NTSC 詳細

NTSC

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/21 05:19 UTC 版)

詳細

白黒テレビジョンとの互換性

白黒テレビとの後方互換性を維持するため、以下の基本諸元を引き継いでいる。

表示画面の縦横比は縦3:横4
番組は生放送だけでなく、画面の縦横比は録画放送にも対応する必要があり、記録媒体の規格に合わせて縦横比が決められた。1940年代当時は動画を記録できる媒体がフィルムしかなく、映画フィルムのスタンダード比率と等しくされた。
走査線数は525本、2:1インターレース
水平走査フリーラン用発振を電源周波数の逓倍で作れるよう、比較的小さな奇数525=3×5×5×7とした。60Hz×525=31500Hzを双安定マルチバイブレータで1/2分周した相補出力の矩形波積分器に通して相補出力の鋸歯状波を得て上昇ランプ側の波形だけを選択し、放送波を受信していない時にも水平偏向系を駆動する。また525本という数字は後述する通り、当時の16mm映画フィルムと同等の画質を実現しようという目標に沿ったものでもある。水平走査線525本の全てが映像表示に使えるわけではなく、垂直帰線にともなうブランキング期間を差し引いた485本のうちオーバースキャン率90%を考慮した436本あまりがブラウン管上に表示可能な走査線数となる。更に、画像を走査線の集まりとして描いている影響[注釈 1] がもたらすケル係数を掛け合わせて、視覚上の垂直解像度は436×0.7≒305本程度まで低下する。画面縦横比3対4で水平方向に400ラインペアの解像度を要求すると、それにみあう垂直解像度300本以上をどうにか満たす数字となる。
飛び越し走査を採用した理由は、当時唯一の実用表示デバイスであったブラウン管の特性に依る。ブラウン管においては発光しているのは電子ビームが当たっている一点のみであり、例えば垂直走査の終わるまぎわ、画面の下部にある走査線を描いている頃には画面上部の領域は蛍光体の残光も消尽して暗くなってしまい毎秒30フレーム程度の描画では視聴者にフリッカーを認識させてしまう事が分かっていた。だからといって毎秒60フレームで走査線525本の表示を実現しようとすると後述する通りの計算をした場合、映像信号の帯域幅が9MHz弱、放送チャンネルは10MHz幅近くもの膨大な周波数資源を浪費してしまう。
そこで1枚のフレームを2フィールドに分け、第一フィールドでは1/60秒の間に1,3,5,7…本目の走査線を、次の第二フィールドでは同じく1/60秒間に2,4,6,8…本目の走査線を一本おきに描画して目の残像作用により1/30秒で1枚のフレームを合成する飛び越し走査が採用された。飛び越し走査により動きのある映像ではラインフリッカーが発生するため、テレビカメラにはこれを軽減する光学的ローパスフィルターが挿入される。垂直解像度はケルファクターによる低下に加えて更に減少するが、毎秒60フレームで表示したのと同等の滑らかな動きとフリッカーの少ない表示品質を限られた信号帯域で実現できる利点の方を重視した。
基準となるブランキングレベル 0Vを0IRE、輝度100%時の電位を100IREとしたとき同期信号のレベルは-40IRE
同期信号とは水平同期信号と垂直同期信号の総称で一続きになって送られてくる映像信号の水平位置と垂直位置の区切り、走査開始の基準となるタイミングを示すパルス状の電気信号である。受像機のブラウン管の水平/垂直走査駆動回路は水平同期信号を受信すると視聴者側から見て右端を照らしていた電子ビームを左端に戻し、垂直同期信号を受信すると下端の走査線を描いていた電子ビームを上端に戻す。戻しきった後は再び視聴者側から見て左から右へ、上から下へと電子ビームの偏向を開始する。映像信号と同期信号との明確な区別が付くよう、基準電位(ブランキングレベル)を0Vとしたとき映像信号は正電圧、同期信号は負電圧に振り向けている。垂直同期信号と水平同期信号との区別は、垂直同期パルスが水平走査線周期の3倍の長さを持っている事を利用して行う。
IREとは基準電位(ブランキングレベル)の0Vを0IRE、映像信号の輝度100%の時の電位を100IREとする相対値で同期信号の電位は-40IREと規定されている。つまり同期信号の底から最大輝度まで映像信号全体の振幅140IREを1V p-pとする場合、同期信号はブランキングレベル-286mV、映像信号の最大値は+714mVとなる。直流電圧を伝えられない伝送系を介する場合、また負電圧を扱えない単電源の増幅回路を使用する場合は同期信号の底のレベルもしくは水平同期信号直後のブランキングレベルを各々の機器で内部の基準とする電圧に揃えるクランプ回路を受信側に設けて限定的直流再生を行う。
表示に使うブラウン管の想定ガンマ値を2.2とし、送出側であらかじめ一括補正
ブラウン管も真空管の一種であり、制御グリッドに印加する電圧と表示光量とが直線比例していないという特性を持つ。増幅回路であればほぼ直線比例していると見なせる領域のみを使用し最も歪みの少ない動作点を選べば良いが、ブラウン管は最大輝度:電子ビーム電流最大から黒:電子ビーム電流ゼロまでの全動作領域を使用するため、どこかの段階で何らかの方法で補正してやらなければ画像が異様に暗く表示されてしまう。NTSCではブラウン管の発光輝度は制御入力電圧の2.2乗に比例すると想定して、カメラからの出力直後の段階で信号電圧を0.45乗してガンマカーブを補正してから放送を行っている。数億台分もの補正回路を各受像機毎に付けるより、放送事業者側で一括補正した方が受像機のコストダウンになる為である。
放送時の映像信号帯域は水平解像度にして約330本
当時の16mm映画フィルムと同等の解像度、400ラインペア程度を目標として設定された。水平走査線一本分の時間
NTSC放送波の1チャンネル中の周波数スペクトラム分布。なお、インターリーブ状の特性はこの図では表現されていない。
NTSCの信号のインタリーブ特性を持つスペクトラム分布(概念図)。横軸は周波数の相対値(0=映像搬送波周波数)、縦軸は信号強度、緑線は輝度信号、赤線は色差信号、青線は音声信号の強度を示す。

