母殺し
『エレクトラ』(エウリピデス) 姉エレクトラと弟オレステスは、アガメムノン王と妃クリュタイメストラの間の子だった。クリュタイメストラが情人アイギストスと共謀してアガメムノン王を殺し(*→〔夫殺し〕1の『アガメムノン』)、エレクトラは農夫に嫁がせられ、オレステスは他国へ難を逃れた。やがて成人したオレステスは帰郷し、父の仇であるアイギストスとクリュタイメストラを討った。クリュタイメストラを殺す時には、姉弟は刀に手を重ねて、母の喉深く刺し通した。
『今昔物語集』巻4-23 天竺の大天は母と結婚し、父の咎めを恐れてこれを殺した。その後、大天は満足して暮らしたが、ある時母が隣家に出かけたのを、他の男と密通しているのだろうと大天は考え、母を殺した→〔母子婚〕2。
『サイコ』(ブロック) ノーマン・ベイツが子供の頃、父が家出した。ノーマンは母1人・子1人で育ったが、20歳の時に母が再婚したので、彼は、母と相手の男に毒入りコーヒーを飲ませて殺し、心中に見せかけた。しかしその罪の意識から、以後、ノーマンの心の中には「母親」が住みつくようになった。
『遠野物語』(柳田国男)11 母1人・息子1人の家へ嫁が来たが、嫁と姑の仲は悪かった。ある日の昼頃、息子が「ガガ(=母)は生かしてはおかれぬ。今日はきっと殺すべし」と言って、草刈り鎌を研ぎ始めた。夕方、息子は鎌をふるって、囲炉裏端で泣く母を斬る。母の悲鳴を聞いて里人が駆けつけ、警官が息子を捕らえる。母は「私は恨みも抱かずに死ぬのだから、息子を許してたまわれ」と言い残す。息子は「狂人である」として放免された。
★2.母殺しの未遂。
『日本霊異記』中-3 武蔵国の吉志火麻呂が筑紫の防人として赴任する。妻は武蔵国に留まって家を守り、母が火麻呂に付き添って筑紫へ行き、世話をする。火麻呂は「母が死ねば、喪に服して軍役を逃れ、故郷の妻のもとへ帰れるだろう」と考えて、母を山へ連れ出し殺そうとする→〔土〕5b。
★3.母と知らずに殺す。
『絵本大功記』「尼ヶ崎」 武智光秀(=明智光秀)は尾田春長(=織田信長)を本能寺で討つが、光秀の母さつきは、臣下の身で主君を殺すという息子の行為を許さない。真柴久吉(=羽柴秀吉)が旅僧姿で訪れ、湯殿に入ったところを、光秀は竹槍で突く。しかしそこにいたのは母さつきで、さつきは自ら久吉の身代わりとなって命を捨て、「主殺しの逆賊に天罰が報いたのだ」と光秀に諫言する。
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