アメリカ合衆国の社会
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その初期にはイギリスやアイルランドの開拓者から大きな影響を受けた。アメリカの植民地は英語や法体系など文化的継承を拡げたイギリスと植民地として結びついていたためにイギリス文化から萌芽期の影響を受けた。他にも西ヨーロッパの国々から重要な影響を受けた。
アメリカ合衆国は伝統的に人種のるつぼと呼ばれてきたが、最近の展開は文化の多様性や複数共存となる傾向にあり、人種の坩堝よりもサラダボウルのイメージがある[2][3]。アメリカ文化の拡がりのために、国内には多くの統合されてはいるが特異なサブカルチャーがある。アメリカ合衆国における個人の文化的属性は通常、社会階級、政治的傾向および先祖からの伝統のような多くの人口動態的性格に依存してきた[1]。アメリカ文化に最も強く影響を与えたのは北部ヨーロッパの文化であり、著名なものはドイツ、アイルランドおよびイギリスの文化である[3]。大きな地域的またサブカルチャーの違いもあり、アメリカ文化を不均一なものにしている。
社会階級と労働
今日のアメリカ人の大半は自分のことを中流階級としているが、アメリカ社会とその文化はかなりの程度に細分化されている[1][4][5]。社会階級は一般に教育を受けた程度、収入および職業的地位の組合せで表現されており、アメリカでは最大級に文化的影響を持つものである[1]。合衆国における日常の相互作用と消費者行動のほとんど全ての文化的側面が国の社会構造の内側に占める個人の位置によって導かれている。
明確な生活様式、消費パターンおよび価値観は異なる階級と結びつけて考えられている。例えば初期社会経済学者のソースティン・ヴェブレンは、社会階層の頂点にいる者達は人目を引くレジャー(衒示余暇)と同様に人目を引く消費(衒示消費)も行っていると述べた。中上流階級の者は通常、教育の程度と価値観の上位にあるものとしての洗練されていることとを同一視する。この特別の社会階級に属する者は、権威、知識およびそれ故に信頼性を指向する直接的な方法で話をする傾向にある。彼等はデザイナーブランド衣料のようないわゆる贅沢品の消費に関わる傾向にある。天然材料や有機食品に対する強い指向、および健康意識が強いことが中上流階級の顕著な特性になりつつある。中流階級に属する者はより教育を受けており、レジャーや旅行に時間と金を使うことができることもあって、概してその視野の地平を拡げることに価値を見出している。労働者階級に属する者は「本当の仕事」と考えるものを行うことに大きな誇りを持っており、度重なる経済的不安定さに対して安全弁として働く大変密な一族のネットワークを保っている[1][5][6]。労働者階級のアメリカ人は中流階級の多くの者と同様、職業的疎外感に直面する可能性がある。概念を作り、監督しその考え方を分け合うために雇われる中上流階級の専門家とは対照的に、多くのアメリカ人は職場で自主性や独創性を発揮する可能性は低い[7]。その結果ホワイトカラーの専門家は自分の仕事に著しく満足する傾向にある[1][7]。極最近では収入の中央値付近にある階層が依然として中流意識にあるものの、経済的不安定さに直面することが多くなってきており[8]、労働者階級多数派の考え方を支持するようになった[6]。
政治行動は階級によって影響されている。裕福な階級は投票に行く傾向が強く、教育水準や収入によって民主党と共和党のどちらに投票するかを決める傾向がある。収入が高い者は健康管理施設を多く利用できるので平均余命が高く、乳児死亡率が低く、健康を増加させるので、収入は健康にも大きな影響がある。
