Mi-24 (航空機) 概要

Mi-24 (航空機)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/17 06:59 UTC 版)

概要

キーウの大祖国戦争歴史博物館に展示されるMi-24V

1978年以来、ソビエト連邦国内で約2,000機が製造され、30ヶ国以上に約600機が輸出された。ソ連のパイロット達の愛称は「Крокодилクラカヂール」(クロコダイルロシア語読み)であった。

Mi-25は、Mi-24Dの輸出向けダウングレード型であり、Mi-35は同様にMi-24Vをダウングレードした機体であるが、Mi-35Pなどダウングレード型ではない発展型もある。

Mi-24は、汎用ヘリコプターであるMi-8を原型として開発された、ソ連初の攻撃ヘリコプターである。この種の「攻撃ヘリコプター」としては異例の大型機であるが、これは強力な武装で地上を制圧しつつ搭乗させた歩兵部隊を展開してヘリボーン任務を行うことを想定して開発されたためで、歩兵戦闘車ヘリコプター版ともいえるコンセプトである[注 1]。しかし、戦闘輸送という二つの役割を一機に担わせる設計は、結果的に悪い折衷になってしまったことから、後継機であるMi-28Ka-50/Ka-52は、より対地攻撃に特化したものとなった。

開発

リガで展示されるMi-24A

Mi-24の設計は、アメリカ軍AH-1 コブラなどを比較対象としながら、1968年に始められた。なお、Mi-24はミル設計局創設者のミハイル・ミーリが自ら設計に関わった最後の機体である[1]

最初の量産型であるMi-24Aは、1970年に評価版として納入されたが、旋回が遅い、照準器のトラブルが多発する、並列配置の座席のため視界が悪いなど多くの問題を抱えていた。また、3人乗りのコックピットはガラス張りの部分が大きかったため防御力に不安があった。機体前部の設計が大幅に見直されて縦列複座となり、その他の問題が解決されたのがMi-24Dエンジンの変更などで決定版となったのがMi-24Vである。武装強化型のMi-24Pでは旋回式の12.7mm 4銃身ガトリング機銃の代わりに固定式の30mmガスト式機関砲が装備された。

1995年に導入された最新型のMi-24VMは、軽量のファイバー製メインローターとテイルローターにより、全体的なパフォーマンスが向上し、夜間作戦用などのアビオニクスも一新された。耐用年数やメンテナンス性も向上しており、2015年までの運用が予定されている。

機体

国家人民軍航空軍のMi-24Dの後席コックピット
ナイジェリア空軍英語版のMi-24Vの前席コックピット。後席と同様に操縦桿がある。座席の正面にあるのは機関砲・ロケット弾用の光学照準器で、座席右側前方のスコープは9K114シュトゥルム対戦車ミサイル・コンプレックス用の照準器。中央上に扇風機がある。

Mi-24は前述のようにMi-8を原型として開発された機体で、機体上部に搭載された2基のターボシャフトエンジンが、直径17.3m、5枚羽のメインローターと3枚羽のテイルローターを駆動させる。テイルローターは、Mi-24Aの後期型からは取り付け向きがMi-17同様逆になっている。また飛行時の横流れ傾向を補正するため、メインローターは胴体ごと右に2.5度傾けている。この為正面からだとスタブウィングを含めアンバランスに見える。

既知の問題としては、Mi-24Aは1969年のテストフライトで、機体を傾けた急な旋回中に揚力を失って大きく横揺れすることが判明したが、その後の改良を経てもこれは完全には解決していない。もう一つの欠点として、激しい機動を行った際に、高荷重によりメインローターが機体の尾部を打つ可能性があった。また、最大限に積載した場合、垂直に上昇することができず、転移揚力を利用した短距離の滑走をしながら離陸しなければならない。

機体の中腹にあるスタブウィングは、19度の後退翼で12度の下反角がかかっており、時速270km以上での飛行の際は20%の揚力を産む[1]。スタブウイングには兵器搭載装置がそれぞれ3基ずつあり、物資を吊り下げることもできる。

