リーマン予想
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/12 03:40 UTC 版)
概要
リーマンは素数の分布に関する研究を行っている際にオイラーが研究していた以下の級数をゼータ関数と名づけ、解析接続を用いて複素数全体への拡張を行った。
ゼータ関数を次のように定義する(複素数 s の実部が 1 より大きいとき、この級数は絶対収束する)。
1859年にリーマンは自身の論文の中で、複素数全体 (s ≠ 1) へゼータ関数を拡張した場合、
ζ(s) の自明でない零点 s は、全て実部が 1/2 の直線上に存在する。
と予想した。ここに、自明な零点とは負の偶数 (−2, −4, −6, …) のことである。自明でない零点は 0 < Re s < 1[注 2] の範囲にしか存在しないことが知られており(下記の歴史を参照)、この範囲を臨界帯という。
なお素数定理はリーマン予想と同値な近似公式[注 3]からの帰結であるが、素数定理自体はリーマン予想が真であるという仮定がなくとも証明できる。この注意は歴史的には重要なことで、実際リーマンがはっきりとは素数定理を証明できなかった理由はリーマン予想の正否にこだわっていたためであると思われている(素数分布とゼータ関数との関係は下記#素数の分布や、リーマンゼータ関数、素数定理、リーマンの素数公式の項を参照のこと)。
現在もリーマン予想は解決されていない。数学における最も重要な未解決問題の一つである。リーマンのゼータ関数を特殊な場合に含むL関数に対しても同様の予想を考えることができ、これを一般化されたリーマン予想(Generalised Riemann Hypothesis:GRHと略される)と呼んでいる。
最近では、虚部が小さい方から10兆個 (X. Gourdon and P. Demichel, 2004) までの複素零点はすべてリーマン予想を満たすことが計算されており、現在までにまだ反例は知られていない。現在では多くの数学者がリーマン予想は正しいと考えているようである[注 4]。しかし無限にある零点からみれば有限に過ぎない10兆個程度の零点の例などは零点分布の真の姿を反映するには至らないとして、この計算結果に対して慎重な数学者もいる。歴史上有名な数学者の中でもリーマン予想を疑っている人物はいた[5]。
注釈
- ^ 例えば ブルーバックス (2015)[2]、Derbyshire (2003), Rockmore (2005), (Sabbagh 2003a, 2003b), du Sautoy (2003).本 Edwards (1974), Patterson (1988), Borwein et al. (2008), Mazur & Stein (2015) は数学的な入門を与え、Titchmarsh (1986), Ivić (1985), Karatsuba & Voronin (1992) は進んだモノグラフである。さらに、John Forbes Nash Jr. と Michael Th. Rassias によって編集された本 Open Problems in Mathematics は、Alain Connes によるリーマン予想に関する広範なエッセイを取り上げている[3][4]
- ^ Re は複素数の実部を示す記号。
- ^ 素数計数関数 π(x) の対数積分による近似公式を指す。同値命題の節の第一の命題を参照。リーマンの素数公式より、π(x) の対数積分による近似の誤差項はゼータ関数の零点が臨界帯の両端から遠ければ遠いほど小さくなることが分かる。この距離が最大限に遠いということ、即ち全てのゼータ零点が臨界帯の中心線上に整列しており、近似の誤差がその方針で考え得る限り最も小さくなるだろうということがリーマン予想のそもそもの意味である。
- ^ 当然のことだが、はっきりした根拠を持たずに。
- ^ 証明の手法は次の点で面白い:不等式は初めリーマン予想が正しいという仮定のもとで示され、次に反対の仮定のもとで示される。
出典
- ^ Bombieri 2000.
- ^ 中村, 亨. (2015). リーマン予想とは何か. 講談社, 東京
- ^ Nash, J. F.; Rassias, M. Th. (2016). Open Problems in Mathematics. Springer, New York
- ^ Connes, Alain (2016). “An Essay on the Riemann Hypothesis”. In: Open Problems in Mathematics (J. F. Nash Jr. and M. Th. Rassias, eds.), Springer: 225–257. doi:10.1007/978-3-319-32162-2_5.
- ^ ダービーシャー 2004, pp. 309, 411.
- ^ Helge von Koch, "Sur la distribution des nombres premiers", Acta Mathematica 24 (1901), 159–182. doi:10.1007/BF02403071
- ^ Lagarias, Jeffrey C., "An elementary problem equivalent to the Riemann hypothesis." American Mathematical Monthly 109 (2002), no. 6, 534-543.
- ^ Ingham 1932, Theorem 30.
- ^ Ingham 1932, p. 82.
- ^ J.E. Littlewood, 1912; see for instance: paragraph 14.25 in Titchmarsh (1986)
- ^ Franel & Landau 1924.
- ^ Titchmarsh 1986.
- ^ Nicely 1999.
- ^ “the Riemann hypothesis”. arxiv.org (2018年10月3日). 2018年10月3日閲覧。
- ^ “リーマン予想 - 意味・説明・解説 : ASCII.jpデジタル用語辞典”. yougo.ascii.jp. 2018年10月11日閲覧。
- ^ リーマン予想の150年. Kurokawa, Nobushige, 1952-, 黒川, 信重, 1952-. 東京: 岩波書店. (2009). ISBN 9784000067928. OCLC 676013439
- ^ “Famed mathematician claims proof of 160-year-old Riemann hypothesis” (英語). New Scientist 2018年9月25日閲覧。
- ^ “2018-The_Riemann_Hypothesis.pdf”. Google Docs 2018年9月25日閲覧。
- ^ “超難問「リーマン予想」証明? 英数学者に懐疑的な声も:朝日新聞デジタル” (日本語). 朝日新聞デジタル 2018年10月11日閲覧。
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