バグダード 名称と表記

バグダード

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/12 07:35 UTC 版)

名称と表記

アラビア語

文語アラビア語(フスハー)の表記と発音(بَغْدَاد, baghdād, バグダード)に忠実なカタカナ表記はバグダードで、アクセントは後半のダー部分に置かれる。

音声サンプル:アラビア語での発音

英語

原語アラビア語で含まれる長母音ā部分が短母音a化した発音が行われている[2]

  • UK:/bægˈdæd/(バグダド)
  • US:/ˈbæg.dæd/(バグダド)

日本語

日本における中東関連学界の標準的カタカナ表記はバグダードが標準となっている。

一方メディアや一般向け書籍・記事では英語発音同様長母音を含まず、かつ外来語への当て字で多い-dad部分への促音「ッ」挿入によりバグダッドとカタカナ表記されることが今でも広く行われている。

概要

ハイファ通り

バグダードは、2003年3月のイラク戦争アメリカ合衆国イギリス両国を主力とする軍の攻撃を受け、同年4月に制圧されたのち、連合国暫定当局(CPA)本部が置かれた[3]。その後、2004年6月にはイラク暫定政権への主権移譲がなされ、イラク移行政府を経て2006年にはイラク正式政府が成立し、現在に至っている。

人口増加が著しく、2025年に806万人、2050年に1509万人、2075年に2439万人、2100年の人口予測では3410万人を数える世界21位の超巨大都市となる予測が出ている[4]

名前

諸説あるバグダードの名前の由来に、ペルシア語の「神の都」がある。アッバース朝のマンスールが定めたこの名前は古代ペルシアの影響を反映したものであり、アラビア語の مَدِينَةُ السَّلَامِ(madinat al-salām, マディーナト・アッ=サラーム / マディーナ・アッ=サラーム:「平和の都」) が今でも硬貨に残る公式名である。

立地と地理概況

バグダードは、イラク共和国の中央やや東寄りにあり、メソポタミア平原のほぼ中央、ティグリス川中流の河畔に位置する。その西を流れるユーフラテス川は同市付近でもっとも接近し、バグダードの南西約40キロメートルを南東方向にむけ流下している。

バグダードの市街地は、蛇行するティグリス川の両岸にひろがっている。左岸(東岸)にはラシード通りやバザール(市場)、諸官庁および在外公館、旧王宮カージマイン・モスク英語版、民族解放記念碑、バグダード大学、銀行、また、ホテルレストラン、新住宅地などがあり、右岸(西岸)には空港テレビ局、大統領府や議事堂、バグダード中央駅、病院、高級住宅街などがある[3]。歴史的には西岸が古いものの、東岸より先に荒廃し、むしろ東岸に古さが残っている[5]。なお、かつての環状都市は現在その痕跡をとどめていない[5]