大型で大重量の機体は、純粋な戦闘任務に用いるには持久性と機動性を削ぐことになる。兵員室を配置する都合上機体上部に並列に配置されたエンジンは、一発の被弾で両方のエンジンが破壊される可能性を高め、生存性に大きな問題を残すこととなった。防御能力に不安のあったMi-24Aの反省から、Mi-24D以降の型は非常に重装甲な機体構造となっており、チタニウム製のローターは、12.7mm弾の直撃にも耐えることができる。

Mi-24D以降の機体は、縦列複座のタンデム形状のコックピットと、その上部にある横に2つ並んだ空気取り入れ口(エアインテーク)が特徴的である。コックピットの配置は、前席が射手兼副操縦士、後席が操縦士で、前席にも操縦装置や無線機があるが、操縦桿やペダルは折り畳み可能で兵器操作に専念することができる。ガラスは前席の前方のみ防弾ガラスで、ほかは有機ガラスである。空調装置は無いが、前席には扇風機がある[1]

前述のように中央部に兵員室があり、フライトエンジニア1名と完全武装した兵員8名を搭乗させることができるほか、最大で1.5tの物資を搭載可能である。兵員室の扉は上下に分割されており、上半分にある窓を開けて射撃が可能なほか、下半分は乗り降りの際のステップを兼ねる。また、高高度飛行とNBC(生物化学)戦に備えて、コックピットと兵員室は与圧されている[1]

着陸脚は、引き込み可能な3輪式だが、改良型のMi-35では重量軽減と強化のために固定脚のタイプもある。


注釈

  1. ^ 旧西側の(対地攻撃に特化した)攻撃ヘリコプターと区別するため、「強襲ヘリコプター」と呼ばれる事もある。ただし、旧西側においても、シコルスキー S-67アメリカンエアクラフト ペネトレーターのように「歩兵部隊(もしくはコマンド部隊や特殊部隊)の搭乗が可能な攻撃ヘリコプター」というコンセプトは存在していたが主流とはならなかった。

出典

  1. ^ a b c d e f g h i 徳永克彦英語版/DACT:写真「Tiburones dal aire」『航空ファン』通巻814号(2020年10月号)文林堂 P.22-29
  2. ^ a b c Mil Mi-24 - NATO code: HIND”. Ministry of Defence of the Czech Republic. 2023年5月10日閲覧。
  3. ^ a b c d e Mi-24 Hind”. greg goebel. 2023年5月10日閲覧。
  4. ^ 井上孝司「航空最新ニュース・海外軍事航空 ロシア機最新事情Tu-95MSMとMi-35P」『航空ファン』2020年10月号 文林堂 P.115
  5. ^ Cooper, Tom; Bishop, Farzad (9 September 2003). "I Persian Gulf War: Iraqi Invasion of Iran, September 1980". Air Combat Information Group.
  6. ^ Yakubovich, Nikolay. Boevye vertolety Rossii. Ot "Omegi" do "Alligatora" (Russia's combat helicopters. From Omega to Alligator). Moscow, Yuza & Eksmo, 2010, ISBN 978-5-699-41797-1, pp.164–173.
  7. ^ Goebel, Greg (16 September 2012). "Hind in Foreign Service / Hind Upgrades / Mi-28 Havoc". The Mil Mi-24 Hind & Mi-28 Havoc.
  8. ^ Mi-24/-35 ハインド』イカロス出版、Tōkyō、2016年。ISBN 978-4-8022-0258-9OCLC 967549340https://www.worldcat.org/oclc/967549340 
  9. ^ [1][リンク切れ]
  10. ^ [2]
  11. ^ Helicopter shot down in Somalia
  12. ^ Russian Fighter Aircraft Arrive in Syria”. Stratfor. 2015年10月26日閲覧。
  13. ^ 井上隆司「航空最新ニュース・海外軍事航空 ミャンマー空軍 式典で新型機を披露」『航空ファン』通巻807号(2020年3月号)文林堂 P.115





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