電子メール 歴史

電子メール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/18 17:17 UTC 版)

歴史

先駆的活動

テキスト形式のメッセージを電気的に伝える方法は1800年代中頃のモールス信号による電報に遡る事が出来る。1939年のニューヨーク万国博覧会では、IBMが将来郵便に替わる高速の自社用電波を用いた通信で、祝福の文書をサンフランシスコからニューヨークに送った[10]第二次世界大戦中、ドイツが使用したテレタイプ端末[11]、その後テレックスが世界的に普及する1960年代末まで使われた。アメリカには同様なTWXがあり、1980年代末まで重要な通信方法の位置を占めた[12]

歴史的に「(エレクトロニック・メール)」という用語は一般的に電子化された送信文書全般を指して用いられた。例えば、1970年代前半にはファクシミリによる文書送信を指す用語として用いられる例もあった[13][14]

電子メールの起源

電子メールはインターネットに先行して開発された。既存の電子メールシステムはインターネットを作るに当たって重要な道具となった。

最初の電子メールは1965年メインフレーム上のタイムシェアリングシステムの複数の利用者が相互に通信する方法として使われ始めた。1970年代初頭までに、アメリカ国防総省自動デジタル・ネットワーク英語版 (AUTODIN) は1350台の端末間を繋ぎ、1件あたり平均3000文字のメッセージを月間3000万件取り扱えるようになった。AUTODINは18台の計算機化された大きな切替装置が運用を支え、さらに約2500台の端末を繋げるアメリカ共通役務庁英語版のアドバンスト・レコード・システムとも接続された[15]。正確なところは不明だがその類の機能を持つ最初のシステムとして、SDC(ランド研究所からのスピンオフでSAGEのソフトウェア開発を行った会社)のQ32システムがある。マサチューセッツ工科大学は1961年にCTSSを導入し[16]、複数の利用者が離れた端末から電話回線を使って中央システムにログインし、ディスクにファイルを保存し共有できる体制を整えた[17]。 電子メールは間もなく利用者が異なるコンピュータ間で情報をやり取りするための「ネットワーク電子メール」に拡張された。1966年には異なるコンピュータ間で電子メールを転送していた(SAGEでの詳細は明らかではないが、もっと早い時期に実現していたかもしれない)。

ARPANETは電子メールの発展に多大な影響を与えた。その誕生直後の1969年にシステム間電子メール転送の実験を行ったという報告がある[30]BBN社レイ・トムリンソン1971年にARPANET上の電子メールシステムを開発し、初めて@を使って利用者名と機器とを指定できるようにした[31]。ARPANET上では電子メール利用者が急激に増大し、1975年には1000人以上が利用するようになっていた。

その他にも、1978年までにUNIXメールがネットワーク化されUUCPとなり[32]、1981年にはIBMのメインフレームの電子メールがBITNETで接続された[33]

一般への浸透

ARPANETでの電子メールの利便性と利点が一般に知られるようになると、電子メールの人気が高まり、ARPANETへの接続ができない人々からもそれを要求する声が出てきた。タイムシェアリングシステムを代替ネットワークで接続した電子メールシステムがいくつも開発された。例えばUUCPIBMのVNETなどがある。

全てのコンピュータコンピュータネットワークが直接相互に接続されるわけではないので、電子メールのアドレスには情報の伝達「経路」、つまり送信側コンピュータから受信側コンピュータまでのパスを示す必要があった。電子メールはこの経路指定方法でいくつものネットワーク間(ARPANETBITNETNSFNET)でやり取りすることができた。UUCPで接続されたホストとも電子メールをやり取りすることが可能であった。

経路は「バングパス」と呼ばれる方法で指定された。あるホストから直接到達可能なホストのアドレスを書き、そこから次に到達可能なホストのアドレスをバング(感嘆符!)で接続して書いていくアドレス指定方式である[34]

CCITTは、種々の電子メールシステムの相互運用を可能とするために 1980年代にX.400標準規格を開発した。同じ頃、IETFがもっと単純なプロトコルSimple Mail Transfer Protocol (SMTP) を開発し、これがインターネット上の電子メール転送のデファクトスタンダードとなった。インターネットに各家庭から接続するようになった現代では、SMTPを基礎とする電子メールシステムの相互運用性は逆にセキュリティ上の問題を生じさせている。

1982年ホワイトハウスアメリカ国家安全保障会議 (NSC) 従事者のために IBM の電子メールシステム Professional Office System (PROFシステム)を採用した。1985年4月、このシステムがNSC従事者向けに完全動作するようになった。1986年11月、ホワイトハウスの残りの部分もオンライン化された。1980年代末ごろまではPROFシステムだけだったが、その後は様々なシステムが導入されている(VAX A-1(オールインワン)や、cc:Mailなど)。

日本では1984年からJUNETが大学間の接続を始めており、その後企業の研究機関も含めて接続が広がった。当初はASCII文字のみの想定であったが、後に JUNET において、電子メールなどで日本語(漢字)使用を可能とする文字符号化方式ISO-2022-JPが開発されている[7](電子メール#文字コード)。

1980年代後半時点におけるUNIX上でのメール作成時の日本語入力システム(FEPとも呼ばれた)としては、UNIX環境にてWnnを使用する方法があった(日本語入力システムとしては、後にCannaも出開発された)。それとは別に、MS-DOS にてシリアルポート経由での通信を目的としたKEK-Kermit等を起動してパソコンをUNIX端末としておき[35]、日本語入力システムとしてATOKあるいは松茸を利用して、パソコン側で漢字コードまでを生成し、KEK-Kermit等でパソコンローカル側の漢字コードである Shift JIS をUNIX側で指定された漢字コードであるEUC又はJIS等に変換しつつ、UNIX側に送り込むことでUNIX上でのメール作成時の漢字入力手段とする方法もあった。逆に、UNIX側で受け取った漢字入り電子メールをUNIX端末としているパソコン側で表示する際、パソコン側で受診した漢字コードは KEK-Kermit等によって再びShift JISに変換されてから表示されていた。