前節で述べた白黒放送の諸元に対し、カラー放送では色差情報(クロマ信号)を付加する為の色副搬送波(周波数 fsc で示す)を追加した他、水平同期周波数 fh と映像 - 音声搬送波周波数の差 fa が整数倍の関係になるよう変更している。

  • ゆえに、MHz±10Hz(…MHzの循環小数になる)
  • (なお、MHz〈白黒放送の fh=15.750kHz に比べて0.1%の差異〉)

水平同期周波数 fh を変更した理由は、NTSCの輝度信号のスペクトルのピークが fh 間隔で存在し、輝度信号スペクトルと音声信号スペクトルの谷間に色副搬送波スペクトル(こちらもピークが fh 間隔で存在する)のピークが来るようインターリーブさせることで相互妨害が最小で済むような形で合成するためである[2]。当時のテレビ受像機は音声再生にインターキャリア方式を使っていたため、fa を変更すると音声再生に支障が発生することから fh の値を変更した。これに伴って垂直同期周波数は60HzからHzに、フレームレートも毎秒30枚から枚へと0.1%ずつ低下するが、大部分がアナログ回路で構成されている垂直および水平偏向系にとっては製造誤差を見込んだ引き込み範囲内に収まる変更であり、既存の白黒テレビジョン受像機を改造調整することなくカラー放送の輝度信号部分を受信可能にしている。また、NTSC方式カラーテレビジョン受像機においても従来の白黒放送を受信可能としている。

色差信号を解読しない白黒テレビ受像機では輝度信号に加算されたクロマ信号は単なる妨害信号(ノイズ)となり、非常に細かい波状の明暗ビートとして画面に表示される。色副搬送波の周波数を水平同期周波数のの奇数倍、映像信号帯域上限(約4.2MHz)に近い数値にしたのはこの妨害ビートが出来るだけ細かくなるよう、さらに市松模様状に規則正しく並んで適正視聴距離[注釈 2] 以遠まで離れて見ると模様が潰れて平均化されて目立たなくなるように考慮して設定された値であり、映像信号帯域の4.2MHzからクロマ信号側帯波の帯域を0.5MHz以上確保した3.579545MHzに定められている。家庭用テレビに接続可能な、ゲーム機、パソコンなどではこの周波数がシステム全体のクロックとして流用され、MSXや、SEGAのゲーム機など、CPUの規定周波数とは異なる、3.579545MHzで動作する機種が多く生まれた。(ゲーム機やMSXなどは、厳密にはNTSCとは規格が異なる映像信号を出力する)

