観測・警告
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/04 04:22 UTC 版)
竜巻はその規模の小ささや活動期間の短さから、 (総観スケールの)天気図作成を通した広域的な気圧配置・気温湿度分布の観測・予測 (メソスケールの)数キロメートルメッシュ程度の高精度レーダーによる数分~数十分間隔での雨や風の観測・予測 を組み合わせて行うのが主流となっている。発生地域の直前予測には、メソスケールのモデルに最新観測データを逐一入力して、数分~数十分後の雨・雲・風分布をリアルタイムで算出する方法が用いられている。 竜巻対策として、アメリカでは気象ドップラー・レーダーによる監視・警告システムが発達しており、NEXRADという100か所を超える規模の観測網を有している。メソサイクロンの回転している雲の中では雲を構成する水滴や雨粒も高速で回転しているが、ドップラー・レーダーはこれを利用して風速を観測できる。 また、地上観測点やレーダーによる短い間隔でのリアルタイム観測により短時間の数値予報を行い、回転性の気流や上昇気流の発生確率・強度など複数の大気安定度指標を算出することで定量的に竜巻の発生を予測する手法がある。 竜巻の予兆を常時監視する手法としては、数値予報による大気安定度指標とドップラー・レーダーを併用したものが広く用いられている。 ドップラー・レーダーや解像度の高い降雨レーダーでは、発達したスーパーセルを観測するとフックの形をしたフックエコー(Hook echo)という特徴的なエコー画像が発見されることがある。フックエコーは竜巻周辺において強い上昇気流によって降雨・降雹が弱まることで生じる。フックエコーが見られた場合はその部分で竜巻が発生する可能性が強く、発生直前(数十分前)に竜巻への警戒を呼びかける目安となる。また、スーパーセル以外の要因で発生する竜巻の場合は、特徴的なボウエコー(Bow echo)やデレチョ(Derecho)と呼ばれるエコー画像が発見される場合が多い。 アメリカでは嵐などの悪天候を専門に管轄するStorm Prediction Center(SPC)が設置されており、竜巻などの突風の発生確率の予測が行われている。予報文において"Particularly dangerous situation(PDS、「特に危険な状況」の意)"が付加されたときは竜巻に対して注意が必要とされ、Tornado watch(竜巻注意報、竜巻監視)、Tornado warning(竜巻警報)の2段階の警報があり、ごく稀に猛烈な竜巻被害が切迫しているときにはTornado emergency(竜巻緊急事態)が出されることもある。カナダにもこれに準じた警報システムがある。また、民間企業等が自前の観測網を持っていて、レーダー等を搭載した車などで竜巻の近傍で直接観測を行うような「トルネードハンター(Tornado Hunter)」と呼ばれる者もいる。 これ以外の多くの地域では、竜巻注意報や竜巻警報という明瞭な形での情報提供は無く、気象情報などで「荒天に注意」「突風が発生しやすい」といった情報が、竜巻に関する情報に最も近い。 日本では、竜巻による甚大な被害が少なく他の気象災害に比べて予報の必要性が低かったこと、変化が激しくリアルタイムで出さなければならない竜巻予報を正確に求めて迅速に広く伝える方法が乏しかったことなどから、竜巻や突風に関する予報や警報が整備されていなかった。しかし1990年代以降、特に2000年代中盤の竜巻被害多発を受けて、ドップラー・レーダーや監視・警告システムの導入が始められており、2008年3月から気象庁の防災気象情報の中で「竜巻注意情報」の発表が開始された。また2010年5月から、竜巻等の突風の発生確率を詳細に予測し警戒を呼びかける竜巻発生確度ナウキャストの発表が開始された。 竜巻注意情報は、竜巻発生確度ナウキャストにおいて確率の高い発生確度2となった地域に発表される(現在は46都府県別地域と北海道8地域 に区別しているが、2016年12月15日正午より天気予報と同じ細分で情報が発せられる)。現在の予測技術の限界から、竜巻注意情報の「有効期限は約1時間」とされ、時間的余裕は短い。また、市民への周知方法はまだ試行的段階にある。テレビ・ラジオでは、NHK総合テレビでは警報同様に画面上部にテロップで表示、ラジオ第1とFMでは番組に割り込む形で放送され、民放の例として関西テレビでは通常の気象速報と同様にテロップで表示し「この情報は○時○分まで有効です。」との付記を行っている。他の周知方法として、民間気象会社、通信事業者、自治体などの一部では、登録した利用者に災害情報メールなどを一斉送信するサービスに竜巻注意情報を含めているところがある。多くの自治体では全国瞬時警報システムと連動した市町村防災行政無線固定系による一斉放送で警戒を促す。 竜巻の予報に関する注意点として、以下のようなことが挙げられる。 予測精度を保つため、数十分後~3時間後程度の短時間予測が中心である(1日後などの長時間予測では、広域的に「大気の不安定による突風」に注意を呼び掛けることしかできない)。 長時間予測で突風の危険が高い時間帯に速報に留意し、短時間予測による注意報などの速報が出たら対策を行う、などの2段構えの対策が必要(例:前日夜~当日朝発表の当日天気で「突風のおそれ」を確認した上で留意しながら、雷注意報や竜巻注意情報が発表されたら警戒を強める)。 大雨や集中豪雨などの災害に比べて、発生の予測が難しく、「外れ」も多い。更に「竜巻注意情報」は通常の注意報・警報に比べて、的中率が低い(3パーセント)という特徴がある。観測された突風に対する捕捉率は2割、情報発表件数に対する的中率は1割弱となっている(2008 - 2009年)。2014年6月14日に秋田県三種町で観測された 際には、同県には逆に注意情報さえ出ていなかった。
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