正教会
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教義
信仰内容の概要
正教会は、イイスス・ハリストス(イエス・キリストの中世ギリシア語および教会スラヴ語読み)の十字架刑による死と復活の証人とされる使徒達の信仰と、使徒達から始まった教会のあり方を唯一正しく受け継いでいると自認している。正教会は、神の啓示を信仰の基盤とし、連綿と受け継がれてきた神による啓示に基づく信仰と教えを、聖伝と呼び、聖伝を伝えていくにあたっては、聖神(聖霊)の導きがあるとする[22]。また正教会においては、キリスト教は復活の福音に他ならないとされる[23]。
正教会における聖伝の本質は、教会を形成していく人々の生きた体験の記憶である[24]。聖書・聖師父の著書・全地公会議の規定・奉神礼(祈祷書・イコン・聖歌なども含む)等は個々別々な現れであり、これらの構成要素を集積しても聖伝全体とはならない。なお正教会において聖書は、聖伝の中核であり、使徒らが残した最も公的な啓示と捉えられている[22][25][注 5]。
正教会においては、信仰は神の存在を認めることにとどまらず、神の慈愛に自らを委ねることであり、行いを伴う信仰が本来の意味における人間の完成を実現し、周囲を明るく照らすものであるとされる。信仰を自分のものとするかしないかは、その人自身の自覚と努力する意志によるとされる[26][注 6]。
教会に属する全てのものは機密的で神秘的なものとされる。特に聖体機密は「機密の機密」ないし「教会の機密」と呼ばれ、教会生活の中心と理解される[6][7][8]。
正教会が信じている内容を簡単かつ適切な言葉で表していると位置づけられるのが、日本正教会では単に信経(しんけい)と呼ばれるニケヤ・コンスタンチノープル信経である[27]。
「正教はハリストスの復活のいのちそのもの」「いのちは言葉では伝わらないこと」から、正教について言葉で説明し尽くすことは出来ないことが強調される[10]。
斎(ものいみ)について
西方教会では、第二バチカン公会議以降、斎の義務がゆるやかになったが、正教会では今でも食物制限を伴う「斎」が教義上重要な位置を保ち、信者の生活の習慣となっている。
斎は主に食物摂取の規定に言及されるが、斎の期間は他の遊興なども控え、行いを慎み、祈りを増やし、学びの機会を積極的に設け、ハリストス・教会のための働きを増すことが勧められている。「断食」という言葉で斎を限定する事は避けられる傾向がある。
斎についてのキリスト教文書の最古の規定は19世紀にコンスタンティノープル総主教庁図書室で発見された1世紀の文書『ディダケー』(十二使徒の教え)である。斎の習慣は旧約時代から継承されたものであり、古代からごく最近に至るまで、東西を問わず守られていた。
斎は祭と表裏一体をなす。大きな祭には必ず厳格な斎がその前に義務付けられる。正教徒の生活は斎と祭によってリズムをつけられているといえる。
斎の種類
斎の規定は食品を以下のように分類する。
斎は程度に応じてこれらの食品を禁止または許可するものである。 もっとも厳格な斎は、肉、魚、乾酪、酒、オリーブ油を禁食するものである。明示的に禁止されているのはぶどう酒であるが、他の酒類も避けるのが通例である。これに対して、オリーブ油以外を避けなければいけないかどうかは、論者により分かれる。
最も厳格な斎は次の時になされる。
これに対して、祭および他の定められた時節には、斎が解かれる。
また大斎中の主日には酒とオリーブ油、生神女福音祭が大斎期間にある場合には加えて魚が許される。
なお一般信徒の間では斎の際にも魚食は許される事が多い。上記の斎規定はあくまで標準的な修道院のものであり、一般信徒に対してはこれらに比べて比較的緩やかな斎が勧められるのが常である。しかしどの程度の斎・食物規定が信徒に勧められるかは地域・教区によって差があり、一概には言えない。
斎の期間
もっとも期間の長い斎は大斎である。土日を除く8週間、合計四十日が最も厳しい斎に充てられる。詳細は大斎の項を参照。
これに対して短い斎は、水・金曜日および定められた祭の前の一日の斎である。領聖前の禁食を斎とみなすならば、半日に満たない斎期間もあるといえる。
これらの中間に
などの比較的長期にわたる斎がある。
注釈
- ^ 南極大陸にも正教会がある。リラの聖イオアン聖堂を参照。南極圏に範囲を拡大すればキングジョージ島に至聖三者聖堂 (南極)がある。
- ^ ローマ・カトリックの側に立った見解においては「最も古いローマ・カトリック教会(西方教会)から東方正教会が分離した」となる。正教側の見解はこれと異なっている。少なくとも歴史上、ローマ教皇が東方教会に対して西方教会に対するのと同じような権限を行使し得た史実は無い(逆に東方の総主教が西方に対して一方的権限を行使したことも無い)。平等な総主教達の中からローマ総主教(教皇)が東方から分かれて行った、というのが正教会における認識である。このように、東西教会のいずれも、自らこそを正統であると自認している。東西両教会は8世紀から13世紀にかけて長い時間を経て差異を深め分裂に至った。詳細は東西教会の分裂を参照。
- ^ コンスタンティノープル総主教庁庇護下の自治正教会であるエストニア使徒正教会の他に、モスクワ総主教庁庇護下に自主管理教会としてのエストニア正教会がある。
- ^ 2018年にウクライナ正教会・キエフ総主教庁とウクライナ独立正教会が合同して誕生した新生ウクライナ正教会が、コンスタンティノープル総主教庁から独立を承認され、2019年にコンスタンティノープル総主教庁から独立正教会としての承認を得た。
- ^ 正教会においては「聖書は聖伝の中核」と捉える。これに対し、カトリック教会は「聖書と聖伝を同じく尊敬すべき」とする。プロテスタントには、聖書以外の伝承も重視する者もおり一概には言えないが、傾向として基本的には「聖書のみ」の姿勢をとる。
- ^ 信仰について、「その人の意志による」とはしない教派もある。たとえば予定説の立場をとる者は「その人の意志による」といった文言・考えを認めない。
- ^ 11世紀頃には「神聖にして正統普遍なる使徒の東方教会」と称していたとする説もある[32]。
- ^ καθολικός…「カソリコス」は現代ギリシャ語転写。古典ギリシャ語再建音では「カトリコス」。
出典
- ^ 至聖三者(三位一体)のイコン - 大阪ハリストス正教会のページ
- ^ エフェス書 1:23を根拠とする。Глава IX. Два аспекта Церкви - Очерк мистического богословия Восточной Церкви - Владимир Лосский(ウラジーミル・ロースキイ)
- ^ a b 信仰-教会:日本正教会 The Orthodox Church in Japan
- ^ a b c Orthodox Ecclesiology in Outline by Fr. George Dragas