アメリカ合衆国では職業が社会階級の主要素の一つであり、個人のアイデンティティと密接に結びついている。アメリカ合衆国では常雇い被雇用者の週当たり平均労働時間は42.9時間であり、人口の30%は週40時間以上働いている[10]。しかし、所得で区分して上位40%に入る人の多くは週50時間以上働いていることに注意すべきである。2006年第1および第2四半期で平均的なアメリカ人は時給16.64ドルを稼いでいた[11]。全体的にアメリカ人は工業時代の終わった他の先進国の労働者よりも良く働いている。デンマークの平均的労働者は年間30日の休暇を楽しむのに対し、平均的アメリカ人のそれは16日に過ぎない[12]。2000年に平均的アメリカ人は年間1,978時間働いたが、この数字は平均的ドイツ人労働者よりも500時間多く、チェコの平均より100時間少ない。アメリカ合衆国の労働者は全体として工業時代の終わった他の先進国(韓国を除く)の労働者よりも働いているために世界でも最も生産性が高い(時間当たりではなく、全体とした評価)[9]。アメリカ人は働くことと生産的であることに重きを置いており、忙しいことと縦横に働くことが尊敬を得る手段としても機能している可能性がある[6]。
人種・民族
アメリカ合衆国における人種は身体的特徴と肌の色に基づいており、国として認知される以前からアメリカ社会を形作る時に基本的な役割を演じてきた[1]。1950年代の公民権運動の時まで、人種的少数者は差別に遭い、社会的にも経済的にも疎外されていた[13]。今日、アメリカ合衆国商務省国勢調査局は先住民族すなわちインディアン、アフリカ系アメリカ人、アジア系アメリカ人および白人(ヨーロッパ系アメリカ人)の4つの人種を認めている。アメリカ合衆国政府に拠れば、ヒスパニック系アメリカ人は事実上人種ではなく民族集団とされている。2000年国勢調査で、白人は人口の75.1%を占め、ヒスパニックあるいはラテン系は人口の12.5%を占めるを占める少数民族となっている。アフリカ系アメリカ人は12.3%、アジア人は3.6%、インディアンは0.7%となっている[14]。
1865年12月6日にアメリカ合衆国憲法修正第13条が批准されるまでは奴隷社会だった。北部諸州は18世紀後半と19世紀前半にその領土内での奴隷制を違法化していたが、その工業化経済は奴隷労働で生産される原材料に頼っていた。1870年代のレコンストラクション時代に続いて、南部州は合法の人種差別を定めたジム・クロウ法で人種隔離を始めた。1930年代までアメリカ中で私刑が起こっており、南部では公民権運動の時代まで続いた[13]。アジア系アメリカ人も合衆国の歴史の大半で疎外されていた。1882年から1943年まで、アメリカ合衆国政府は中国人排斥法を定め、中国人移民が国内に入ることを禁じていた。第二次世界大戦の間、12万人の日系アメリカ人、その62%はアメリカ市民が[15]日本人抑留キャンプに収容された。ヒスパニック系アメリカ人も分離などの差別に直面した。カリフォルニア州など多くの州では白人と見なされているが、通常は二番目の階級に甘んじている。
アメリカ合衆国における少数派人種は法律上あるいは既成事実でいわゆる主流社会から排除され疎外されてきた結果として、独自のサブカルチャーを発展させてきた。例えば1920年代にニューヨーク市のハーレムはいわゆるハーレム・ルネサンスの本場になった。ジャズ、ブルースとラップ、ロックンロールさらにはブルー・テイル・フライのような数多いフォークソングといった音楽がアフリカ系アメリカ人文化の領域内で創り出された[13]。国中の多くの都市でチャイナタウンが見られるようになり、アジア料理はアメリカでも不可欠な要素になった。ヒスパニックの地域社会もアメリカ文化に劇的な変化を与えた。今日、アメリカ合衆国ではカトリック教徒が最大の会派になり、南西部やカリフォルニア州ではプロテスタント会派の教徒数を上回っている[16]。メキシコのマリアッチや料理は南西部では普通に見られるものになり、ブリートやタコスのようなラテン系料理は国中のどこでもあるものになった。しかし、経済的格差や事実上の差別が続き、アメリカ合衆国の日常生活でも顕著な性格になっている。アジア系アメリカ人が栄達して世帯当たり収入の中央値や教育水準で白人を遙かに上回るようになったが、他の少数人種には同様なことは起こっていない。アフリカ系アメリカ人、ヒスパニックおよびインディアンは平均的に白人よりかなり収入が低く、教育水準も劣ったままである[17][18]。2005年の統計で、白人の世帯当たり収入の中央値はアフリカ系アメリカ人のそれより 62.5%高く、アフリカ系アメリカ人の4分の1近くが貧困線以下の生活をしていた[17]。さらにアメリカ合衆国における殺人事件の被害者でその 46.9%がアフリカ系アメリカ人であることは、21世紀に入ってもアフリカ系アメリカ人や少数人種が一般に直面し続けている多くの厳しい社会経済的問題があることを示している[13][19]。
