母子婚
★1.互いに母であり息子であることを知らずに、性関係を結ぶ。
『和泉式部』(御伽草子) 和泉式部は13歳の時、橘保昌と契りを結んだ。彼女は14歳の春に子を産み、守り刀とともに五条の橋に捨てる。子は成長して、道命阿闍梨という学僧になった。道命は18歳の年、法華八講の場で美しい女房(実は母・和泉式部)を見て恋い慕い、一夜をともに過ごす。翌朝、道命の守り刀によって、2人が母子であったことがわかる。
『オイディプス王』(ソポクレス) オイディプスはスフィンクスの謎を解いてテーバイの人々の難儀を救う〔*→〔謎〕2の『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第5章〕。その少し前、テーバイのライオス王が旅中に殺され、妃イオカステが未亡人となっていたので、オイディプスは請われて新王となり、イオカステと結婚する。しかし彼女は、オイディプスの実の母親だった。
『黄金伝説』45「使徒聖マッテヤ」 不吉な予言のもとに生まれたユダは葦かごに入れて捨てられ、イスカリオテ島の王妃に育てられる。ユダは成長後他国へ行き、果樹園主を殺してその妻と結婚する。果樹園主はユダの実の父、その妻はユダの実の母であった。
『グレゴーリウス』(ハルトマン)第3章 兄妹婚から生まれたグレゴーリウスは、漂泊の後、知らずして母の国に到り、そこの王となって母を妃とする。
『宝物集』(七巻本)巻5 幼少時に天台山(=比叡山)に上り学問を修めた明達律師が、母に会おうと故郷下野へ下る。母もまた我が子を恋しく思い、下野を出て京へ向かう。2人はある旅宿に行き会って、母子とも知らず関係を持った。
*母子婚寸前に、2人が母子であることが判明する→〔傷あと〕2の『フィガロの結婚』(モーツァルト)。
★2.互いに母であり息子であることを知りつつ、性関係を結ぶ。
『好奇心』(マル) 14歳の少年ローランは、猩紅熱治療のために保養地のホテルへ行き、ママが付き添う。ホテルでパーティが開かれた夜、ローランは、酔ったママにおやすみのキスをし、2人はそのまま抱き合って性交をする。ママは「2人だけの、1度だけの秘密よ。いつかきっと、美しい貴重な瞬間として思い出すわ」と言う。翌日、パパと兄2人が見舞いに来る。ママとローランは明るく彼らを迎える〔*当初、ローランが浴室で自殺を考えるシーンを撮影したが、編集段階でカットしたという〕。
『故郷へ錦』(落語) 父親を早くなくし、女手一つで育てられた息子がいた。成長して17歳になった息子は、30代半ばの母に恋をし、病気になってしまう。母はやむなく1度だけ息子の願いを叶えてやる。床入りの時、息子が金襴の裃を着ているので母が訳を問うと、息子は「故郷へは錦を飾れと言いますから」と答える。
『今昔物語集』巻4-23 天竺の大天は、父が商売のため海外へ行っている間に、妻とすべき美女を求めに出かけたが、得ることができなかった。家へ帰った大天は母を見、「母こそ最高の美女である」と思い、母と結婚した→〔母殺し〕1。
*息子は母と知らず、母は息子と知りつつ、性関係を結ぶ→〔系図〕1の『エプタメロン』第3日第10話。
『ローマ皇帝伝』(スエトニウス)第6巻「ネロ」 ネロは母親アグリッピナとの同衾を欲したが、周囲の反対によって断念した。彼はその代わりに、アグリッピナそっくりの売春婦を、妾の1人として家に入れた。臥輿で母親と一緒に運ばれる時、いつもネロは母子相姦の夢想に耽っていた。その証拠に彼の着物が汚れていた、と断言する人もいる。
女護ヶ島の伝説 昔、大津波が八丈島を襲い、1人の妊婦だけが、舟の艪にすがりついて生き残った。妊婦は男児を産み、後にその男児と母子交合して、子孫を繁栄させた(東京都八丈島。八丈島は、かつては「女護が島」だったと言われる)。
*大洪水で母親と息子だけが生き残り、交わる→〔声〕7の『なぜ神々は人間をつくったか』(シッパー)。
★4b.男が誰もいないので、女が自分の産んだ息子と交わり、さらに孫とも交わる。
『火の鳥』(手塚治虫)「望郷編」 ロミは丈二と結婚して無人星に移住するが、事故で丈二は死に、ロミは男児を産み落としてカインと名づける。ロミは20年間冷凍睡眠し、成長した息子カインと交わって7人の男児(息子の子だから、孫でもある)を産む。しかし女児が1人も生まれなかったので、ロミは再び冷凍睡眠に入り、7人兄弟の長男ロトの成長を待って夫婦になる。それでも女児は生まれず、結局、7人の末子セブが、宇宙生物ムーピーとの間に女児をもうける。
★5.神々の母子婚。
『神統記』(ヘシオドス) 原初の時、まずカオスが生じ、ついで胸幅広いガイア(=大地)が生じた。ガイアは彼女自身と同じ大きさのウラノス(=天)を産み、母ガイアは息子ウラノスに添い寝して、オケアノス(=大洋)・クロノスなど様々な神々を産んだ。
『母』(太宰治) 旅館に泊まった「私」は(*→〔娼婦〕11)、夜中の3時過ぎに眼がさめた。隣室から、中年の女中と若い帰還兵の声が、ひそひそ漏れて来る。「お父さん、お母さん、待っているでしょうね」「お父さんは死にました。お母さんだけです」「お母さんは、いくつ?」「38です」。女は息を呑んで、黙ってしまった。しばらくして「あしたは、まっすぐに家へお帰りなさいね」と言った。若い男は「ええ、そのつもりです」と答えた。
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