注釈

  1. ^ 中世ヨーロッパでは長いあいだバグダードは王都バビロンと同一であると誤認されていたが、イスラーム以前のバグダードは定期市がひらかれる一集落にすぎなかった。
  2. ^ 「羊の家」をあらわすアラム語語源であるという異説もあって、一定しない。
  3. ^ 初代のサッファーフは、いわゆる「アッバース革命」の成功によりクーファで即位した。サッファーフは、クーファから北方のハーシミーヤ、さらにはバグダード西方のアンバールに都を遷した。第2代カリフのマンスールはサッファーフの兄にあたり、いったんはハーシミーヤに復都したものの、その地は、マラリアを媒介するが多く、また、多数のシーア派住民が住むクーファに近く政情不安が懸念されたので新都の建設が求められた。
  4. ^ 円城都市にはメディア王国の首都エクバタナ(現在のハマダーン)やサーサーン朝の都市グール(現在のフィールザーバード)など古代オリエント以来の伝統がある
  5. ^ アラブ大遠征以降、軍団内でのアラビア半島出身者のアラブ人兵士の重要性が減じ、かわってホラーサーン地方出身者の軍人やその他の側近軍団、9世紀以降はトルコ系の奴隷軍人(マムルーク)が軍の主力をになうようになった。
  6. ^ 舟橋はのちに上流と下流にも1つずつつくられた。これは、河中に杭を立てて舟をつなぎあわせ、その上に板を敷いてつくられていた。
  7. ^ 「マディーナ・アッ=サラーム(平安の都)」はマンスールによる命名。天国を意味する「ダール・アッ=サラーム(平安の館)」が意識されたものといわれるが、実際には従来よりの呼称バグダードが多用された。なお、中国では代以降「白達」と表記され、イタリア語ではバルダッコ(Baldacco)の名で知られた。
  8. ^ 『千夜一夜物語』は単にお伽噺のみならず、史実にもとづいた物語を数多く含んでいるとみられている。しかし、後世換骨奪胎してつくられた話やハールーンに仮託された話も多く、その場合はハールーンを主人公とし、バグダードを舞台としておりながらも実際の細部の地理などについては不正確なことも多い。
  9. ^ 好色な場面はハールーンが登場人物となることが多いところからバグダード起源の説話が多く、悪漢の登場する説話はカイロ起源のものが多いと考えられている。
  10. ^ イスラーム商人の活動領域はきわめて広大であり、北はロシアスカンジナビア半島、南はインド洋やアフリカ大陸東岸、東は南シナ海沿岸、西は大西洋沿岸にすらおよんでいた。前嶋(1955)p.86
  11. ^ サンスクリットの動物寓話『パンチャタントラ』は、マンスールの書記に抜擢されたイブン・アルムカッファーによってペルシア語訳から『カリーラとディムナ』としてアラビア語に訳された。13世紀にはそのヘブライ語訳からラテン語、さらに独仏英の諸語に、アラビア語からは直接ギリシア語・スペイン語に訳された。
  12. ^ 「創造されたコーラン」説を唱え、アッバース朝下の諸民族の特徴を描写した文でも知られる、9世紀アラブの文人ジャーヒズもバグダードで活躍した人物である。
  13. ^ 詩人でもあったマアムーンは翻訳者に訳した本と同じ重さの黄金をあたえたという。
  14. ^ アッバース朝の22代カリフ、ムスタクフィー(944年 - 946年)はアフマドをアミール・アルウマラー(最高のアミール職)に任じてムイッズ・アッダウラ(王権を強化する者)という称号をあたえるとともに、軍事・行政および財政に関する全権限をアフマドに移譲した。
  15. ^ こののち、「スルタン」はスンナ派イスラーム国家の君主号として定着して広く用いられる。
  16. ^ ニザーミーヤ学院は、バグダードのみならずニーシャープールイスファハーンレイにも建てられた。この学院がイスラーム世界のマドラサ教育の先がけとなった。
  17. ^ ハーシム家のイラク王国は、サウード家サウジアラビアとは対立した。
  18. ^ 1988年に停戦が実現し、1990年イラン側の和平条件を全面的に受け入れることを表明した。
  19. ^ しかし、「大量破壊兵器」なるものが存在しなかったことはアメリカ合衆国連邦議会によってのちに証明された。
  20. ^ 「月平均降雨日数」とは、日降水量0.25mm以上の月平均日数を指している。
  21. ^ フレグの七男テグデルはムスタンスィリーヤ学院への寄進をおこなっている。
  22. ^ 正統カリフ時代第4代カリフのアリー(預言者ムハンマド従弟女婿、シーア派の初代イマーム)は、現バグダード市南部のカルフにあったモスクで暗殺されたと伝承される。バグダードの南160キロメートルのナジャフにはアリーの墓廟があり、ナジャフとバグダードのおよそ中間に位置するカルバラーもシーア派の聖地となっている。
  23. ^ アジアカップウィナーズカップ1999-2000準優勝ティーム。決勝戦では日本清水エスパルスに敗れた。