各色カメラの出力信号から輝度信号Yと色度信号I・Qを生成する

被写体で反射しビデオカメラレンズに入射してきた光はダイクロイックプリズムまたはカラーフィルタによって赤・緑・青の各波長毎の像に分解され、レンズの焦点距離にある撮像面の撮像素子(かつては撮像管、近年は固体撮像素子)に像を結ぶ。撮像面上に投影された像は、撮像素子の光電効果もしくは微小フォトダイオードによって光の強弱を2次元平面上の電位の高低や抵抗値の高低へと変換され、水平および垂直走査によって走査線毎に分解された線順次(1次元の)電位信号として取り出されてくる。

輝度信号Yと色度信号I・Qはこの赤緑青各色のカメラから出力される色信号にガンマ補正を施し、重み付けを行って加算する事で生成する。ブラウン管などの表示装置に使用される三原色のISO/CIE 10527 色度図座標を

  • 赤 x=0.670 y=0.330
  • 緑 x=0.210 y=0.710
  • 青 x=0.140 y=0.080

と想定し、無色の「白」を意味する信号を送出した時に受像機側で表示される光をCIE標準光源Cの座標

  • 白 x=0.3101 y=0.3162

に設定して、これらの色に合致させた各色カメラからの出力色信号 赤:R 緑:G 青:B を0 (0IRE) - 1 (100IRE) の範囲に正規化したとき、

  • Er =
  • Eg =
  • Eb =

の様にガンマ補正を行い、7.5IREのセットアップレベル(最低輝度の「黒」を規定する信号レベル)を加算

  • E'r = 0.925Er + 0.075
  • E'g = 0.925Eg + 0.075
  • E'b = 0.925Eb + 0.075

したものを

  • Y = 0.299 E'r + 0.587 E'g + 0.114 E'b
  • I = 0.5959 E'r - 0.2746 E'g - 0.3213 E'b
  • Q = 0.2115 E'r - 0.5227 E'g + 0.3112 E'b

というマトリクスを実現する回路で変換を行う。受像機側では上記マトリクスの逆行列に相当する変換回路で輝度信号Yと色度信号I・Qから赤緑青の各色信号を復元し、表示装置を駆動する。

ただし上記三原色の色度図座標で発光する蛍光体は輝度が非常に低い物しか存在せず、現実のブラウン管では別の色で発光する蛍光体で代用し、色再現の差異は受像機側マトリクスの係数を変更して吸収している。

また、SMPTE-170Mでは「白」の座標は標準光源D65のx=0.3127 y=0.3290に変更され、三原色の座標もガンマ補正時の処理もセットアップレベルを加算する段階も1953年の規格制定当時の物とは内容が異なっている。詳細は当該規格参照。

I・Q信号の生成

オレンジから水色の色差を表すI信号は基準となる色副搬送波から57度遅れた位相を持つ搬送波で平衡変調し、青紫から黄緑の色差を表すQ信号は同じく147度遅れた(I信号から更に90度遅れた)搬送波で変調をかけて加算し、クロマ信号を生成する。クロマ信号は、簡単に言えば基準となる色副搬送波との位相差が色相を、振幅が彩度を表すベクトル信号である。受信側で色差信号の復調を行う際のよりどころとなる位相と振幅の基準信号は、水平同期パルス立ち上がり直後のブランキングレベル区間(バックポーチ)に挿入されている。このカラーバースト信号は、水平同期パルス立下り50%エッジ[注釈 3] から色副搬送波19サイクル(約5.3μ秒)後に始まる持続時間9±1サイクルの色副搬送波で構成され、振幅は垂直・水平同期信号と等しい40IRE p-pと規定されている。

I・Q信号を復調し、色(クロマ)信号にする

受像機側での復調時にはカラーバースト信号と同じ位相同じ周波数に同期させた連続波発振器(多くの場合、水晶振動子が用いられる)を駆動し、各々57度と147度遅らせる移相器を通した2種類の局部発振信号を得て映像信号から分離したクロマ信号を同期検波してI・Q信号を復元する。

尚、EI色度信号は色副搬送波信号3.579545MHzを中心とした下側波帯が1.5MHz・上側波帯が0.5MHzの周波数占有帯域幅であるが、EQ色度信号は下側波帯が0.5MHz・上側波帯も0.5MHzとなっており占有帯域幅が異なる。このため回路内で帯域幅が広いEI色度信号はEQ色度信号よりも僅かに遅れてしまう。これを補正するためにI復調回路の出力信号はディレーライン(遅延線輪)を通して時間補正し、更にディレーライン通過時の利得損失を補うEI色度信号増幅回路を経てからアーダー(信号加算回路)に入れる必要がある。

