正教会 正教を国教とする国家

正教会

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/25 01:14 UTC 版)

正教を国教とする国家

正教を国教とする国家としてはギリシャギリシャ正教会)、フィンランドフィンランド正教会)、キプロス(キプロス正教会)が挙げられる。ロシアにおいてはロシア正教会が最大多数を占めるが、国教とは定められていない[30][31]

名称・別称

東方正教会

東方正教会という別称は、西方教会(ローマ・カトリック、聖公会、プロテスタントほか)に対置される語である。両者は11世紀頃に分立した。東方教会という名称は多く西方で使われる語であり、正教会自身は、たんに「正教」ないし「正教会」の語を好んで用いる[注 7]。これは「正教」が「正しい教え」であるため、それ以上の限定を必要としないという発想に基づいているほか、現在は正教会の伝道範囲が東方に限定されていないという現状も反映されている半面、日本語では東方正教との区別がつきにくくなるというプラクティカルな問題もある(英語では"eastern"と"oriental"ではっきり区別される)。また自称としては「正教徒」が多く使われる。

ギリシャ正教

英語ではギリシャで発祥した教会という意味で Greek Orthodox Church ともいい、これにあわせて日本では正教会を指してギリシャ正教と呼ぶことも多い。これはギリシア語圏に正教会の中心があったことから誤用とはいいがたく、日本ハリストス正教会関係者のなかにも、ギリシャ正教の語を用いる者がいる[33]。なおギリシャ正教会と呼ぶこともあるが、これは近代に設置された、ギリシャ共和国を主として管轄するギリシャ正教会(ギリシャ共和国の正教会)(Church of Greece) を指す名称でもある。

その他

「ロシア正教」が教派名として使われる事がままあるがこれは誤りである。「ロシア正教」は教派名ではなく組織名であり、その教義は他の正教会組織であるグルジア正教会ブルガリア正教会セルビア正教会ギリシャ正教会ルーマニア正教会日本正教会などと完全に同様である。また、グルジア正教会5世紀ブルガリア正教会10世紀セルビア正教会13世紀独立正教会として承認されているが(ただしいずれも後代、一時的に地位喪失の期間があった)、ロシア正教会は独立正教会としての地位を母教会から承認されたのは16世紀に入ってからであり、相対的には新しい組織であるという点に鑑みても、「ロシア正教」は教派の別名として用いるのは適切でない[13]

正教会と頻繁に比較される別教派としてローマ・カトリック教会があるが、「オーソドクス」(正しい讃美)と「カトリック」(普遍)は元来、対立概念ではなく、違う文脈から教会の性質を述べるものである(後述)。正教会もまた信経にある通りに、「一つの聖にして『公なる』(カトリケー)使徒の教会」であることを任じており、教会の普遍性(カトリコス)を深く自覚しているが、自教会の名称としては「オーソドクス」を名乗っている[3]

教会とは何か(教会論・聖職者)

神品による奉神礼の光景。イコノスタシスの向こう側の至聖所宝座手前で水色の祭服を着用し、宝冠を被って奉事に当たっているのが主教。左手前に大きく写っている濃い緑色の祭服を着用した人物と、至聖所の奥に小さく写っている人物が司祭。白地に金色の刺繍を施された祭服を着ている二人が輔祭である。正教会では祭日ごとに祭服の色を統一して用いるのが一般的であり、このように諸神品が別々の色の祭服を用いるケースはそれほど多くは無い。また、祭服をこのように完装するのは写真撮影などの特別な場合を除いて奉神礼の場面に限られている。

基本

正教会における教会論(教会とは何か)においては、教会はハリストス(キリスト)の体であり、至聖三者(三位一体の神)の像であると理解され、教会の首(かしら)はハリストスであるとされる[4]

「聖にして公なる使徒の教会」

正教会は信経において「聖にして公なる使徒の教会」とされる[34]

教会は聖なるハリストスの体であり、至聖三者(三位一体の神)の像であり、聖なる神との交わりの中にあるため、聖であると理解される[34]

「公なる」(カトリックギリシア語: καθολικός カソリコス[注 8], 英語: Catholic)については、地理的な広がりといった外的なものとしてのみ理解されるべきではなく(地理的に拡大する以前から教会は「公なる」ものであったと理解される[34])、質的な面からも理解されなければならない[35]。「公なる教会」は正教において、充分であり、完全であり、全てを包括し、欠落が無いことを意味する[34]

