体内輸送
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 21:45 UTC 版)
食事のうちトリグリセリド(中性脂肪の一種)の摂取量は50–125 g/日 であるのに対して、コレステロールは200–300 mg/日程度である。 高等動物種の場合、コレステロール単独で輸送されることは無く、脂質の成分比率は様々であるがトリグリセライドなど他の脂質と共にリン脂質のミセルを形成し輸送される。脂質を輸送するリン脂質にはアポリポタンパク質が含まれ、リン脂質とアポリポタンパク質を総称してリポタンパク質と呼ばれる。リポタンパク質にはいくつかの種類が存在し、比重、ミセルの大きさやアポリポタンパク質の種類で分類される。 詳細は「リポタンパク質」を参照 リポタンパク質の種類と含まれる成分リポタンパク比重粒子径アポタンパク中性脂肪重量比コレステロール重量比(エステル体重量比)補足キロミクロン <0.96 80–1,000 nm ApoB48 85% 7% (5%) トリグリセリドの輸送体。リポタンパク質の大部分を占める。 VLDL 0.96–1.006 30–75 nm プレβ 55% 19% (12%) VLDLは肝臓で分泌され、末梢において酵素リポタンパク質リパーゼの作用でトリグリセリドを失って、IDLを経由しLDLへと変化する。 IDL 1.006–1.019 22–30 nm プレβおよびβ 24% 46% (33%) 比重の小さいLDLで、体内挙動はLDLと同じ。速やかにLDLに変化するので、健常人の場合の存在量は僅か。 LDL 1.019–1.063 19–22 nm β 10% 45% (37%) HDL 1.063–1.21 7–10 nm α 5% 24% (18%) およそ70%がリン脂質とタンパク質。おもに末梢組織で分泌される。リン脂質の8割はホスファチジルコリンで占められている。 リン脂質の構造式頭部(円形部1)は親水性を示し、脂肪鎖(鎖部2)は親油性を示す。 脂質2重膜とミセルリン脂質は二重膜構造 (1) をとり細胞膜を形成する。リポタンパク質ではミセル (2) を形成し、内部の脂質を輸送する。 つまり、水にわずかしかに溶解しないコレステロールを水を主成分とする血流に乗せるために、リポタンパク質がミセルを形成し、スーツケースのようにコレステロール(エステル体)や中性脂肪を格納することで血流を介して輸送するのである。 リポタンパク質の表面のアポリポタンパク質が細胞のコレステロールを運び去るのか、受け取るのかを決定する。すなわちヒトにおけるコレステロールの輸送はそれぞれの場面において固有の役割を担うリポタンパク質などキャリヤーの存在が重要である。 コレステロールの輸送は肝臓を中心として胆汁酸とリポタンパク質より形成されるキロミクロンとにより輸送される、 肝臓 → 胆汁 → 小腸 → 肝臓を経る腸肝循環 と、LDLやHDLが介する 肝臓 → 血漿 → 末梢 → 血漿 → 肝臓の血漿循環 とに大別される。言い換えると、肝臓から末梢へのコレステロール輸送はLDLが担当し、組織(おもに遅筋)から肝臓への輸送はHDLが担当する。その役割の違いからLDLコレステロール複合体(LDLコレステロール)は「悪玉コレステロール」、HDLコレステロール複合体(HDLコレステロール)は「善玉コレステロール」と呼ばれることがある。 キロミクロン (chylomicron) と呼ばれるリポタンパク質脂質複合体はリポタンパク質の総量の大部分を占め、主に小腸粘膜と肝臓の間で脂肪を輸送する。キロミクロンは主に中性脂肪とコレステロールを肝臓に輸送し、肝臓で中性脂肪と一部のコレステロールを放出する。そしてキロミクロン粒子は LDL粒子へと変換されて肝臓から他の組織へと中性脂肪とコレステロールを輸送する。 もう一つのリポタンパク質脂質複合体であるHDL粒子はコレステロールを肝臓に逆輸送し、肝臓から分泌させる。この作用は大変興味深い作用で、巨大HDL粒子の数が多いほど健康に寄与するところが大きい。 このようにリポタンパク質の種類により役割が分化する理由は、細胞への取り込みがリポタンパク質の種類を細胞膜表面にあるリポタンパク質受容体が識別してエンドサイトーシスが生じて取り込みが起こるためである。取り込まれた小胞はリソゾーム代謝を受け、細胞に利用される。
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