I復調回路からは極性が互いに逆の+EI色度信号と-EI色度信号が、同様にQ復調回路からは+EQ色度信号と-EQ色度信号が出力される。これら4色度信号は赤緑青用の各アーダー(信号加算回路)で比率制御された上で輝度信号+EY信号と共に加えられ、赤緑青の各色信号を再現する。
1.00EY+0.96EI+0.63EQ=ER、1.00EY-0.28EI-0.64EQ=EG、1.00EY-1.11EI+1.72EQ=EBとなり色信号が再生される。

帯域フィルター

SMPTE-170Mでは色差信号としてを合成しU信号は180度、V信号は90度遅れた色副搬送波で変調してクロマ信号を生成する方法を第一に挙げている。一方、I・Q信号でクロマ信号を生成する旧い1953年版規格の機器も継続使用が認められている。最終的に生成されるクロマ信号は両者の間に大きな違いは無いが、唯一Q信号の帯域制限を行うローパスフィルターの特性だけが0.5MHzで6dB減衰と狭くなっている(U・VおよびI信号は1.3MHzまで減衰量2dB以下、3.6MHzで20dB以上)。

そのため、受像機側では新旧どちらの規格で作られた映像信号が来ても問題ないように、色差信号復調前後のフィルター特性はQ信号のそれに合わせて狭帯域 (0 - 0.5MHz) で実装するのが安全であると考えられている。実際、音声搬送波がクロマ信号に与える妨害ビート約920kHzを回避するため同時にコストダウンの目的もあって市販受像機ではクロマ帯域のフィルターを狭帯域の物のみで済ませており、I信号を広帯域1.3MHzまで復調している例は稀有である。

色差信号による色(クロマ)信号の復調

I・Q復調方式によるカラーテレビ受像機は放送局から送信されてきた信号を全て利用し忠実な色を再現できるが、占有帯域幅が広いI信号を占有帯域幅が狭いQ信号の伝達速度に合わせるための遅延線輪(ディレーライン)及び、EI色度信号増幅回路が必要であると共に回路が複雑で高価になる。(1990年代に、三菱電機から「29C-CZ1」などCZシリーズとして「自然の色」を再現する機能を搭載したテレビが発売された。これがIC・トランジスタ化後、日本国内で販売された唯一のI・Q復調方式カラーテレビである。)

このため実際に市販された大半のカラーテレビでは色信号に関しては3.579545MHzを中心とした±0.5MHzのみを表示している。

真空管時代は、I・Q軸ではなくI軸寄りの位相のX軸、及びQ軸に近い位相のZ軸から成る2軸復調が主流であった。この方式は、X復調回路から出力されるEX信号をER-EY増幅管の第1グリッドに、Z復調回路から出力されるEZ信号をEB-EY増幅管の第1グリッドに送り出す。(EG-EY増幅管の第1グリッドはER-EY、EB-EY増幅管と同様にバイアス抵抗によりアースされているが、X復調回路、及びZ復調回路の出力とは繋がっては無く無入力となっている。)
尚、ER-EY、EG-EY、EB-EYの各色差信号増幅管のカソードは一点結合しており3管共有のカソード抵抗(この抵抗の両端に生じる電圧をEKとする。これは各色差信号増幅管のグリッドに対して-EKとして加わる。)
各色差信号増幅管の増幅率をAとすると。色差信号ER-EY出力管の出力電圧は、

-A(EX-EK)=ER-EY (真空管ではグリッドにはマイナス電圧で入力するが、プレートからはプラス電圧で出力されるため極性の逆転が起きる。このため色差信号増幅管の増幅率を「-A」とする。)同様に-A(EZ-EK)=EB-EY となる。
一方、色差信号EG-EY増幅管の第1グリッドにはEX、EZのいずれの信号も入らず共有カソード抵抗により生じた「-EK」のみが入力され、-A(-EK)=EG-EYとなる。(ここで、EKの位相はEG-EYの位相と一致する必要がある。そのため-EXと-EZの合成ベクトル位相がEG-EYの位相と一致する様にX軸及びZ軸は設定されている。)

