敗血症 敗血症の概要

敗血症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/06 09:03 UTC 版)

感染症と全身性炎症反応症候群と敗血症の関係。

国際的な診断基準では、感染症が疑われSOFAスコア英語版がベースラインから2点以上増加しているものを敗血症としている[3]細菌ウイルス真菌感染症[4]の全身に波及したもので、非常に重篤な状態であり、無治療ではショック播種性血管内凝固症候群 (DIC)、多臓器不全などから死に至る。元々の体力低下を背景としていることが多く、治療成績も決して良好ではない。

これに対し、傷口などから細菌が血液中に侵入しただけの状態は菌血症と呼ばれ区別されるが、医学専門以外のメディアなどでは敗血症として表記されることも多い[5]。また、敗血症と全身性炎症反応症候群 (SIRS) は似ているが、後者は感染によらない全身性の炎症を含んでいる点が異なる[6]

症状

悪寒倦怠感鈍痛、認識力の低下、80% 程度の患者で全身の炎症を反映して著しい発熱を示すが、10-15% 程度の患者では低体温症となる[7][8]。末梢血管の拡張の結果、末梢組織に十分な栄養と酸素が届かず、臓器障害や臓器灌流異常、血圧低下が出現する。進行すれば錯乱などの意識障害を来たす。播種性血管内凝固症候群を合併すると血栓が生じるために多臓器が障害(多臓器不全)され、また血小板が消費されて出血傾向となる。起炎菌が大腸菌などのグラム陰性菌であると、菌の産生した内毒素(エンドトキシン)によってエンドトキシンショックが引き起こされる。また代謝性アシドーシス呼吸性アルカローシスの混合性酸塩基平衡異常を来たす。敗血症性ショック症状を起こすと患者の25%は死亡する[9]

敗血症の徴候である shaking chill(悪寒戦慄)、呼吸数>30回/分、酸素飽和度の低下、血液ガス分析 (ABG) での代謝性アシドーシス、乏尿、意識レベルの変化(大抵は低下)を危険な熱の特徴 (severe high fever) という。severe high fever の他、体温 38.5 ℃ 以上で悪寒戦慄を伴う場合、白血球数が 12000/マイクロリットル (µL) 以上、または 4000/µL 未満の場合、静脈注射抗生物質を使うときは血液培養の適応がある[10]

検査

各種感染症検査の他、プレセプシンエンドトキシンプロカルシトニンの測定が行われる。ショックの確認のために収縮期血圧 (90 mmHg) や血漿乳酸値 (4 mmol/L) などを確認する。全身性炎症反応症候群の診断には下記項目の測定が必要である。下記の4項目のうち2項目を満たした場合、全身性炎症反応症候群と診断される。

体温の変動
38 ℃ 以上、ないし 36 ℃ 以下。
脈拍数の増加
90回/分以上。
呼吸数の増加
呼吸数増加(20回/分以上)または PaCO2 が 32 Torr以下。
白血球数
12,000/μl 以上、ないし 4,000/μl 以下。あるいは未熟顆粒球が 10% 以上。

診断基準

集中治療室 (ICU) での治療が行われている患者と非集中治療室で治療を受けている患者では基準が異なる[11]Sequential Organ Failure Assessment;SOFA のスコアを利用する。

