組合員の雇用要請断念
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/10 10:30 UTC 版)
「国鉄労働組合」の記事における「組合員の雇用要請断念」の解説
2009年の第45回総選挙で、民主党へ政権交代したことにより新たな解決策が模索された。民主党、社民党、国民新党の与党3党及び公明党は協議の結果、2010年4月9日「国鉄改革1047名問題の政治解決に向けて」と題する和解案を政府に要請した。同日、前原誠司国土交通大臣は、以下の事項を4者・4団体及び原則原告団910人(既に死去した50人含む、以下同)全員が了解することを条件に、4党案を受け入れると表明した。 裁判上の和解を行い、すべての訴訟を取り下げること。 不当労働行為や雇用の存在を二度と争わないこと。したがって、今回の解決金は最終のものであり、今後一切の金銭その他の経済的支援措置は行われないこと。 政府はJRへの雇用について努力する。ただし、JRによる採用を強制することはできないことから、人数等が希望どおり採用されることは保証できないこと。 4月26日、国労は第78回臨時全国大会を開き、和解受入を全会一致で決議した。しかし、反対派が会場から締め出され、機動隊が警備する中での決議であった。来賓として出席した自見庄三郎国民新党幹事長は、和解内容を中曾根康弘に報告すると、「よーく、こんなものが出てきたな」「これは政権交代のいい面が出たんだ」と評価されたと語った。 これを承け、国土交通省は、原告に加わった910人に対して署名入り承諾書提出を要請した。しかし、6人はこれを拒否した。和解案で不当労働行為を争わないこと、JRに採用の義務はないとしたことへの反発があり、その上全員署名という「踏み絵」を要求されたからである。協議の結果全員署名の要請は取り下げ、6月28日に最高裁において和解に応じなかった6人を除く、一括和解が成立した。その結果、解雇された854人とすでに死去した50人の遺族計904世帯に対し、解決金として総額約199億円、平均約2200万円が支払われることになった。また、国労によれば55歳未満の183人がJR各社への復帰を求めているが、和解内容においては「JR各社に雇用確保を要請する」との表現にとどまったため、依然としてJR各社は雇用確保には応じなかった。 この和解について、『産経新聞』は、国労の「ゴネ得」と批判し、「2003年最高裁判決でJRの不採用について『責任なし』の司法判断が確定している。政府には、その自覚とともに民間への介入自制を強く求めたい」と主張した。『読売新聞』も同様に「ゴネ得」を批判し、「国労が鉄道建設・運輸施設整備支援機構を相手取り起こした裁判では、支援機構は組合差別はなかったと上訴している。時効で賠償請求権は消えたとする別の判決もある。政治決着は、こうした裁判の経緯を無視したもの」、「すでに最高裁は、JRに採用責任はないとの判断を示し、法的には決着済みの問題だ。就職先が決まらない新卒者も多い昨今、政府が組合員の採用をJRに押しつけるのは、筋違いも甚だしい」、「民営化に協力した労組はJRに『彼らを復職させるなら、広域異動や転職に応じた我々の仲間を、まず元の職場に帰してくれ』と主張してきた。こんな経緯も考えると、まさにゴネ得である。」と指摘した。。『毎日新聞』は、「国策とも言える民営化で、採用をめぐる組合差別があったことは経緯を振り返れば明らか」、「解決が遅れた背景に、国労側の硬直的な姿勢もあった。2000年に、自民党など当時の与党3党と社民党が、和解金支払いや雇用確保を含む『4党合意』をまとめた。だが、国労執行部が強硬派を説得できず、ご破算となったのだ。節目で方針が揺れる主体性のなさが交渉を難しくしたことも反省すべきだ。」と指摘した。『東京新聞』は、「過去の政権下でも和解の動きはあったが、実を結ばなかった。鳩山由紀夫前首相時に大きく進展し、今春に政治決着をみたのは、政権交代の成果だ。」、「かつての過激な活動に批判的な目を向ける人もいる。不本意な広域転勤を受け入れた人らからは、『ゴネ得』という声が上がるかもしれない。だが、むしろ人道上の問題と考えるべきだ」としている。また、国労闘争団の鉄建公団訴訟弁護団事務局長として、原告側の弁護人となった萩尾健太は、産経、読売や櫻井よしこなどの「ゴネ得」批判に対して、仮にJRに採用された場合の給料と比べれば少額でしかないこと、勤務状況と無関係で採用されなかったと主張した。 国労は声明で、原告始め和解案をまとめた各政党・国会議員、全ての関係者に対し「心からの深い感謝と御礼」を表明した。さらに、訴訟を継続する6人とは「一切関与しない」こと、一方でJRに対しては「人道的見地」からJR各社の採用などへの取り組みを改めて要請した 。 動労千葉は「謝罪も、解雇撤回もなく、いくばくかの金銭によって国家的不当労働行為を正当化」、さらに「国労本部が行ってきたことは、JRとの『包括和解』=全ての不当労働行為事件の取り下げやJRにおけるあらゆる合理化の容認、解雇撤回要求の取り下げ等、闘いの放棄と屈服であった」と国労を批判する見解を出した。また、自見庄三郎の発言から、「(和解案に)中曽根が一枚かんでいた」と主張し、非難した。 民営化に協力した労組では、JR総連は声明で、和解に「異を唱えるものではない」としながらも、政府・与党からの報告や意見聴取がなかったことや、「責任は国労にある」との見解から、不満を表明した。JR連合は、やはり「2003年の最高裁判決をもって終結した問題」との認識を示した。その上で「人道的見地」から和解を評価し、また国労に対して「「JRに相応しい」労働運動への転換」や「民主化闘争への結集」を求めた。 和解に応じなかった原告6人に対しては、その後原告被告双方の上告を棄却する決定が出され、2審の東京高裁判決が確定している。また、動労千葉が鉄建機構を相手取った訴訟も一定の損害賠償請求を認めたものの、解雇は有効とした判決が確定している。 政府は民主党、国民新党、社民党の要請を受け、2011年6月13日にJR7社に雇用要請を行ったが、各社は連名で「雇用希望者の採用を考慮する余地はない」と拒絶した。国労本部は、次回大会でJR各社への雇用要請を断念する提案を行う意向を固めた。2011年6月、国労と旧全動労(現全日本建設交運一般労働組合)や支援組織などでつくる「四者四団体」が解散し、運動を続ける意向の組合員はいるものの、国鉄闘争は事実上終結することになり、2011年7月29日静岡県伊東市での定期大会で、「24年の闘いの終わりとしてこれでいいのか」との声や、「一人でもJRに復帰できれば、歴史的に大きな意味がある」と闘争継続を求める意見も出されたが、2003年に最高裁でJR不採用について「責任無し」の司法判断確定を理由にJR各社の採用拒否、国労の高齢化を理由に最終的に雇用要請を断念する方針を提案し承認された。また、元闘争団員は国労から切り捨てられてしまった。 国労闘争団による、物販などの事業体はピーク時には20社ほどを数えたが、闘争団解散後も、2014年5月現在で10社が営業を継続している。そのうち6社の会合によると、自立経営に至っているのは1社のみで、自立へもう一歩なのも1社、後の4社は従業員の平均年収が200万円以下と厳しい状況にあるという。
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