これら各色差信号はカラーブラウン管の赤緑青の各色差信号用グリッドに加わる。一方カラーブラウン管のカソードには輝度信号の極性を±反転させた「-EY信号」が加わる。これはブラウン管の各三色各色差信号用グリッドに対しては更に極性逆転して+EY信号として加わる。
これによりカラーブラウン管内部において、(ER-EY)+EY=ER、(EG-EY)+EY=EG、(EB-EY)+EY=EBの赤緑青の各色信号が再現されこれに基づいて三色の電子ビームの強さを制御しカラー画面をブラウン管上に再現する。

尚、IC・トランジスタが普及するとX軸・Z軸復調方式から次第に直接、色差信号のER-EY、EB-EYを復調する「ER-EY・EB-EY 2軸復調方式」が主流となる。
この方式では色差信号EG-EYを復調しないがER-EY、EB-EYの各色差信号をEG-EY増幅トランジスタのベースに
-0.51(ER-EY)-0.19(EB-EY)=EG-EY として入力しコレクタ出力再現する。

更にER-EY、EG-EY、EB-EY全ての色差信号を直接復調する3軸復調方式もあるが、これはバランスが取りにくく不安定なため余り普及しなかった。

復調側でのY/C分離

送出側で輝度信号Yとクロマ信号Cを合成する際は単純に加算するだけで済むが、受像機側でのY/C分離は現在に至るも完全な分離法は実現されていない。以下にいくつか方式を挙げるが、それぞれに利点・欠点を持つ。

周波数分離フィルタ

クロマ信号の主成分が約3 - 4.2MHzを占めている事に着目し、それ以下 (0 - 3MHz) の周波数帯には輝度信号しか含まれていないと見なしてローパスフィルタで輝度信号Yを抽出し、3 - 4.2MHzの領域はクロマ信号Cのみであるとしてバンドパスフィルタで分離する。

利点
部品点数が少なく、最もローコスト。受像機の画面サイズが小さい場合は、これでも十分な画質を提供出来る。
欠点
輝度信号の帯域が削られるため画像の水平解像度が330→240TV本程度に低下し、ぼやける。また現実には3 - 4.2MHzの領域にも輝度信号が含まれており、これを無理やりクロマ信号として処理するとクロスカラーと呼ばれる偽の色が付く現象が発生する。例えばニュース番組のアナウンサーのシャツやネクタイがストライプ柄であった場合、また重なり合う木々の枝を撮影した時などに本来は細かい白黒の縞模様で表示される筈の部分に奇妙にゆがんだ虹状の色が付いて見えてしまう。同様に2.3 - 3MHzの間にも色差信号の高周波部分が含まれており、これを輝度信号として処理すると例えば横方向に色が急激に変化するエッジ部分に粗い市松模様状の妨害が見えてしまう。なお安価にする為に部品点数を削り遮断特性を優先させたバンドパスフィルターはクロマ信号に位相歪みを発生させ、これは色相ずれに直結する。輝度信号のぼやけ対策として2.5MHz付近の増幅率を上げる対策が行われていた。

ライン相関を利用したクシ形フィルタ

上述した通り色副搬送波周波数は水平同期周波数の倍であり、言い換えれば1本の走査線は色副搬送波227.5サイクル分の時間で描かれるということである。走査線上のある1点に注目するとその直上や直下の走査線の同じ水平位置では色副搬送波は半サイクルずれ、位相が反転している。仮に1色で塗りつぶされている画像を撮影してNTSCの映像信号に変換したとき生成されるクロマ信号の振幅は一定になるが色副搬送波との位相差も一定になるので、当該画像のクロマ信号は直上直下の走査線と比較すると同じ水平位置では位相だけが反転していることになる。

自然画像を撮影し走査線で分解して映像信号にしたものを仔細に分析すると、直上直下の走査線ではあまり大きく内容が変わらず同じ水平位置では輝度・彩度・色相とも似通っている(ライン相関性が高い)場合が多い。そこで映像信号を正確に走査線1本分の時間(μ秒)遅らせる遅延回路を通した信号と現在送られてきている信号とを足し合わせると画面のほとんどの領域でクロマ信号は打ち消しあい、残った輝度信号だけが得られる。逆に過去の信号との差分を取ると輝度信号は差し引きほぼゼロになり、位相が反転しているクロマ信号だけが残留する。

