少年法 歴史と主な改正

少年法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/16 16:11 UTC 版)

歴史と主な改正

  • 旧少年法(大正11年法律42号)の下では少年の定義は18歳未満(第一条)、死刑適用限界年齢は16歳以上(第七条)[注釈 3]といずれも2歳低かった[14]。また、戦時中は戦時刑事特別法があり、少年法上の少年であっても裁判上は少年扱いせずに裁くことも可能だった。
  • 現行少年法は1947年(昭和23年)、GHQの指導の下、米国イリノイ州シカゴ少年犯罪法を模範として制定された。当時は第二次大戦後の混乱期であり、食料が不足する中、生きていくために窃盗や強盗などをする孤児などの少年が激増し、また成人の犯罪に巻き込まれる事案も多く、また性犯罪も激増している。これらの非行少年を保護し、再教育するために制定されたものであって、少年事件の解明や、犯人に刑罰を加えることを目的としたものではなかった[15]
  • 1970年(昭和45年)、法務省は法制審議会に対し、18歳と19歳を「青年」と規定して犯罪を犯した際の処罰を強化することを盛り込んだ少年法改正要綱を諮問したが[16]、法改正には至らなかった。
  • 2000年(平成12年):刑事処分の可能年齢が「16歳以上」から「14歳以上」に引き下げられた。また、16歳以上の少年が故意の犯罪行為で被害者を死亡させたときは、検察官への逆送が原則となった[4]
  • 2007年(平成19年):少年犯罪の凶悪化や低年齢化に対応するため、少年院送致の年齢下限が現行の14歳以上から「おおむね12歳以上」に引き下げられた[17]。警察官が触法少年の疑いがある者を発見した場合の任意調査権を明文化し、少年や保護者を呼び出して質問できる権限を明記[17]
  • 2008年(平成20年):2004年(平成16年)に成立した犯罪被害者等基本法と整合性をとるため、殺人事件等一定の重大事件において少年の心身に影響がないと判断された場合、被害者が少年審判の傍聴をできる制度が創設された[18]
あわせて、家庭裁判所が被害者等に対し審判の状況を説明する制度が創設された[18]
被害者は原則として、記録の閲覧・謄写できるようになり、また可能範囲が拡大された[18]
改正前は犯行の動機・態様及びその結果その他当該犯罪に密接に関連する重要な事実を含む非行事実に係る部分のみだったが、少年の身上に関する供述調書や審判調書、少年の生活状況に関するその保護者の述調書等についてもその対象となった[18]
被害者による意見の聴取の対象者を拡大し、被害者の心身に重大な故障がある場合には被害者に代わり、被害者の配偶者、直系の親族または兄弟姉妹が意見を述べることが可能となった[18]。また、少年の福祉を害する成人の刑事事件(未成年者喫煙禁止法未成年者飲酒禁止法労働基準法児童福祉法学校教育法に規定される)の管轄が家庭裁判所から地方裁判所に移管された。
  • 2014年(平成26年):18歳未満の少年に対し、無期懲役に代わって言い渡せる有期懲役の上限が15年から20年に延長され、不定期刑も「5年 - 10年」を「10年 - 15年」に引き上げられた[3][4]。(第186回国会、可決日:2014年〈平成26年〉4月11日、公布日:2014年〈平成26年〉4月18日、施行日:2014年〈平成26年〉5月9日)[3]
  • 2020年(令和2年)7月30日、少年法の適用年齢を引き下げるかどうか議論してきた自民党、公明党のプロジェクトチームは、適用年齢を引き下げず、改正民法施行に伴い成人となる18、19歳も少年法の対象とすることで正式合意した。
  • 2021年(令和3年):民法の成人年齢が18歳に引き下げられることに合わせ[19]、18歳と19歳を「特定少年」と位置づけ、家庭裁判所から検察官に逆送致する事件の対象を拡大することや、公判廷において起訴された場合には実名報道を可能とすることを盛り込んだ改正少年法が可決、成立した[9][10][11][12]。本改正は2022年(令和4年)4月1日に施行された[20][21]。甲府地検は4月8日、甲府市殺人放火事件において殺人・殺人未遂、現住建造物等放火、住居侵入の罪で起訴された被告人の男(事件当時19歳、2024年に死刑確定)の氏名と顔写真を、改正された少年法の施行後初めて公開した[22][23]
    • 「特定少年」については、民法上・公職選挙法上の成年として扱われることにはなったが、成長途上にあり、罪を犯した場合にも適切な教育や処遇による更生が期待できるため、少年法の適用自体は維持された。他方、成年年齢の引き下げにより重要な権利・自由を認められ、責任ある主体として社会に参加することが期待される立場となったことから、その立場に応じた取り扱いとする改正がなされた(いずれも2022年4月1日施行)。法務省のQ&Aによれば、そのあらましは以下のとおりである[24]
      • 原則検察官送致(逆送)の対象を拡大し、現行の殺人や傷害致死に加え、強盗や強制性交など法定刑の下限が1年以上の懲役禁固の事件が新たに追加された(Q8)。
      • 特定少年の実名報道は、逮捕時時点では禁止は継続されるが、起訴(略式起訴は除く。)後に解禁されることになった(Q9)。
      • 特定少年の刑事裁判における取り扱いは成人と同様とされ、判決時に刑期を定めない不定期刑が廃止された(Q10)。
      • 特定少年の保護処分は、少年院送致(3年以内)、2年間の保護観察(遵守事項違反時は少年院収容可)、6か月の保護観察のいずれかから選択されるものとされた。また、民法上の成年とされたことから、将来罪を犯すおそれがあることを理由として行われるものであるぐ犯少年としての保護処分は行わないこととなった(Q11)。

