日本における文民の意味
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/20 20:28 UTC 版)
内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。 -日本国憲法第66条2項 日本国憲法66条2項にいう「文民」とは、1973年の政府見解では、次に掲げる者以外の者をいう。 旧陸海軍(大日本帝国陸軍及び大日本帝国海軍)の職業軍人の経歴を有する者であって、軍国主義的思想に深く染まっていると考えられる者。 自衛官(陸上自衛官、海上自衛官、航空自衛官)の職に在る者。 なお、当時の政府見解では、軍国主義思想とは、「一国の政治、経済、法律、教育などの組織を戦争のために準備し、戦争をもって国家威力の発現と考え、そのため、政治、経済、外交、文化などの面を軍事に従属させる思想をいう」と定義づけている 第二次世界大戦までは軍人が内閣総理大臣を務めることが多数あり、その反省から現行の日本国憲法第66条第2項には「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。」と規定されている。 一般的な「文民」は、「一般市民」、「文官(一般公務員、警察官を含む)」、「戦闘員ではなく国際法上交戦権を持たない者」のニュアンスを持ち、「軍隊(現在の日本においては防衛省、自衛隊:陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊)の中に職業上の地位を占めていない者、もしくは席を有しない者」を指すと考えられる。 日本での文脈でいう「文民統制」とは、「軍人以外の人間」、具体的には「一般市民の代表である政治家」を指しており、軍務文官である「防衛省の官僚(通称「背広組」)」は、自衛隊法上の自衛隊員であり、国家公務員法第2条第3項第16号の規定に基づいて特別職の国家公務員とされている。 なお、過去の日本において「文民」と言う場合に「旧職業軍人の経歴を有しない者」と規定するか、あるいは、「旧職業軍人の経歴を有する者であって軍国主義的思想に深く染まっている者でない者」とするか、については、意見が分かれていた時代もある(1965年(昭和40年)5月31日衆議院予算委員会 高辻正己・内閣法制局長官答弁など)。 野村吉三郎(元海軍大将、太平洋戦争開戦時の駐米大使)の入閣が検討された際に、「文民」規定の問題から断念している。ポツダム宣言受諾時にすでに職業軍人であり、その後自衛隊に入隊した永野茂門が法務大臣に就任した時、元自衛官の中谷元、森本敏が防衛閣僚(防衛庁長官・防衛大臣)となった時にも問題視する意見が出た。ただしこの見解は国際的な基準があるわけではなく、例えば米国の国防長官も文民であることが条件であるが、アメリカ軍の職業軍人も退役してから10か年が経過すると文民として扱われる。また、イギリスでは、文民かつ政治家(=国会議員、主に庶民院議員)であることを要する。野田第2次改造内閣・野田第3次改造内閣で防衛大臣を務めた森本敏については非国会議員の民間人閣僚であったため、「むしろ国会議員の地位をもたない者が防衛大臣に就任することは、文民統制の理念に反するのではないか」との指摘が出た。 日本において、文民統制とは、軍事的組織構成員には発言権がないこと、と一般的に理解されているが、自衛隊は「軍」ではないとの建前から政軍関係に関する議論が乏しく、実態は、軍事的組織の予算、人事、そして行動につき、その「最終的な」命令権が、軍事的組織そのものにはなく政府や議会にあることが制度的に保障されている状態をいう、との理解にとどまっている。このため、現に防衛政策の形成と決定に際し、軍事の中枢たる統合幕僚監部及び陸海空幕僚監部が、防衛省内局と共に大きな役割を担っている。しかしながら、文民統制の観点からは、軍の役割・任務など、防衛政策の基本的問題は、立法府(国会)を中心とした開かれた国民的議論により、判断・決定されなければならない。開かれた国民的議論を通じて形成された広範な国民的合意に基づいてこそ、防衛政策は正当性を持ち、またそのより有効な実施が保障される。
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