遅延回路を用いたこのフィルタは遅延時間の逆数の整数倍の周波数で利得にピークができ、周波数特性グラフで見るとちょうど櫛の歯のようになっている事から、クシ形フィルタと呼ばれる。

利点
輝度信号を帯域制限せず分離することが出来、大画面に表示しても画像がぼやけず評価に耐える先鋭度を保つ。また、クロスカラーや色相歪みも周波数分離式に比べて少ない。
欠点
遅延回路用の部品と、その遅延時間を正確に水平走査線1本分の時間に調整するコストが製品に加算される。ライン相関性が低い領域では副作用も出る。例えば、斜め線の周囲に偽色がまとわりついたり星条旗の紅白の境目にドット妨害が残ったりする。また隣接ラインとの信号を単純に加減算すると画像が垂直方向にぼけ、水平方向だけはクッキリしたいびつな絵になってしまう。これらを解決するためには走査線間の相関性を検出し、相関性が低い場合は周波数分離に切り換える回路と水平走査線1本分の時間を更に遅らせた信号との3ライン間の比較演算により垂直解像度の低下を防ぐ回路が必要になる。そしてそれらの回路を追加実装すると、機器の価格は確実に上昇する。

フレーム相関を利用した3次元クシ形フィルタ(3D Y/C分離)

走査線1本ごとに色副搬送波の開始位相が半サイクルずつずれていくのは上述した通りだが1フレーム中の走査線数は奇数(525本)である為、画面中の任意の一点上における色副搬送波の位相はフレーム毎にも反転していることになる。したがって、正確に1フレーム分(ミリ秒)だけ映像信号を遅延できる回路を作成すればフレーム相関性を利用したY/C分離が可能になる。

「過去」の画面との比較を行うこのフィルターは2次元平面のフレーム画像を時間方向の次元で演算処理する事から、3次元クシ形フィルタと呼ばれる。

利点
ライン相関性を利用した物よりも、さらに精緻なY/C分離を行える。細かい模様上および斜め線の周囲の偽色や色の境界付近の色にじみやドット妨害が発生しない、理論上望みうる最高の画質を提供できる。
欠点
以上の利点は、フレーム相関性の極めて高い「まったく動いていない画像」の場合にのみ実現できる。そもそもテレビジョンは動いている画像を伝送表示するためのシステムであり現実の3次元クシ形フィルタではフレーム間の相関性を検出し、相関性が低い場合はライン相関によるY/C分離に切り換える(ライン相関も無い場合は、さらに周波数分離にフォールバックする)「動き適応回路」が必須になる。フレーム間の画像を単純に加減算すると時間方向の解像度が低下し以前の画面の映像が薄く残る残像現象が発生するので、この点からも動き適応回路の搭載は不可欠である。

なお、画面全体の映像信号を正確に1フレーム分遅延し得る回路の実現には、非常に複雑で大規模な画像処理装置が必要となり高速な半導体メモリとその大容量化・廉価化を待たねばならず民生家電製品に搭載できる所までコストが下がったのは20世紀も終盤になってからである。

ベースバンド信号での伝送

放送波への変調を行わずNTSCベースバンド信号を同軸ケーブルで外部の機器とやり取りする場合、入出力およびケーブルのインピーダンスは75Ωとし信号レベルを1V p-pとするよう規定されている。信号送出側/受入側とも直流伝送が可能な設計になっていればブランキングレベルを0V、同期信号レベル (-40IRE) を-286mV、映像信号の輝度100% (100IRE) を714mVとする。直流結合できない場合、もしくはどのような機器が接続されるのか確定出来ない場合は同期信号の底のレベルもしくは水平同期信号直後のブランキング期間の電圧を各々の機器内部で基準とする電圧に揃えるクランプ回路を受信側に設けて限定的直流再生を行う。

接続端子の形態は業務用機器ではインピーダンス75Ωに設計されたBNCコネクタ(通常のBNCコネクタは50Ω)と指定されているが、民生用機器ではRCA端子を使用するのが一般的である。

クロマ信号はNTSCベースバンド信号生成前の色差信号I・Q(又はU・V)の段階で最大1.3MHzの帯域制限フィルタがかけられているが輝度信号の帯域にはNTSC規格としての上限は設けられておらず、伝送路や記録再生機器の規格や性能によってのみ制限を受ける。たとえば放送波では4.2MHz(水平解像度約330TV本)の帯域が確保されており普及型家庭用VTRでは約2.5MHz(約200TV本)までの信号が録画再生可能であるる。レーザーディスクプレイヤーでは、4.5MHzの帯域が確保されていた。