「使徒の」については、正教会が自教会を、使徒達の信仰と、使徒達から始まった教会のありかたを、唯一正しく受け継いできた教会であるとすることを意味する[10]。また、「ハリストス(キリスト)の体(聖体血)を中心にした奉神礼共同体」としても自教会を捉え、ビザンティン時代に現在のかたちがほぼ確立した奉神礼(礼拝)には、ハリストスと使徒達によって行われた礼拝のかたちと霊性が保たれているとする[10][20]

聖体礼儀

パンブドウ酒をハリストス(キリスト)の体と血として食べる感謝の祭儀(聖体礼儀)は、正教会においてキリスト教の伝統の神髄とされる。教会共同体の中心にはこの感謝の祭儀(聖体礼儀)があるとし[20]、この「聖体血を食べる」ことを通じて、信者がハリストス・神と一つとなり、互いが一つとなり、ハリストスが集めた「新たなる神の民の集い・教会」が確かめられるとする[10]

神品(聖職者)

正教会における聖職者は神品(しんぴん)という[36]

教会という共同体が拡大するにつれて使徒達が自身に代わるものとして共同体の中心に置いた者は主教であり、現代の正教会にみられる主教はこれの継承者であり、主教達のまとめ役として総主教府主教大主教がいる[20][37]

主教の輔佐役として司祭輔祭がいる。司祭は主教区に属する管轄区において奉神礼を司祷し、説教、相談等の職務にあたる。輔祭は聖体礼儀や教会の他の職務に際し、また他の教会における働きに際し、主教・司祭の輔佐を行う。輔祭、司祭、主教の順に叙聖されていくが、司祭と輔祭は輔祭叙聖前であれば妻帯できる(主教は修道士から選ばれるため独身である)[38]


注釈

  1. ^ 南極大陸にも正教会がある。リラの聖イオアン聖堂を参照。南極圏に範囲を拡大すればキングジョージ島至聖三者聖堂 (南極)がある。
  2. ^ ローマ・カトリックの側に立った見解においては「最も古いローマ・カトリック教会西方教会)から東方正教会が分離した」となる。正教側の見解はこれと異なっている。少なくとも歴史上、ローマ教皇が東方教会に対して西方教会に対するのと同じような権限を行使し得た史実は無い(逆に東方の総主教が西方に対して一方的権限を行使したことも無い)。平等な総主教達の中からローマ総主教(教皇)が東方から分かれて行った、というのが正教会における認識である。このように、東西教会のいずれも、自らこそを正統であると自認している。東西両教会は8世紀から13世紀にかけて長い時間を経て差異を深め分裂に至った。詳細は東西教会の分裂を参照。
  3. ^ コンスタンティノープル総主教庁庇護下の自治正教会であるエストニア使徒正教会の他に、モスクワ総主教庁庇護下に自主管理教会としてのエストニア正教会がある。
  4. ^ 2018年ウクライナ正教会・キエフ総主教庁ウクライナ独立正教会が合同して誕生した新生ウクライナ正教会が、コンスタンティノープル総主教庁から独立を承認され、2019年にコンスタンティノープル総主教庁から独立正教会としての承認を得た。
  5. ^ 正教会においては「聖書は聖伝の中核」と捉える。これに対し、カトリック教会は「聖書と聖伝を同じく尊敬すべき」とする。プロテスタントには、聖書以外の伝承も重視する者もおり一概には言えないが、傾向として基本的には「聖書のみ」の姿勢をとる。
  6. ^ 信仰について、「その人の意志による」とはしない教派もある。たとえば予定説の立場をとる者は「その人の意志による」といった文言・考えを認めない。
  7. ^ 11世紀頃には「神聖にして正統普遍なる使徒の東方教会」と称していたとする説もある[32]
  8. ^ καθολικός…「カソリコス」は現代ギリシャ語転写。古典ギリシャ語再建音では「カトリコス」。