SOFAスコア (日本版敗血症診療ガイドライン 2016 - 日本救急医学会より引用)[7]
項目 点数
0 1 2 3 4
呼吸機能
PaO2/FiO2 [mmHg]
≧ 400 400 >≧ x ≧ 300 300 > x ≧ 200 200 > x ≧ 100
呼吸補助下
100 > x
呼吸補助下
凝固機能
血小板数 [×103/mm2]
x ≧ 150 150 > x ≧ 100 100 > x ≧> 50 50 > x ≧ 20 20 > x
肝機能
血漿ビリルビン値 [mg/dL]
< 1.2 1.2〜1.9 2.0〜5.9 6.0〜11.9 > 12.0
循環機能
血圧低下
平均動脈圧 ≧70 mmHg 平均動脈圧 <70 mmHg ドパミン≦5γ
あるいはドブタミン投与
(投与量を問わない)
ドパミン>5γ
あるいはアドレナリン≦0.1γ
あるいはノルアドレナリン≦0.1γ
ドパミン>15γ
あるいはアドレナリン>0.1γ
あるいはノルアドレナリン>0.1γ
中枢神経機能
Glasgow Coma Scale
15 14〜13 12〜10 9〜6 6未満
腎機能
クレアチニン値 [mg/dL]
1.2未満 1.2〜1.9 2.0〜3.4 3.5〜4.9
あるいは尿量が 500 mL/日 未満
>5.0
あるいは尿量が 200 mL/日 未満
集中治療室
感染症が疑われ、SOFA総スコア 2点以上の急上昇があるとき。
非集中治療室
quick SOFA (qSOFA) 2項目以上で敗血症を疑う。最終診断は集中治療室患者に準じる。
  • qSOFA
    • 呼吸数 22回/分 以上
    • 意識レベルの低下
    • 収縮期血圧 100 mmHg 以下

病態

全身性炎症反応症候群のうち、感染を基盤とする全身性炎症反応症候群が敗血症である。言いかえると敗血症は感染を基盤として発症する急性循環不全である。初期には血液分布異常性ショックを呈する。血管内皮細胞の障害が深くかかわると考えられており、の血管内皮が障害されれば脳浮腫が起こり、の血管内皮が障害されれば急性呼吸窮迫症候群が起こり、四肢の血管内皮細胞が障害されれば浮腫が起こると考えられている。初期には高心拍出量性ショックを示すが、血管内皮細胞障害が進行すると低心拍出量ショックに移行する。適切な輸液負荷を行っても低血圧が継続する場合もある。


  1. ^ 「敗血症治療の現在地」日経メディカルオンライン(2016年4月14日))※閲読は要会員登録。
  2. ^ a b ■NEWS 一般医を含めた敗血症の診療能力の底上げを―日本敗血症連盟 日本医事新報社(2019年8月27日)2020年2月15日閲覧
  3. ^ 新しい敗血症の定義 (PDF) 慶應義塾大学 佐々木淳一
  4. ^ 敗血症.com日本集中治療医学会 日本救急医学会 日本感染症学会(2020年2月15日閲覧)
  5. ^ 小さなけがのはずが…皮膚が壊死 長引く入院、募る不安朝日新聞デジタル(2020年2月13日)2020年2月15日閲覧
  6. ^ 『日本版敗血症診療ガイドライン』2013年版による。
  7. ^ a b 日本版敗血症診療ガイドライン 2016 日本救急医学会 (PDF)
  8. ^ 薬師寺 泰匡(岸和田徳洲会病院救命救急センター)「低体温患者で必ずチェックしたい2つの疾患」日経メディカル(2019年2月7日)2020年2月15日閲覧
  9. ^ 敗血症性ショックMSDマニュアル家庭版(2020年2月15日閲覧)
  10. ^ 『Dr宮城の教育回診実況中継』 ISBN 4-7581-0615-0ISBN 978-4-7581-0615-3
  11. ^ 「敗血症の早期拾い上げにqSOFAを使いこなせ!」日経メディカルオンライン(2017年10月10日)※閲読は要会員登録。
  12. ^ Surviving Sepsis Campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2008Crit Care Med、2008年1月;36(1):296-327.PMID:18158437
  13. ^ 「体を冷やすと生存率向上、敗血症性ショックでは体温を何度まで下げる?」MEDLEYニュース(2015年8月14日)2020年2月15日閲覧
  14. ^ Robson WP, et al. Br J Nurs. 2008;17:16-21. doi:10.12968/bjon.2008.17.Sup1.28145
  15. ^ 特集◎あなたが救う敗血症《初期治療》血培必須、1時間以内にしっかり抗菌薬投与『日経メディカル』2017年10月号(2020年2月15日閲覧)


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