これに続く時代にて大学や企業にてパソコンが直接 Ethernet 接続されるようになり、また、一般家庭にもダイヤルアップ接続が拡大する中、様々な種類の電子メールクライアントが出現する。


注釈

  1. ^ ここでいう「メールアドレス」は、技術的にはメールボックス・リスト (mailbox-list) という。BCC、CC、Reply-To、Toも同様。
  2. ^ ここでいう「メールアドレス」は、技術的にはメールボックス (mailbox) という。
  3. ^ : carbon copy
  4. ^ : blind carbon copy
  5. ^ : black carbon copy
  6. ^ : forward

出典

  1. ^ RFC 5321 - Simple Mail Transfer Protocol”. Network Working Group (2008年10月). 2010年2月閲覧。
  2. ^ OCN公式ページ
  3. ^ 会員サポート…基本メールボックスの容量と保管期間
  4. ^ BIGLOBEメールの仕様
  5. ^ 「最大 50 MB のメールを受信できます。[1]
  6. ^ 「注: 25 MB を超える添付ファイルを送信するには、Google ドライブや他のファイル共有サービスを使用してください。[2]
  7. ^ a b JUNET利用の手引(第1版)
  8. ^ Using International Characters in Internet Mail[リンク切れ]
  9. ^ a b c d e JISX0032 1999.
  10. ^ The Watsons: IBM's Troubled Legacy
  11. ^ See File:Gestapo anti-gay telex.jpg
  12. ^ Telex and TWX History、ドナルド・E・キンバーリン、1986年
  13. ^ Ron Brown, Fax invades the mail market, New Scientist, Vol. 56, No. 817 (Oct., 26, 1972), pages 218-221.
  14. ^ Herbert P. Luckett, What's News: Electronic-mail delivery gets started, Popular Science, Vol. 202, No. 3 (March 1973); page 85
  15. ^ a b USPS Support Panel, Louis T Rader, Chair, Chapter IV: Systems, Electronic Message Systems for the U.S. Postal Service, National Academy of Sciences, Washington, D.C., 1976; pages 27-35.
  16. ^ "CTSS, Compatible Time-Sharing System" (September 4, 2006), サウスアラバマ大学英語版, USA-CTSS.
  17. ^ Tom Van Vleck, "The IBM 7094 and CTSS" (September 10, 2004), Multicians.org (Multics), web: Multicians-7094.
  18. ^ IBM (pdf). 1440/1460 Administrative Terminal System (1440-CX-07X and 1460-CX-08X) Application Description (Second Edition ed.). IBM. H20-0129-1. http://bitsavers.informatik.uni-stuttgart.de/pdf/ibm/144x/H20-0185-1_1440_ATS_termOpe.pdf 2013年2月22日閲覧。 
  19. ^ IBM. System/36O Administrative Terminal System DOS (ATS/DOS) Program Description Manual. IBM. H20-0508 
  20. ^ IBM. System/360 Administrative Terminal System-OS (ATS/OS) Application Description Manual. IBM. H20-0297 
  21. ^ Version 3 Unix mail(1) manual page from 10/25/1972
  22. ^ Version 6 Unix mail(1) manual page from 2/21/1975
  23. ^ APL Quotations and Anecdotes, including Leslie Goldsmith's story of the Mailbox
  24. ^ History of the Internet, including Carter/Mondale use of email
  25. ^ David Wooley, PLATO: The Emergence of an Online Community, 1994.
  26. ^ Stromberg, Joseph (2012年2月22日). “A Piece of Email History Comes to the American History Museum”. スミソニアン博物館. 2012年6月11日閲覧。
  27. ^ "...PROFS changed the way organizations communicated, collaborated and approached work when it was introduced by IBM’s Data Processing Division in 1981...", IBM.com
  28. ^ "1982 - The National Security Council (NSC) staff at the White House acquires a prototype electronic mail system, from IBM, called the Professional Office System (PROFs)....", fas.org
  29. ^ Gordon Bell's timeline of Digital Equipment Corporation
  30. ^ Tom Van Vleck (2001年2月1日). “The History of Electronic Mail”. 2008年2月21日閲覧。
  31. ^ Ray Tomlinson. “The First Network Email”. 2008年2月21日閲覧。
  32. ^ Version 7 Unix manual: "UUCP Implementation Description" by D. A. Nowitz, and "A Dial-Up Network of UNIX Systems" by D. A. Nowitz and M. E. Lesk
  33. ^ "BITNET History", livinginternet.com
  34. ^ rfc976 https://datatracker.ietf.org/doc/html/rfc976 UUCP Mail Interchange Format Standard 5節“Summary”に、( ! でホスト名をつないでメールアドレスを表現する) bang path の説明がある。bang path の例としては hosta!hostb!user などがある。
  35. ^ 木村広, 田井村明博「電子メール・電子ニュースの使い方」『長崎大学教養部紀要 自然科学篇』第33巻第1号、長崎大学教養部、1992年7月、65-109頁、ISSN 02871319NAID 120000916619 、の「5.1モデム(デジタル電話)とパソコン間のセットアップ」など]
  36. ^ 勝村幸博 (2007年12月14日). “「メールの95%は『迷惑メール』だった」、2007年のスパム動向”. ITpro. 日経BP社. 2008年2月21日閲覧。
  37. ^ 会員サポート > 大量スパムメールによるメール遅延、ならびに対策について”. @nifty. ニフティ (2004年8月13日). 2008年2月21日閲覧。[リンク切れ]





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