整域 整域の概要

整域

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/11 00:21 UTC 版)

上記の如く「整域」を定めるのが広く採用されているけれども、いくらかの揺れもある。特に、非可換な整域を許すことが時としてある[3]。しかし、「整域」(integral domain) という語を可換の場合のために用い、非可換の場合には「」(domain) を用いることにすると約束するのがたいていの場合には有効である(奇妙な話ではあるが、この文脈では形容辞「整」の中に「可換」の意も含まれるということになる)。別な文献では(ラングが顕著だが)整環 (entire ring) を用いるものがある[4][注 1]

いくつか特定の種類の整域のクラスについては、以下のような包含関係が成立する。

可換環整域整閉整域一意分解環単項イデアル整域ユークリッド環有限体

零因子の非存在(零積法則)は、整域において非零元による乗法の簡約律が満足されることを意味する。つまり、a ≠ 0 のとき、等式 ab = ac から b = c が結論できる。

定義

以下の同値な条件のうちの一つ(従って全部)を満足するものを整域と定める。

  • 単位元を持つ可換環で、その任意の非零元の積は非零である。
  • 単位元を持つ可換環で、その零イデアル {0} が素イデアルとなる。
  • 可換体の部分環としての単位元を持つ(可換)環。体の部分環であるから可換性は自動的に成り立つので、可換性は明記してもしなくても同じである。
  • 単位元を持つ可換環で、その任意の非零元 r に対して各元 xr による積 xr へ写す写像が単射になる。この性質を持つ元 r正則 (regular) であるという。故に、この条件は「任意の非零元が正則元であるような、単位元を持つ可換環」と短く言うことができる。

  • 整域の原型的な例は、整数全体の成す環 Z である。
  • 任意のは整域である。逆に任意のアルティン整域は体になる。特に任意の有限整域は有限体になる(より一般に、ウェダーバーンの小定理により、任意の有限は有限体である)。整数環 Z は非アルティン的無限整域の例であって、体を成さない。アルティンでないことは、イデアルの無限降鎖
    を持つことによる。
  • 係数環が整域であるような多項式環は整域となる。例えば、整係数の一変数多項式環 Z[X] や係数の二変数多項式環 R[X, Y] は整域である。
  • 各整数 n ≥ 1 に対して、適当な整数 a, b を用いて a + bn の形に書ける実数全体の成す集合は R の部分環を成すから、それ自体整域となる。
  • 各整数 n ≥ 0 に対して、適当な整数 a, b を用いて a + bin の形に書ける複素数全体の成す集合は C の部分環となるから、整域を成す。特に n = 1 の場合の整域はガウス整数環と呼ばれる。
  • p-進整数環
  • U複素数平面 C領域連結開集合)とするとき、正則函数 f: UC 全体の成す環 H(U) は整域である。同様に解析的多様体の領域上で定義される解析函数全体の成す環も整域を成す。
  • 可換環 R とそのイデアル P に対し、剰余環 RP が整域となるための必要十分条件は P素イデアルとなることである。また、R が整域であることは零イデアル (0) が素イデアルとなることと同値である。
  • 任意の正則局所環は整域である(実はUFDになる[5][6])。

以下のような環は整域にならない。

可除性、素元と既約元

ab が整域 Rであるとき、「ab割る整除する)」あるいは「ab約元である」「ba倍元である」ということを、ax = b を満たす R の元 x が存在することを以って定義する。このとき、a | b と表す。

乗法単位元を割るような元は R単元と呼ぶ(これはちょうど R の可逆元の概念と一致する)。単元は他の全ての元を整除する。

ab を整除し、かつ ba を整除するならば ab同伴 (associate) する、あるいは互いに同伴な元であるという。

単元でないような元 q について、q既約元であるとは、q が単元でない二つの元の積に表されることが無いときにいう。

零元でも単元でもない元 p について、 p素元であるとは、p が任意の積 ab を割るならば必ず pa または b の約元となるときにいう。このことは、「その元が生成するイデアルが素イデアルであるような元を素元という」と言っても同じである。任意の素元は既約元である。逆にGCD整域(例えば UFD)において任意の既約元は素元となる。

素元の概念は、(負の素元が許されることを除けば)有理整数環 Z における素数の概念の一般化になっている[注 2]。任意の素元が必ず既約元となることに対し、その逆は一般には真でない。例えば二次整数環 において、数 3 は既約だが素元でない。実際、3 のノルムである 9 は

という二種類の分解を持つが、このとき 3 は積 を割るが、 も割らない。数 3 および が既約であることは a2 + 5b2 = 3 が整数解を持たないことなどから分かる。

上記の例では素元分解の一意性が満たされないが、イデアルを考えれば一意的なイデアル分解が得られる。ラスカー-ネーターの定理も参照。


注釈

  1. ^ 「整環」という用語は、代数体の整環 (order) などに対しても用いられる。
  2. ^ 素数の通常の定義は、ちょうど素数が Z既約元であることをいうものである。

出典

  1. ^ Dummit and Foote, p.229
  2. ^ Rowen (1994), Algebra:Groups, Rings, and Fields (p. 99), p. 99, - Google ブックス.
  3. ^ J.C. McConnel and J.C. Robson "Noncommutative Noetherian Rings" (Graduate studies in Mathematics Vol. 30, AMS)
  4. ^ pp.91-92 Lang, Serge (1993), Algebra (Third ed.), Reading, Mass.: Addison-Wesley Pub. Co., ISBN 978-0-201-55540-0, Zbl 0848.13001 
  5. ^ Maurice Auslander; D.A. Buchsbaum (1959). “Unique factorization in regular local rings”. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 45 (5): 733-734. doi:10.1073/pnas.45.5.733. PMC 222624. PMID 16590434. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC222624/. 
  6. ^ Masayoshi Nagata (1958). “A general theory of algebraic geometry over Dedekind domains. II”. Amer. J. Math. (The Johns Hopkins University Press) 80 (2): 382-420. doi:10.2307/2372791. JSTOR 2372791. 


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