NTSC アナログテレビジョン放送の終焉

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NTSC

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/12 22:38 UTC 版)

アナログテレビジョン放送の終焉

NTSCカラー放送方式は激しい変革と急速な進化を遂げ続けている電子工業界において50年以上もの長きにわたって第一線にとどまり続け、その間も消費者の厳しい評価に応え続けてきた規格である。しかし放送通信のデジタル化は時代の趨勢であり、特に算術処理により動画データを高圧縮するMPEGを始めとした技術の実用化に伴って衛星放送はもとより地上波でも高精細度デジタル放送への移行がNTSC各国で進行した。

アメリカではATSC(Advanced Television Standards Committee、先進型テレビ標準委員会)による標準方式が策定され、地上波放送を受信し得る13インチ以上のテレビジョン装置は全てこのATSC方式のチューナーを備えるよう義務づけている。地上波アナログ放送は2009年6月12日をもって終了しており、低所得者層向けの移行支援としてデジタル放送をNTSCベースバンド信号に変換する単機能チューナーを購入する際に使用できる40ドル分の割引クーポンを配布していた。

BS 110度CS 地上デジタル共用B-CASカード

日本においても、電波産業会(ARIB)が規定するISDB(Integrated Services Digital Broadcasting)方式への移行が予定された。BSデジタル放送は2000年、CSデジタル放送は2002年、地上デジタル放送は2003年に開始した。本来無料放送である民放局の番組にまでスクランブルをかけ、その解除キーであるB-CASカードをチューナーやレコーダーに挿入しないと受信できない煩雑さや件のB-CASカードを独占販売している私企業・株式会社ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズが視聴者一人一人の個人情報を把握している危険性、それらを始めとする視聴者および製品購入者にとって不利益となりうる情報がシュリンクラップ契約で覆い隠され周知されていない隠蔽体質など非難も多く実現を危ぶむ声も聞かれたが、2011年7月24日をもって被災3県以外の地上波アナログ放送は停波された。東日本大震災の被災地である岩手県宮城県福島県(以下被災3県)では、アナログ放送完全終了が震災の特例法により2012年3月31日に延期されていた。被災3県以外のテレビ局では、2011年7月1日からはすべての放送時間帯で停波の告知放送に切り替わり、番組放送自体も音声のみの放送となる計画であったが[3]、画面左下に停波告知を常時表示(CM中を除く)し、映像と音声共に7月24日正午まで放送するように変更された[4]。低所得者層への移行支援策として、生活保護世帯および身体障害者世帯などをはじめとする、市町村民税やNHK受信料が全額免除となる世帯への単機能チューナー無料給付制度が開始されている[5]

またこれに伴って一部の番組で2009年度から段階的にレターボックス(サイズは「レターボックス16:9」が主であるが、NHKの番組によっては「-14:9」「-13:9」もある)での放送に移行していたが、2010年7月5日付の放送開始から全ての番組をデジタルと同様にレターボックス16:9に変更した(一部のコマーシャルは従来と同じ4:3サイズとなるものもあり)。それに先駆けて、一部の新番組(NHKなど)や日本テレビ系列の収録番組(生放送番組を除く)は同年4月からレターボックスサイズでの放送に切り替わっている。被災3県を除く44都道府県では、2011年7月24日正午にアナログ放送は地デジ移行を促す青色単一の画面に変わり番組が終了、25日0時までにコールサインを読み上げた後[注釈 8]、被災3県を除く放送局のアナログ放送が停波した。アナログ放送終了が2012年3月31日に延期されていた被災3県については2011年7月25日以降、CM中でもアナログ終了告知テロップの表示を開始し4:3のCMもレターボックス化(上下左右の額縁放送)、2012年3月12日から「アナログ放送終了まであと○○日」と書かれたカウントダウンの表示、2012年3月31日正午にアナログ放送は地デジ移行を促す青色単一の画面に変わり通常の番組が終了、1日0時までに被災3県に於ける放送局のアナログ放送が停波し、日本全国で完全デジタル化が完了した。これで、日本のアナログテレビジョン放送は完全に廃止され、約60年の歴史に幕を閉じた。なお、日本の地上アナログテレビジョン放送で使用されていた周波数領域は今後携帯端末向けマルチメディア放送や地上デジタルラジオ放送、防災・行政無線他に使用される計画となっているほか、中波放送の混信・難聴取の対策として、FM補完中継局(通称・ワイドFM 当初は90-95MHz)に活用されている。

