緑茶
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緑茶の製法
日本式の緑茶の製造は以下の工程からなる[29]。
摘採 ⇒ 蒸し ⇒ 粗揉 ⇒ 揉捻 ⇒ 中揉 ⇒ 精捻 ⇒ 乾燥 ⇒ 選別・整形⇒ 火入れ ⇒ 合組み
簡単に言うと、収穫した茶葉を蒸して揉み潰し、茶葉の型を整えつつ乾燥する、という工程の並びになる。摘採から乾燥までの工程を荒茶工程、選別・整形から合組みまでの工程を仕上げ工程という[30]。中国緑茶の製造工程は、収穫された茶葉に加熱処理を加え、揉捻し乾燥するという基本的な原理は同じだが、主流となっている方法がやや異なる。
緑茶に使われるチャノキは小葉灌木の中国種が主である。碾茶やかぶせ茶のように特別な管理のもとにチャノキを育成する茶園も存在する。日本では5月上旬に一番茶の茶摘みが行われ、八十八夜を過ぎた頃に最盛期となる。一番茶はその後の二番茶、三番茶に比べカテキン、テアニンが豊富なため滋味が強く、最上級茶に用いられる[30]。中国では清明節前に収穫された茶を明前茶と呼び、高級品に格付けされる[31]。また、緑茶の格付けは心芽(ミル芽)が多く含まれるほど高級とされ、茶摘みの際に心芽から下の葉を何枚摘み取るかによって等級が決まる。日本では一般的に一心二葉が最高級、一心三葉は準高級品とされている。中国では心芽しか使わない一心摘みの茶や一心一葉の茶が最高級クラスとして流通している[32]。
収穫された茶葉は荒茶工場に輸送される。 中国では香りを立てるために室内で冷却しつつ一定間隔で撹拌し、茶葉を萎れさせる萎凋(いちょう)と呼ばれる作業が施される[32]。 茶葉に含まれる酵素による酸化発酵(萎凋)を極力抑えた物を不発酵茶といい、この加熱処理を一般に殺青(さっせい、シャーチン、shāqīng)と呼ぶ。日本では近年一部微発酵茶の生産もあるものの、それらを除きほとんどは極力萎凋を避けることから一般には工場輸送搬入後速やかに強い蒸熱を加え発酵を止める。普通の蒸し茶の場合100℃の蒸気で30秒ほど蒸し上げるが[30]、蒸気を当てる時間が短ければ香気が強く茶葉の形が崩れない茶となり、長ければ青臭さが取れ、濃い水色をもつ円やかな茶となる。前者を浅蒸し茶、後者を深蒸し茶といい、製品の特性に合わせて選択される。 なお、中国緑茶でこのように蒸青(ゼンチン)を行っている例としては湖北省玉泉寺の仙人掌茶が著名である[33]。
中国での殺青は釜炒り(炒青、サーチン)を行うのが主流であり、炒青した茶葉を揉捻・乾燥し完成させたものを「炒青緑茶」という。他の方法として茶葉を火で焙ることで殺青する烘青(ホンチン)で一旦荒茶を作り、最終工程で炒青する「烘青緑茶」や、などもある[32]。なお、日本国内でも佐賀県の嬉野茶(うれしのちゃ)や宮崎県・熊本県県境付近の青柳茶(あおやぎちゃ)の様に釜炒りの製法を取っているものがある。
殺青を終えた茶葉は揉捻に入る。揉捻の目的は茶葉の細胞組織を破壊し浸出を良くすることと、茶葉の形を整えることである。日本の荒茶工場では、揉捻は熱風で乾燥させつつ強い力で粗く揉む粗揉、水分量を均一する揉捻、再び温風を通しながら揉む中揉、熱と力に形を整える精捻から成る[30]。なお、揉捻作業を昔ながらの手作業で行う茶は手揉み茶と呼ばれている。揉捻を終えた茶葉は乾燥機で水分量が7 - 8パーセントになるまで乾燥させ、茶葉を均一に混ぜ合わせて荒茶が完成する。この時点で消費される茶もあるが、概ね次の仕上げ工程に送られ、仕上げ茶として製品化される。
中国緑茶や日本の玉緑茶などの釜炒り茶は、揉捻を行うことで独特な茶の成形が同時に行われるが[34]、高級な中国茶は茶葉の形を維持することが求められるため、ピロチュンのようなミル芽の多い高級緑茶には強い揉捻は行われない[35]。乾燥工程では、方法によって前述の炒青緑茶・烘青緑茶として完成となるものと、黒茶用の粗成茶などの晒青緑茶の3種類に大別される[36]。中国では次工程で加工される前の荒茶を毛茶(マオチャ)という。
日本茶の仕上げ工程では、まず各所から集められた不揃いな荒茶を篩い分け、裁断して形を整える。次に熱風や遠赤外線などで乾燥させ、緑茶の香りを立たせる火入れが行われる。火入れの後に茎や枝などの煎茶に使い得ない部分が取り除かれ、茎茶、粉茶、芽茶などに選別される。火入れの終わった茶は製品の品質を一定に保つためにブレンド(合組み)が行われ、仕上げ茶が完成する[30]。
注釈
出典
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- ^ a b c d e f g h i j k #大森 第4章2節の「緑茶らしい香りの成分」より
- ^ a b c #大森 第一章1節の「作り方で色も風味も変わる」と2節の「お茶における「発酵」とは」より
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