-208664-5
  21. ^ Culture: Weights and Measures Text 6. Finally, kilometer and myriameter shall be the lengths of 1,000 and 10,000 meters, and shall designate principally the distances of roads.
  22. ^ Consultative Committee for Units (CCU) Report of the 24th meeting 11. DISCUSSION ON THE POSSIBLE EXTENSION OF THE AVAILABLE RANGE OF SI PREFIXES, pp.23-25, Report of the 24th meeting(8-9 October 2019) to the International Committee for Weights and Measures
  23. ^ You know kilo, mega, and giga. Is the metric system ready for ronna and quecca? Science,By David Adam,2019-02-14
  24. ^ Extending the available range of SI prefixes Richard J. C. Brown, Head of Metrology, National Physical Laboratory, UK
  25. ^ Consultative Committee for Units (CCU) Report of the 25th meeting p.12,p.14, 21-23 September 2021
  26. ^ SI接頭語の範囲拡張について 産総研計量標準総合センター、2022-04-13
  27. ^ International Committee for Weights and Measures Proceedings of Session II of the 110th meeting p.18, 18-20 October 2021
  28. ^ 臼田孝 (2022年3月16日). “ギガより大きい1クエタ、ナノより小さい1クエクトは何桁の数字? 今年、「新しい数え方」が登場します!”. ブルーバックス. 2022年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年8月8日閲覧。
  29. ^ a b 10の30乗、新呼称「クエタ」 単位飾る新語、データ増に対応(日本経済新聞 2022年8月14日、2022年9月23日閲覧)
  30. ^ Draft Resolutions of the General Conference on Weights and Measures (27th meeting)”. BIPM. 2022年3月22日閲覧。
  31. ^ 臼田孝 (2022年4月18日). “今年登場する新しい数え方「クエタ」や「ロント」は誰がどう決めた? 候補が限定される厳しい命名条件とは?”. ブルーバックス. 2022年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年8月8日閲覧。
  32. ^ 地球の重さは「6ロナグラム」 計量単位に接頭語4種追加”. AFP. 2022年11月19日閲覧。





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