世界の多くの地域で変調波によるNTSC信号の放送は終了したが、ベースバンド転送は、単一同軸ケーブルで転送可能でかつ確立した(したがって非常に安価な)技術として、防犯カメラ、車載カメラなどの短距離のSD(標準画質)動画転送手段として今でも広く利用されている。


注釈

  1. ^ 画像を水平走査線で分解するという事は、垂直方向にはサンプリング(標本化)を行っているのと等価であり、436本というのは白い水平線と黒い水平線を交互に並べた画像を白と黒の境目が走査線の境目と一致するように撮影した理想的な状況下での最大解像度である。撮影するTVカメラを上か下に1/2ラインずらした時の画像を想像してみて欲しい。一面灰色の、何も描かれていない絵が表示されてしまう事になる。またカメラのズームレンズをワイド側に引いて白と黒の周期を走査線の周期の等倍未満にするとナイキスト定理によるモアレが発生し、この場合も元の絵とかけ離れた画像になってしまう。
    RCA社のレイモンド・D・ケルはこの現象の調査の為、一般人を含む視聴者に様々な画像を見せて実験を行い人間が視認可能な垂直解像度は状況にも拠るが走査線数の64%(1934年調査) - 85%(1940年調査)になるという観測結果を得た。一本の走査線の中でも電子ビームが当たっている中央部が最も撮影時の感度が高く(表示時には明るく)中心から離れるにしたがって感度や輝度が漸減して行く撮像管撮影・ブラウン管表示システムでは低下の度合いが大きく約70%であるが、CCDCMOSといった撮像素子で光学像をとらえLCDプラズマディスプレイのような表示デバイスに映し出す場合は走査線の幅の下端から上端まで同じ感度を持ち同じ輝度で発光させられるためほぼサンプリング定理通りの90%程度まで向上する。
    なお、ケルの実験では全てプログレッシブスキャン(順次走査)で表示した画像を使って調査しており時折言われる「飛び越し走査を行う事で起きる(とされる)垂直解像度の低下現象」とケルファクターとは本来無関係である。
    参考:M. Robin, "Revisiting Kell", Broadcast Engineering, May 2003 & Kell, Bedford, Trainer, "An Experimental Television System : Part II - The Transmitter", Proceedings of the IRE, vol.22 issue11, page 1246-1265, 1934, ISSN 0096-8390
  2. ^ 走査線1本の幅が視角度1分(1/60度)未満になる距離。視力1.0の人物を標準的な視聴者として想定したとき、この人がこの距離よりもブラウン管から離れると画面上に並んだ走査線間の隙間が潰れ「走査線の集まり」ではなく「面」として認識されるようになる。画面縦横比3対4で総走査線525本、映像信号を含む事ができる有効走査線が485本、オーバースキャン率90%を考慮すると画面上に表示される走査線数は430本あまりになるNTSCの場合、画面対角線の長さの6倍とされている。
  3. ^ 水平方向の全てのタイミングの基準点。色副搬送波のゼロクロス(位相0度および180度)点もここに同期させている
  4. ^ 現代の16mm映画フィルムは、HDTVのそれを越える2000ラインペア以上の分解能を持っている。
  5. ^ 等しければ、明暗の帯や画像のゆがみの位置は画面上で固定される。
  6. ^ FM変調では、変調前の信号の周波数が高くなるに従って復調後の信号に現れるノイズが増加するという特性を持っている。そのため変調前の信号の高域を強調しておき、復調後に高域を減衰する事でノイズレベルも同時に低下させるプリエンファシス/ディエンファシス処理がラジオ放送その他で一般的に行われている。
  7. ^ ただし周波数変移はFMラジオの±75kHzからTVでは±25kHzに狭まっているため、音量は1/3となる。
  8. ^ NHKの全放送局、サンテレビ放送大学などは停波直前にコールサインを読み上げていない。

出典

  1. ^ see FCC Code of Federal Regulations Title47 Part73 Section699 figure7 .
  2. ^ 大塚吉道「NTSC-フイールド周波数59.94Hz, 1000/1001の秘密-」『映像情報メディア学会誌』第54巻第11号、2000年、1526-1527頁、doi:10.3169/itej.54.1526 
  3. ^ アナログテレビ放送 “終了”1カ月前倒し/NHK・民放計画 映像やめ音声のみ
  4. ^ 7月1日以降のアナログ放送で画面左下に停波告知-画面の1/9で「アナログ放送終了まであと○日」 - AV Watch2011年6月17日
  5. ^ 総務省ウェブページ 「地上デジタル放送受信のための支援(簡易チューナー無料給付等)」


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