液性免疫 液性免疫の概要

液性免疫

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/07 20:13 UTC 版)

免疫学における中心的な科学は、免疫系を構成する分子細胞成分を、その機能や相互作用を含めて研究することである。免疫系は、より原始的な自然免疫系 (英語版と、脊椎動物獲得免疫または適応免疫系 (英語版に分けられ、それぞれに液性免疫と細胞性免疫の要素が含まれている。

液性免疫とは、抗体産生とそれに付随する次のような同時発生プロセスを指す: Th2細胞活性化とサイトカイン産生、胚中心形成とアイソタイプスイッチング親和性成熟メモリー細胞生成。抗体のエフェクター機能として、病原体毒素中和、古典的補体の活性化、オプソニンによる食作用や病原体排除の促進がある[1]

歴史

液性免疫の概念は、血清成分の抗菌活性の分析を基に発展した。体液性理論の発展において、ハンス・ブフナー英語版がその功績を認められている[2]。1890年、ブフナーは、血清などの体液中に存在し、微生物を死滅すること能力を持つ「保護物質」を「アレキシン」と表現した。アレキシンは、後にパウル・エールリヒによって「補体」と再定義され、細胞性免疫と液性免疫の組み合わせにつながる自然応答の可溶性成分であることが示された。この発見によって、自然免疫獲得免疫の機能を橋渡しをすることができた[2]

1888年にジフテリア破傷風の原因となる細菌が発見された後、エミール・フォン・ベーリング北里柴三郎は、病気の原因が微生物そのものではないことを示した。彼らは、病気を引き起こすのには、細胞を含まない濾液(ろえき)で十分であることを発見した。1890年、後にジフテリア毒素と命名されたジフテリアの濾液を動物のワクチン接種に使用し、免疫血清に毒素の活性を中和する抗毒素が含まれており、免疫を持たない動物にも免疫を移すことができることを実証しようとした[3]。1897年、パウル・エールリヒは、植物の毒素であるリシンアブリン英語版に対して抗体ができることを示し、これらの抗体が免疫の主体であると提案した[2]。エールリヒは同僚のフォン・ベーリングとともにジフテリア抗毒素の開発を続け、これが現代の免疫療法の最初の大きな成功となった[3]。特定の適合性がある抗体の発見は、免疫の標準化と長引く感染症の特定のための主要なツールになった[3]

液性免疫の研究における主な発見[3]
物質 活動性 発見
アレキシン/補体 血清中の可溶性成分。
微生物を死滅させることができる。
ブフナー (1890),
エールリヒ (1892)
抗毒素 毒素の活性を中和することができる
血清中の物質で、受動免疫を可能にする。
フォン・ベーリングと
柴三郎 (1890)
溶菌素英語版 補体タンパク質に働きかけて
溶菌を誘発する血清物質。
ファイファー (1895)
細菌凝集素英語版
および
細菌沈降素英語版
細菌を凝集させたり、
細菌の毒素を沈殿させる血清物質
グルーバー英語版
ダーハム英語版 (1896),
クラウス英語版 (1897)
溶血 補体に働きかけて赤血球を溶血させる血清物質 ジュール・ボルデ (1899)
オプソニン 異物の外膜を覆い、マクロファージによる
食作用を早める血清物質
ライト英語版
ダグラス英語版 (1903)[4]
抗体 最初の発見 (1900), 抗原-抗体結合仮説 (1938),
B細胞による生成 (1948), 構造 (1972),
免疫グロブリン遺伝子 (1976)
エールリヒ[2]

抗体

免疫グロブリンは、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する糖タンパク質で、抗体として機能する。抗体(antibody)と免疫グロブリン(immunoglobulin)という言葉は、しばしば同じ意味で使われる。これらは、血液や組織液、また多くの分泌物に含まれている。構造的には、大きなY字型の球状タンパク質である。哺乳類には、IgAIgDIgEIgGIgMの5種類の抗体がある。それぞれの免疫グロブリンクラスは、その生物学的特性が異なり、異なる抗原に対処するために進化してきた[5]。抗体は、免疫系のB細胞に由来する形質細胞によって合成され分泌される。

抗体は、細菌やウイルスなどの異物を識別して中和するために、獲得免疫系によって使用される。それぞれの抗体は、その標的に固有の特異的抗原を認識する。抗体は、特定的抗原と結合することによって、抗体-抗原産物の凝集や沈殿を引き起こしたり、マクロファージや他の細胞による食作用を促したり、ウイルス受容体を遮断したり、補体経路などの他の免疫応答を刺激するなど、さまざまな働きを持つ。

不適合な輸血を行うと、液性免疫応答を介した輸血反応が起こる。急性溶血反応と呼ばれるこの種類の反応は、宿主の抗体によってドナーの赤血球が急速に破壊(溶血)される。その原因は通常、間違った患者に間違った血液単位を投与してしまうなどの誤記である。症状は発熱と悪寒で、時には背部痛と、ピンクまたは赤色の尿(血色素尿症)を伴う。主な合併症は、赤血球の破壊によって放出されるヘモグロビンによって引き起こされる急性腎不全である。


  1. ^ a b c Janeway CA Jr (2001). Immunobiology. (5th ed.). Garland Publishing. ISBN 0-8153-3642-X. https://archive.org/details/immunobiology00char 
  2. ^ a b c d Metchnikoff, Elie (1905) Immunity in infectious disease (Full Text Version) Cambridge University Press
  3. ^ a b c d Gherardi E. The experimental foundations of Immunology Archived 2011-05-30 at the Wayback Machine. Immunology Course Medical School, University of Pavia.
  4. ^ Hektoen, L. (1909). Opsonins and Other Antibodies. Science, 29(737), 241-248. http://www.jstor.org/stable/1634893
  5. ^ Pier GB, Lyczak JB, Wetzler LM (2004). Immunology, Infection, and Immunity. ASM Press. ISBN 9781683672111 
  6. ^ Boundless (2016-05-26). “Humoral Immune Response” (英語). Boundless. オリジナルの2016-10-12時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20161012223311/https://www.boundless.com/biology/textbooks/boundless-biology-textbook/the-immune-system-42/adaptive-immune-response-234/humoral-immune-response-875-12125/ 2017年4月15日閲覧。. 


「液性免疫」の続きの解説一覧




液性免疫と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「液性免疫」の関連用語

液性免疫のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



液性免疫のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの液性免疫 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS