異種金属接触腐食 事例

異種金属接触腐食

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/06 09:02 UTC 版)

事例

異種金属接触腐食が起きた、自由の女神像製外板と鋳鉄製骨組みの構造の模式図。

異種金属接触腐食の著名な事例が、アメリカ合衆国の自由の女神像の腐食である[63]。1886年に建造された自由の女神像は製の外板を鋳鉄製の骨組みで支える構造で造られ、銅に対して卑となる鋳鉄製骨組みで著しい腐食が起きた[63]。銅と鋳鉄の組み合わせに異種金属接触腐食の可能性があることは建造当時も知られており、像を設計したギュスターヴ・エッフェルは天然樹脂のシェラックを染み込ませた石綿を銅と鋳鉄の間に挟むことで解決しようとした[64]。しかし、年月を経てセラックは乾いてしまい、石綿は代わりに水分を吸収して異種金属接触腐食をかえって加速させた[65]。さらに、発生したさびが骨組み取付部を歪ませ、骨組みに外板を取り付けていたリベットの多くは緩んだり落失して、像は大変危険な状態となっていた[65][64]。このような状態の発覚後に行われた1984年からの大掛かりな改修工事で、自由の女神像の骨組みは銅と自然電位の差が小さいステンレス鋼へ取り換えられた[65][63]

異種金属接触腐食の身近な例が、水道などの配管である[4]。配管系では、継手、ポンプ、付属器具などで種々の金属材料が使われるため、異種金属接触腐食の機会が多い[66]。建築設備の水配管の錆び詰まり、赤水、穿孔といった腐食トラブルも、異種金属接触腐食が主要因の一つとなっている[67]。水配管では環境が淡水で配管内部が狭いため、流れる腐食電流は小さいが、長期的に見るとこれらのような接触部で起こる異種金属接触腐食の程度は小さくない[68]。建築設備の水配管で多いのが、銅合金製の機器や継手と、鋼管との接触部分で起こる異種金属接触腐食である[69]。鋼管を使う場合、亜鉛めっきを施したものや有機材のライニングで内面を覆ったものが用いられる[4]。ただし、銅合金と接触すると、亜鉛めっきは早期に消失して下地の炭素鋼で異種金属接触腐食が起こる[70]。ライニング鋼管の場合は、管の端部でライニングで覆われていない面が露出するため、ここを起点に異種金属接触腐食が起こることが多い[71]。そのため、ライニング鋼管に差し込む継手には、継手内に樹脂材を備えて鋼管素地の露出を防ぐ特殊な継手が使われる[72]

ねじのような締結部も異種金属接触腐食が問題となる箇所である[73]。部材を異種金属の締結部品で留めると、異種金属接触腐食が問題になることがある[73]。具体的な事例としては、水輸送用埋設パイプラインのダクタイル鋳鉄製管をボルトナットで締結した場合、ボルト・ナットが腐食する[74]。この場合、ボルト・ナットをステンレス鋼製にすることが推奨される[74]。自動車では、マグネシウム部品やアルミニウム部品を鋼製ボルトで締結したときのボルト座面で異種金属接触腐食が生じる事例があり、防錆品質上の重要部位である[75]。釘を使った事例としては、板屋根を強度上の必要性のために銅以外の釘で固定した場合に異種金属接触腐食が問題となる[76]。この場合も釘をステンレス鋼製にするのが対策の一つである[76]。古い事例としては、イギリス海軍が1761年に建造したフリゲート艦の例がある[77]。害虫による蝕みや海洋生物の付着から木製の船体を守るために薄い銅板で船体を覆い、その銅板を鉄釘で固定したところ、建造から2年後のドック入りのときにはほとんどの鉄釘は溶け、銅板が剥がれていた[77]


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