熟成の過程
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/30 02:45 UTC 版)
代表的な牛肉の乾燥熟成プロセスとしては、ブロック又は枝肉(半身)などを乾燥熟成庫内に一定期間貯蔵する。庫内の温度を0~4℃、湿度は80%前後に保つ。常に肉の廻りの空気が動く状態を作り、その中で14~35日間熟成させる。帯広畜産大学の島田謙一郎准教授の研究によれば、35日以上の熟成が望ましいという。 温度が高ければ肉は熟成ではなく腐ってしまい、低過ぎれば凍ってしまい、熟成にならない。除湿や通風も、肉の水分活性を下げて腐敗を防ぐためである。そのため温度調整にも繊細な手間が掛かり、気候の変化にも影響を受けやすい。熟成期間中に、肉の中にある酵素等の働きで肉の繊維(蛋白質)がゆっくりと壊れてペプチドやアミノ酸に変化し、旨味が増すとともに肉が柔らかくなっていく。 保管中にカビが自然に生えるだけでなく、保管庫内に置いた数年物の肉についたカビを意識的に肉に移して、熟成を促すこともある。どちらの場合でも、カビが広がった肉の表面近くを調理前に削り取る「トリミング」が行われる。熟成に適したカビの胞子を付けて、有毒なカビや腐敗・食中毒菌の侵入を防ぎつつ熟成を進められる「エイジングシート」も開発されている。熟成肉専門店を運営するフードイズム社と明治大学農学部教授の村上周一郎が共同開発したエイジングシートは、ヘリコスティラム属の菌を、村上と協力したミートエポック社はケカビを利用する。 肉に元々含まれる酵素以外に、カビが持つ酵素(リパーゼ)が脂質を分解することで熟成香が生じる効果もある。このように、微生物を用いる熟成肉は発酵食品と位置付けられることもある。 乾燥させることで21日後には重量が20%程度減少し、減少した分、肉の味や香りも濃厚なものに変わっていく。乾燥熟成が相当進んだ状態では、肉の外観は赤黒く変色し、薄く白カビなどが発生する場合もあるが、それが乾燥熟成で最高の状態とも言われ、食しても問題はない。乾燥による重量減少の上に外側の乾燥した部分を切り抜いてステーキとするため、最終的に残るのはプロセス前の60%以下と言われる。従って、歩留りロス、保管冷蔵庫(熟成庫)などの設備費・電気代などの経費がかかり、また保管するだけの空間が必要となる上、熟成期間のキャッシュフローも悪くなるため、諸経費が大きく増えてしまう。上記のエイジングシートを使い、さらにミートラッパーで包むことで削り捨てる部分はほとんどなくすこともできる。 上記の理由で乾燥熟成はごく一部の高品質な牛肉に対してのみ行なわれ、鮮度落ちが早い鶏肉や熟成期間の短い豚肉などではほとんど行わない。その他の肉では羊肉やジビエ(鹿肉など)で行われる場合がある。羊肉の場合は、臭みが抜けて味が上品になるという。一方で、乳牛としての役割を終えた廃用牛などを美味しくする手法として使われている例もある。
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