出典

  1. ^ 『データブック・オブ・ザ・ワールド 2009年版』p.50
  2. ^ Cambridge Dictionary - Baghdad”. 2023年11月3日閲覧。
  3. ^ a b c d 『日本大百科全書』(2004)原隆一執筆分
  4. ^ Hoornweg, Daniel; Pope, Kevin (January 2014). “Population predictions of the 101 largest cities in the 21st century”. Global Cities Institute (Working Paper No. 4). http://media.wix.com/ugd/672989_62cfa13ec4ba47788f78ad660489a2fa.pdf. 
  5. ^ a b c d e f 末尾(1975)p.468
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m 『ブリタニカ国際大百科事典』(1974)pp.158-159「バグダード」(糸賀昌昭訳)
  7. ^ a b c d e f g h i 佐藤(1988)pp.437-438
  8. ^ a b スチュアート(1973)pp.79-81
  9. ^ a b c d 杉田(2006)pp.12-15「アラビアン・ナイトの時代」
  10. ^ a b c 余部福三. “アッバース朝期のバグダードの民衆運動” (PDF). 2016年3月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月17日閲覧。
  11. ^ a b 藤本康雄・田端修・樋口文彦「中近東・アジアの古都市・建築平面構成と尺度」 (PDF) (大阪藝術大学研究紀要「藝術 24」)[リンク切れ]
  12. ^ a b c 前嶋(1978)p.18
  13. ^ a b c 岩淵(1993)pp.34-37
  14. ^ 岩村(1975)pp.244-246
  15. ^ 杉田(2006)pp.18-19「ハールーン・アッラシード」
  16. ^ a b 嶋田(1970)pp.230-233
  17. ^ a b 『日本大百科全書』(2004)森本公誠執筆分
  18. ^ 佐藤(1978)
  19. ^ 松岡正剛の千夜千冊”. 松岡正剛の千夜千冊 (2002年11月13日). 2022年3月17日閲覧。
  20. ^ 岩淵(1993)pp.38-39
  21. ^ Marr, Phebe; “The Modern History of Iraq”, page 172
  22. ^ 米軍最後の部隊がイラク撤退完了、約9年にわたる戦争終結」『Reuters』、2011年12月19日。2022年3月17日閲覧。
  23. ^ 岩淵(1993)pp.28-29
  24. ^ イラク首都にごく珍しい雪、過去100年で2回目”. AFP (2020年2月11日). 2020年2月13日閲覧。
  25. ^ World Weather Information Service - Baghdad”. World Meteorological Organization. 2013年6月20日閲覧。
  26. ^ Baghdad Climate Guide to the Average Weather & Temperatures, with Graphs Elucidating Sunshine and Rainfall Data & Information about Wind Speeds & Humidity:”. Climate & Temperature. 2012年1月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年12月25日閲覧。
  27. ^ フォーダー(1979)pp.342-343
  28. ^ イラク鉄道に中国製の新型高速列車”. WIRED (2014年3月24日). 2018年8月29日閲覧。
  29. ^ a b c d e 杉村(1988)p.438
  30. ^ a b c d e f 阿部政雄「バグダードとメソポタミア」” (PDF). 2013年5月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月17日閲覧。
  31. ^ 『文化財発掘出土情報』2003年7月号
  32. ^ ASTERで撮影した世界の都市”. 2003年8月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月17日閲覧。
  33. ^ 『朝日旅の百科』(1981)pp.1608-1614
  34. ^ a b アンソニー&スペンス(2007)
  35. ^ Leaders Highlight Successes of Baghdad Operation - DefendAmerica News Article”. Defendamerica.mil. 2008年12月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年4月27日閲覧。
  36. ^ DefenseLink News Article: Soldier Helps to Form Democracy in Baghdad”. Defenselink.mil. 2010年4月27日閲覧。
  37. ^ DefendAmerica News - Article”. Defendamerica.mil. 2008年12月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年4月27日閲覧。
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  39. ^ Frank, Thomas (2006年3月26日). “Basics of democracy in Iraq include frustration”. USA Today. http://www.usatoday.com/news/world/iraq/2006-03-26-councils-work_x.htm 2010年4月26日閲覧。 
  40. ^ Democracy from scratch”. csmonitor.com (2003年12月5日). 2010年4月27日閲覧。
  41. ^ Iron Horse Brigade aids Iraqi boy’s recovery”. Central texas news (2004年11月26日). 2004年11月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月17日閲覧。
  42. ^ “米少年とイラク交響楽団共演 バグダッド”. 47NEWS. 共同通信 (全国新聞ネット). (2010年5月23日). オリジナルの2013年7月2日時点におけるアーカイブ。. https://archive.ph/VR3EI 2011年1月19日閲覧。 
  43. ^ Five women confront a new Iraq”. THE CHRISTIAN SCIENCE MONITOR (2003年7月16日). 2003年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月17日閲覧。
  44. ^ “戦後初の「イラク映画祭」、政府高官らが出席 - イラク”. AFP通信. (2006年7月3日). オリジナルの2013年5月24日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130524030606/http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2079859/698215 2011年1月19日閲覧。 
  45. ^ In Baghdad, Art Thrives As War Hovers”. Commondreams.org (2003年1月2日). 2010年6月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年4月27日閲覧。
  46. ^ Twinning the Cities”. City of Beirut. 2008年2月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年1月13日閲覧。
  47. ^ Iraqi capital of Baghdad twinned with North Yemen counterpart of Sanaa [Yemen news items 1989:Twinning]






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