深海調査−しんかい6500とピカソ
昨年、32年ぶりにリメイクされ話題となった小松左京原作の映画「日本沈没」。多くの方が映画を見たのでは。製作費は日本映画としては破格の20億円。映画には、東京消防庁や海洋開発研究機構なども撮影に全面協力し、同機構の有人潜水調査船「しんかい6500」(映画では「わだつみ6500」)や地球深部探査船「ちきゅう」も登場しました。
四方を海に囲まれ、ユーラシア大陸と太平洋の間に位置するわが国日本は、同時に世界有数の地震大国でもあり、映画のリアリティに、多くの方が共感されたのではないでしょうか。
そしてその「しんかい6500」(注参照)が3月15日、沖縄県石垣島沖で母船「よこすか」から通算1000回目の潜航を行いました。昨年8月、世界で初めて青色の熱水噴出を確認した水深約1500メートルの「鳩間海丘」を目指します。
同船はメーカーの三菱重工業による試運転中だった89年8月11日、三陸沖の日本海溝で水深6527メートルまで潜航に成功。自由に深海を移動できる有人潜水船としては世界最深記録で、現在まで約18年間破られていません。
わが国の有人潜水調査船の開発は、巨大地震が発生する日本海溝の詳細な調査を目指して始まりました。最初、水深約2000メートルまで潜れる「しんかい2000」が造られ、82年1月に初潜航。「6500」建造後は約12年間、2隻体制で運用されていましたが、「2000」は予算難のため02年11月、通算1411回目の潜航で運用終了となりました。
また同機構は、新たに開発した深海生物追跡調査ロボットシステム「PICASSO(ピカソ)」の海域試験を2月24日から3月4日までの期間、相模湾初島沖水深300メートルと駿河湾富士川沖水深600メートルで行い、水深320メートルで体長約2センチメートルのオキアミの仲間など、さまざまな生物の撮影に成功しました。
「PICASSO」は、“Plankton Investigatory Collaborating Autonomous Survey System Operon” の略称。水深200から1000メートルまでの深海域の浮遊生物及びマリンスノーの調査を行うことを目的として開発した小型無人探査機。画家ピカソのように、ものを普段見ている眼で見るのではなく、新しい見方で周りを見ることを目指すことから名付けられました。
同機はハイビジョンカメラや深海現場調査用実体顕微鏡(ビジュアル・プランクトンレコーダー:VPR)、高輝度ライトを搭載でき、搭載機器を含めた開発費は1億円弱。重量は200キログラム、長さ2メートルで、大型母船を必要としないのが特徴です。
母船から太いケーブル経由で電源を供給する方式ではなく、バッテリーを探査機本体に搭載。通信は直径1ミリメートルほどの細い光ファーバーで母船に送る。このため、母船は小型船でも可能なほか、ファイバーが細いため海流など水の抵抗を受けにくく深海の生物追跡に適しています。
同機構では今後、試験結果を踏まえて「PICASSO」をさらに建造する計画で、今後、地球温暖化などの研究にも活用する計画です。将来、複数のピカソを同時に協調して運用することが可能になれば、小型ロボット1基では不可能である対象生物の多角的な観察や同一地点での高解像度カメラとVPRの同時運用なども可能となります。
注:
海洋研究開発機構の2隻目の有人潜水調査船。全長9・5メートル、重さ25・8トン。チタン合金製の球形耐圧殻(内側直径2メートル)の中にパイロット2人、研究者1人の計3人が乗れる。通常潜航時間は9時間、最大潜航深度は約6500メートル。建造費約125億円。運用費年間約5億円。1990年6月の初潜航以来、太平洋やインド洋の海底火山活動の調査や、新種の巨大イカや細菌などの発見で世界的な成果を上げている。
写真はしんかい6500とピカソ(写真提供:海洋研究開発機構)
(掲載日:2007/03/20)
- 深海調査のページへのリンク