出典

  1. ^ 至聖三者(三位一体)のイコン - 大阪ハリストス正教会のページ
  2. ^ エフェス書 1:23を根拠とする。Глава IX. Два аспекта Церкви - Очерк мистического богословия Восточной Церкви - Владимир Лосскийウラジーミル・ロースキイ
  3. ^ a b 信仰-教会:日本正教会 The Orthodox Church in Japan
  4. ^ a b c Orthodox Ecclesiology in Outline by Fr. George Dragas
  5. ^ Γ. Η Τριαδολογική βάση της Εκκλησιολογίας (ギリシア語) C. The Trinitarian basis of Ecclesiology (英語)Σημειώσεις από τις παραδόσεις τού καθηγητού Ι. Δ. Ζηζιούλαより)
  6. ^ a b トマス・ホプコ著・イオアン小野貞治訳『正教入門シリーズ2 奉神礼』14頁・17頁、西日本主教区(日本正教会)
  7. ^ a b OCA - The Orthodox Faith - Volume II - Worship - The Sacraments - The Sacraments
  8. ^ a b OCA - The Orthodox Faith - Volume II - Worship - The Sacraments - Holy Eucharist
  9. ^ a b c 日本正教会|ハリストス正教会 The Orthodox Church in Japan
  10. ^ a b c d e f g 正教会とは:日本正教会 The Orthodox Church in Japan
  11. ^ 『正教会の手引き』8頁 - 11頁
  12. ^ OCA - Q&A - Greek Orthodox and Russian Orthodox - Orthodox Church in Americaのページ。(英語)
  13. ^ a b 正教会(ギリシャ正教:東方正教会)・ニコライ堂について よくある質問
  14. ^ This is not true. For example, the Russian Orthodox Church had been a metropolitanate of the Patriarchate of Constantinople for a few centuries since its establishment in 988. Eventually she received independence (autocephaly) in 1589, and it is very important to note that this independence was received in a strict accordance with the Orthodox Canon Law, which is essential for all Canonical Churches. It clearly states the difference between an autocephaly and schism. Please see Autocephaly of the Russian Church for reference.
  15. ^ a b c "The Blackwell Dictionary of Eastern Christianity" Wiley-Blackwell; New edition (2001/12/5), p169 - p170, ISBN 9780631232032
  16. ^ CATHOLIC ENCYCLOPEDIA: Eastern Schism
  17. ^ a b 高橋(1980) p94
  18. ^ クレマン(1977) p104
  19. ^ 『正教会の手引き』6頁
  20. ^ a b c d 高橋(1980) p80 - p82
  21. ^ 府主教ダニイル主代郁夫『2009年 復活大祭』正教時報 2009年4月号、7頁
  22. ^ a b c d e 教え-聖伝:日本正教会 The Orthodox Church in Japan
  23. ^ ハリストス復活!実に復活!名古屋ハリストス正教会内のページ)
  24. ^ 『正教要理』18頁 - 19頁、日本ハリストス正教会教団 昭和55年12月12日第1刷
  25. ^ Scripture and Tradition | Antiochian Orthodox Christian Archdiocese
  26. ^ 『正教要理』2頁 - 5頁、日本ハリストス正教会教団 昭和55年12月12日第1刷
  27. ^ 『正教要理』20頁、日本ハリストス正教会教団 昭和55年12月12日第1刷
  28. ^ カレンダー>2023年 斎の期間”. 日本ハリストス正教会教団 東京復活大聖堂公式サイト. 2023年7月17日閲覧。
  29. ^ First among Equals; Greek Orthodox Archdiocese of America
  30. ^ Bases of the Social Concept of the Russian Orthodox Church
  31. ^ Politics in Orthodox Christianity
  32. ^ 尚樹啓太郎『ビザンツ帝国史』1999年 東海大学出版会 P522より
  33. ^ 高橋保行『ギリシャ正教』(講談社学術文庫)、1980年。ISBN 4-06-158500-2
  34. ^ a b c d OCA - The Orthodox Faith - Volume I - Doctrine - The Symbol of Faith - Church
  35. ^ パーヴェル・エフドキーモフ著、古谷 功訳『ロシア思想におけるキリスト』129頁 - 130頁(1983年12月 あかし書房)ISBN 4870138093 においてアレクセイ・ホミャコーフ1804年 - 1860年)の考察として記述
  36. ^ かたち-聖職者と修道士:日本正教会 The Orthodox Church in Japan
  37. ^ 高橋(1980) p82 - p84
  38. ^ トマス・ホプコ著・イオアン小野貞治訳『正教入門シリーズ2 奉神礼』25頁、西日本主教区(日本正教会)
  39. ^ a b c Ιερά Παράδοση - OrthodoxWiki
  40. ^ Sfânta Tradiție - OrthodoxWiki
  41. ^ a b OCA - The Orthodox Faith - Volume I - Doctrine - Sources of Christian Doctrine - Tradition
  42. ^ a b Священное Предание 《Закон Божий》
  43. ^ The Attributes of the Church, by St. Justin Popovich - ArchangelsBooks.com
  44. ^ Introduction: What Is The Greek Orthodox Church? Greek Orthodox Archdiocese of America
  45. ^ Священное Предание (АЗБУКА ВЕРЫ、司祭:オリェグ・ダヴィデニコフ)
  46. ^ Tradition in the Orthodox Church; Greek Orthodox Archdiocese of America
  47. ^ 教え-生神女マリヤ、聖人、聖師父:日本正教会 The Orthodox Church in Japan






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