注釈

  1. ^ 画像を水平走査線で分解するという事は、垂直方向にはサンプリング(標本化)を行っているのと等価であり、436本というのは白い水平線と黒い水平線を交互に並べた画像を白と黒の境目が走査線の境目と一致するように撮影した理想的な状況下での最大解像度である。撮影するTVカメラを上か下に1/2ラインずらした時の画像を想像してみて欲しい。一面灰色の、何も描かれていない絵が表示されてしまう事になる。またカメラのズームレンズをワイド側に引いて白と黒の周期を走査線の周期の等倍未満にするとナイキスト定理によるモアレが発生し、この場合も元の絵とかけ離れた画像になってしまう。
    RCA社のレイモンド・D・ケルはこの現象の調査の為、一般人を含む視聴者に様々な画像を見せて実験を行い人間が視認可能な垂直解像度は状況にも拠るが走査線数の64%(1934年調査) - 85%(1940年調査)になるという観測結果を得た。一本の走査線の中でも電子ビームが当たっている中央部が最も撮影時の感度が高く(表示時には明るく)中心から離れるにしたがって感度や輝度が漸減して行く撮像管撮影・ブラウン管表示システムでは低下の度合いが大きく約70%であるが、CCDCMOSといった撮像素子で光学像をとらえLCDプラズマディスプレイのような表示デバイスに映し出す場合は走査線の幅の下端から上端まで同じ感度を持ち同じ輝度で発光させられるためほぼサンプリング定理通りの90%程度まで向上する。
    なお、ケルの実験では全てプログレッシブスキャン(順次走査)で表示した画像を使って調査しており時折言われる「飛び越し走査を行う事で起きる(とされる)垂直解像度の低下現象」とケルファクターとは本来無関係である。
    参考:M. Robin, "Revisiting Kell", Broadcast Engineering, May 2003 & Kell, Bedford, Trainer, "An Experimental Television System : Part II - The Transmitter", Proceedings of the IRE, vol.22 issue11, page 1246-1265, 1934, ISSN 0096-8390
  2. ^ 走査線1本の幅が視角度1分(1/60度)未満になる距離。視力1.0の人物を標準的な視聴者として想定したとき、この人がこの距離よりもブラウン管から離れると画面上に並んだ走査線間の隙間が潰れ「走査線の集まり」ではなく「面」として認識されるようになる。画面縦横比3対4で総走査線525本、映像信号を含む事ができる有効走査線が485本、オーバースキャン率90%を考慮すると画面上に表示される走査線数は430本あまりになるNTSCの場合、画面対角線の長さの6倍とされている。
  3. ^ 水平方向の全てのタイミングの基準点。色副搬送波のゼロクロス(位相0度および180度)点もここに同期させている
  4. ^ 現代の16mm映画フィルムは、HDTVのそれを越える2000ラインペア以上の分解能を持っている。
  5. ^ 等しければ、明暗の帯や画像のゆがみの位置は画面上で固定される。
  6. ^ FM変調では、変調前の信号の周波数が高くなるに従って復調後の信号に現れるノイズが増加するという特性を持っている。そのため変調前の信号の高域を強調しておき、復調後に高域を減衰する事でノイズレベルも同時に低下させるプリエンファシス/ディエンファシス処理がラジオ放送その他で一般的に行われている。
  7. ^ ただし周波数変移はFMラジオの±75kHzからTVでは±25kHzに狭まっているため、音量は1/3となる。
  8. ^ NHKの全放送局、サンテレビ放送大学などは停波直前にコールサインを読み上げていない。

出典

  1. ^ see FCC Code of Federal Regulations Title47 Part73 Section699 figure7 .
  2. ^ 大塚吉道「NTSC-フイールド周波数59.94Hz, 1000/1001の秘密-」『映像情報メディア学会誌』第54巻第11号、2000年、1526-1527頁、doi:10.3169/itej.54.1526 
  3. ^ アナログテレビ放送 “終了”1カ月前倒し/NHK・民放計画 映像やめ音声のみ
  4. ^ 7月1日以降のアナログ放送で画面左下に停波告知-画面の1/9で「アナログ放送終了まであと○日」 - AV Watch2011年6月17日
  5. ^ 総務省ウェブページ 「地上デジタル放送受信のための支援(簡易チューナー無料給付等)」






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