注釈

  1. ^ 調査の結果、本人が二十歳以上であると判明した時に取られる処分。
  2. ^  最高裁判所第二小法廷判決 平成15年3月14日 民集第57巻3号229頁、平成12(受)1335、『損害賠償請求事件』「2 犯行時少年であった者の犯行態様、経歴等を記載した記事を実名類似の仮名を用いて週刊誌に掲載したことにつき名誉またはプライバシーの侵害による損害賠償責任を肯定した原審の判断に被侵害利益ごとに違法性阻却事由の有無を審理判断しなかった違法があるとされた事例」、“2 犯行時少年であった者の犯行態様、経歴等を記載した記事を実名類似の仮名を用いて週刊誌に掲載したことにつき、その記事が少年法第61条に違反するとした上、同条により保護される少年の権利ないし法的利益より明らかに社会的利益の擁護が優先する特段の事情がないとして、直ちに、名誉またはプライバシーの侵害による損害賠償責任を肯定した原審の判断には、被侵害利益ごとに違法性阻却事由の有無を個別具体的に審理判断しなかった違法がある。”。 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52287
  3. ^ ただし、同条第二項において刑法第七十三条(皇室関連)・第七十五条(皇族関連)および第二百条(尊属殺人)の罪によるものは除外された。
  4. ^ 例えば、手口の情報を元にした防犯方法の議論や、少年の抽象化された生育歴を元にした教育・指導方法の議論などが考えられる。