アメリカ文化の幾つかの側面は人種差別を成文化している。例えば、メディアの世界で持続するアメリカ文化における通常の概念は、黒人の外観が白人の外観よりも魅力がない、あるいは望ましくないというものだった。黒人は醜いという概念はアフリカ系アメリカ人の心理を著しく傷つけており、内面的人種差別として現れてきている[20]。「ブラック・イズ・ビューティフル」と呼ばれる文化活動はこの概念を追い出そうとした[21]。
アメリカの人種 2008年[22][23] | ||
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人種 | 人口 (2008年推計) |
% 割合 |
白人 | 242,639,242 | 79.8 |
ヒスパニックでない白人 | 199,491,458 | 65.6 |
黒人 | 39,058,834 | 12.8 |
ヒスパニックでない黒人 | 37,171,750 | 12.2 |
アジア人 | 13,549,064 | 4.5 |
ヒスパニックでないアジア人 | 13,237,698 | 4.4 |
北アメリカ先住民 | 3,083,434 | 1.0 |
ヒスパニックでない北アメリカ先住民 | 2,328,982 | 0.8 |
太平洋諸島先住民 | 562,121 | 0.2 |
ヒスパニックでない太平洋諸島先住民 | 434,561 | 0.1 |
混血 | 5,167,029 | 1.7 |
ヒスパニックでない混血 | 4,451,662 | 1.5 |
ヒスパニック | 46,943,613 | 15.4 |
全人口 | 304,059,724 | N/A |
アメリカ人の先祖 2007年[24] | ||
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民族 | 人口 (2007年 USセンサス) |
% 割合 |
ヒスパニック | 54,527,240 | 18.7 |
ドイツ人 | 50,885,162 | 16.5 |
黒人 | 38,584,434 | 14.0 |
アイルランド人 | 36,494,130 | 13.1 |
イングランド人 | 24,515,138 | 9.0 |
メキシコ人 | 20,640,711 | 7.3 |
アメリカ人 | 20,625,093 | 7.3 |
イタリア人 | 17,823,555 | 6.0 |
フランス人 | 11,846,018 | 4.0 |
ポーランド人 | 9,977,444 | 3.2 |
ユダヤ人 | 6,444,000 | 2.3 |
スコットランド人 | 4,890,581 | 1.7 |
オランダ人 | 4,542,494 | 1.6 |
ノルウェー人 | 4,477,725 | 1.6 |
スウェーデン人 | 4,418,310 | 1.6 |
インディアン | 4,119,301 | 1.5 |
プエルトリコ人 | 3,406,178 | 1.2 |
ロシア人 | 3,152,214 | 1.0 |
中国人 | 2,432,585 | 0.9 |
合計 | 281,421,906 | N/A |
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トニ・モリスンは1981年の小説青い眼が欲しいの中で、アメリカ合衆国における貧しい黒人に対する19世紀の人種差別の名残りを表現している。この小説は、貧しい黒人家庭の娘であるペコラ・ブリードラブが如何に発狂するまでに白人の美の標準を内面化したかを告げている。彼女の青い目に対する熱烈な願いは、彼女が住んでいる貧しく愛が無く差別される環境から逃げ出したいという願望を意味するようになっている。
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