- ^ Γ. Η Τριαδολογική βάση της Εκκλησιολογίας (ギリシア語) C. The Trinitarian basis of Ecclesiology (英語) (Σημειώσεις από τις παραδόσεις τού καθηγητού Ι. Δ. Ζηζιούλαより)
- ^ a b トマス・ホプコ著・イオアン小野貞治訳『正教入門シリーズ2 奉神礼』14頁・17頁、西日本主教区(日本正教会)
- ^ a b OCA - The Orthodox Faith - Volume II - Worship - The Sacraments - The Sacraments
- ^ a b OCA - The Orthodox Faith - Volume II - Worship - The Sacraments - Holy Eucharist
- ^ a b c 日本正教会|ハリストス正教会 The Orthodox Church in Japan
- ^ a b c d e f g 正教会とは:日本正教会 The Orthodox Church in Japan
- ^ 『正教会の手引き』8頁 - 11頁
- ^ OCA - Q&A - Greek Orthodox and Russian Orthodox - Orthodox Church in Americaのページ。(英語)
- ^ a b 正教会(ギリシャ正教:東方正教会)・ニコライ堂について よくある質問
- ^ This is not true. For example, the Russian Orthodox Church had been a metropolitanate of the Patriarchate of Constantinople for a few centuries since its establishment in 988. Eventually she received independence (autocephaly) in 1589, and it is very important to note that this independence was received in a strict accordance with the Orthodox Canon Law, which is essential for all Canonical Churches. It clearly states the difference between an autocephaly and schism. Please see Autocephaly of the Russian Church for reference.
- ^ a b c "The Blackwell Dictionary of Eastern Christianity" Wiley-Blackwell; New edition (2001/12/5), p169 - p170, ISBN 9780631232032
- ^ CATHOLIC ENCYCLOPEDIA: Eastern Schism
- ^ a b 高橋(1980) p94
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- ^ 『正教会の手引き』6頁
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- ^ a b c d e 教え-聖伝:日本正教会 The Orthodox Church in Japan
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- ^ Scripture and Tradition | Antiochian Orthodox Christian Archdiocese
- ^ 『正教要理』2頁 - 5頁、日本ハリストス正教会教団 昭和55年12月12日第1刷
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- ^ “カレンダー>2023年 斎の期間”. 日本ハリストス正教会教団 東京復活大聖堂公式サイト. 2023年7月17日閲覧。
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- ^ Bases of the Social Concept of the Russian Orthodox Church
- ^ Politics in Orthodox Christianity
- ^ 尚樹啓太郎『ビザンツ帝国史』1999年 東海大学出版会 P522より
- ^ 高橋保行『ギリシャ正教』(講談社学術文庫)、1980年。ISBN 4-06-158500-2
- ^ a b c d OCA - The Orthodox Faith - Volume I - Doctrine - The Symbol of Faith - Church
- ^ パーヴェル・エフドキーモフ著、古谷 功訳『ロシア思想におけるキリスト』129頁 - 130頁(1983年12月 あかし書房)ISBN 4870138093 においてアレクセイ・ホミャコーフ(1804年 - 1860年)の考察として記述
- ^ かたち-聖職者と修道士:日本正教会 The Orthodox Church in Japan
- ^ 高橋(1980) p82 - p84
- ^ トマス・ホプコ著・イオアン小野貞治訳『正教入門シリーズ2 奉神礼』25頁、西日本主教区(日本正教会)
- ^ a b c Ιερά Παράδοση - OrthodoxWiki
- ^ Sfânta Tradiție - OrthodoxWiki
- ^ a b OCA - The Orthodox Faith - Volume I - Doctrine - Sources of Christian Doctrine - Tradition
- ^ a b Священное Предание 《Закон Божий》
- ^ The Attributes of the Church, by St. Justin Popovich - ArchangelsBooks.com
- ^ Introduction: What Is The Greek Orthodox Church? Greek Orthodox Archdiocese of America
- ^ Священное Предание (АЗБУКА ВЕРЫ、司祭:オリェグ・ダヴィデニコフ)
- ^ Tradition in the Orthodox Church; Greek Orthodox Archdiocese of America
- ^ 教え-生神女マリヤ、聖人、聖師父:日本正教会 The Orthodox Church in Japan
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