出典

  1. ^ a b “少年犯罪を防ぐのは「厳罰」か「教育」か 相次ぐ少年法改正の背景は”. THE PAGE. (2014年5月9日). オリジナルの2014年5月11日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140511123346/https://thepage.jp/detail/20140509-00000003-wordleaf 2014年6月1日閲覧。 
  2. ^ 法制審議会-少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会” (2017年3月16日). 2017年12月31日閲覧。
  3. ^ a b c d 少年法の一部を改正する法律案”. 法務省. 2014年5月31日閲覧。
  4. ^ a b c “社説:少年法改正 「更生が原点」を大切に”. 毎日新聞. (2014年4月18日). オリジナルの2014年4月18日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140418203337/http://mainichi.jp/opinion/news/20140418k0000m070124000c.html 2014年5月31日閲覧。 
  5. ^ 廣瀬健二「少年法入門」『岩波新書』、105-106頁2021年6月18日。 
  6. ^ 少年法”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局. 2012年2月23日閲覧。
  7. ^ 最高裁第二小法廷判決 2003年3月14日 民集第57巻3号229頁、平成12(受)1335、『損害賠償請求事件』。
  8. ^ 川出敏裕 (2010). “展開講座 入門講義 少年法(18・最終回)少年事件報道・少年法改正の歴史”. 法学教室 (有斐閣) 354: 115. NAID 40016977511. 
  9. ^ a b 18歳・19歳でも起訴後は実名報道解禁へ、少年法改正…来年4月施行”. 読売新聞オンライン. 読売新聞社 (2021年5月21日). 2021年5月21日閲覧。
  10. ^ a b 改正少年法 成立 18歳と19歳は「特定少年」と位置づけ”. NHKニュース. 日本放送協会 (2021年5月21日). 2021年5月21日閲覧。
  11. ^ a b 【速報】改正少年法が成立 18、19歳厳罰化 起訴で実名報道も”. TBS NEWS. 株式会社TBSテレビ (2021年5月21日). 2021年5月21日閲覧。[リンク切れ]
  12. ^ a b 改正少年法が成立 18・19歳を厳罰化、来春施行”. 日本経済新聞. 日本経済新聞社 (2021年5月21日). 2021年5月21日閲覧。
  13. ^ 福岡英明 2005, p. 208
  14. ^ 少年法・御署名原本・大正十一年・法律第四十二号”. 国立公文書館デジタルアーカイブ. 2012年2月23日閲覧。
  15. ^ 板倉宏『「人権」を問う』音羽出版、1999年、82-83頁。ISBN 4-901007-03-3 
  16. ^ 青年はおとな?子ども?少年法改正の焦点『朝日新聞』1970年(昭和45年)6月17日朝刊 12版 22面
  17. ^ a b “12歳から少年院送致 改正少年法が成立”. 47NEWS. (2007年5月25日). オリジナルの2013年5月13日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130513171431/http://www.47news.jp/CN/200705/CN2007052501000221.html 2014年5月31日閲覧。 
  18. ^ a b c d e 平成20年の少年法改正に関するポイント Q&A” (PDF). 法務省. 2014年5月31日閲覧。
  19. ^ 少年法、適用年齢下げず 「逆送」拡大で処分厳格化 自公合意(時事通信)”. Yahoo!ニュース. 2020年7月31日閲覧。
  20. ^ 成人年齢18歳に下げ 契約、親の同意不要に”. 日本経済新聞. 日本経済新聞社 (2022年4月1日). 2022年4月1日閲覧。
  21. ^ きょうから18歳は「成人」、親の同意なく携帯やカードの契約可能に…146年ぶり変更 : 政治 : ニュース”. 読売新聞社 (2022年4月1日). 2022年4月1日閲覧。
  22. ^ 19歳特定少年、氏名を初公表 甲府夫婦殺害の罪で起訴”. 47NEWS. 共同通信社 (2022年4月8日). 2022年4月8日閲覧。
  23. ^ 「特定少年」19歳起訴 法改正で初の氏名公表 甲府夫婦殺害事件”. 毎日新聞. 毎日新聞社 (2022年4月8日). 2022年4月8日閲覧。
  24. ^ a b 少年法改正 Q&A”. 法務省. 2021年8月5日閲覧。
  25. ^ a b c 日下珠美 (2006年). “少年犯罪は凶悪化したか?”. 東京大学大学院教育学研究科市川研究室. 2021年8月5日閲覧。
  26. ^ 第5節 少年の再非行・再犯(平成30年版 犯罪白書 第5編/第2章/第5節/1 出版:法務省)
  27. ^ 第3節 非行・問題行動(平成27年版 子供・若者白書(全体版)内閣府)
  28. ^ 法務省 (2020年). “令和2年版犯罪白書”. 2021年6月8日閲覧。
  29. ^ a b 金沢家庭裁判所裁判官 竹内大明. “年法廃止賛成,90%!”. 裁判所ウェブサイト. 2021年6月8日閲覧。
  30. ^ a b 山崎聡一郎 (2020年11月6日). “厳罰化や廃止論も…「少年法」を考える上で、私たちが理解すべき基本とは”. otonanswer. https://otonanswer.jp/post/77013/ 
  31. ^ 『朝日新聞』1989年4月8日朝刊投書欄
  32. ^ 松井茂記『少年事件の実名報道は許されないのか』日本評論社、2000年11月、[要ページ番号]頁。ISBN 4-535-51258-2 
  33. ^ a b c 渕野貴生「少年の実名報道をめぐって」『自由と正義』第66巻第10号、日本弁護士連合会、2015年10月、17-23頁、NAID 40020611800 
  34. ^ 酒井安行「少年事件報道」『前野育三先生古稀祝賀論文集『刑事政策学の体系』』、法律文化社、2008年、198頁、ISBN 978-4-589-03086-3 
  35. ^ 高山文彦『少年犯罪実名報道』文藝春秋〈文春新書〉、2002年7月19日、[要ページ番号]頁。ISBN 978-4-16-660261-2 
  36. ^ a b “「犯人」ネットで拡散 SNSと少年法”. 神奈川新聞. (2015年3月1日). https://www.kanaloco.jp/news/social/entry-57020.html 2021年8月5日閲覧。 
  37. ^ 少年事件の公開・開示をめぐるQ&A”. 東京弁護士会子どもの人権と少年法に関する特別委員会 (2013年11月). 2021年8月5日閲覧。
  38. ^ 法務省の人権擁護機関”. 法務省 (2021年5月18日). 2021年12月10日閲覧。
  39. ^ 第204回国会 参議院 法務委員会 第13号 令和3年5月13日 86 清水貴之
  40. ^ 第204回国会 参議院 法務委員会 第13号 令和3年5月13日 89 山内由光
  41. ^ 第204回国会 参議院 法務委員会 第13号 令和3年5月13日 90 清水貴之
  42. ^ 第204回国会 参議院 法務委員会 第13号 令和3年5月13日 91 山内由光






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