フーリエ変換
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/22 10:25 UTC 版)
フーリエ変換の性質
実数直線上で定義される関数 f が絶対可積分であるとは、
を満たすルベーグ可測関数であることをいう。
基本性質
絶対可積分関数 f(x), g(x), h(x) が与えられたとき、これらのフーリエ変換をそれぞれ (ξ), (ξ), (ξ)で表す。フーリエ変換は以下の基本性質を満たす[3]。
- 線型性
- 任意の複素数 a, b について h(x) = aƒ(x) + bg(x) であるならば
- が成り立つ。
- 平行移動
- 任意の実数 x0 に対して h(x) = ƒ(x − x0) であるならば
- が成り立つ。
- 変調
- 任意の実数 ξ0 に対して h(x) = e2πixξ0ƒ(x) ならば
- が成り立つ。
- 定数倍
- 非零実数 a に対し、h(x) = ƒ(ax) ならば
- が成り立つ。a = −1 つまり h(x) = ƒ(−x) の場合には、時間反転性 (time-reversal property)
- が導かれる。
- 複素共役
- f(x) の複素共役 f(x) について
- が成り立つ。
- 畳み込み
- h(x) = (f ∗ g)(x) ならば
- が成り立つ。
一様連続性とリーマン・ルベーグの補題
絶対可積分関数のフーリエ変換は、常に成り立つというわけではない性質も持っている。絶対可積分関数 ƒ のフーリエ変換は一様連続で
を満たす[4]。絶対可積分関数のフーリエ変換は
であることを述べたリーマン・ルベーグの補題をも満足する[5]。絶対可積分函数 f のフーリエ変換 は有界連続だが絶対可積分であるとは限らず、その逆変換をルベーグ積分として書くことは一般にはできない。しかしながら、ƒ および がともに絶対可積分ならば、反転公式
が殆ど全ての x において成り立つ。つまり、ƒ は右辺で定義される連続関数と殆ど至る所等しい。特に ƒ が実数直線上の連続関数として与えられたならば全ての x において等式が成り立つ。
前述の結果としてわかることは、フーリエ変換が L1(R) 上単射であることである。
プランシュレルの定理とパーセバルの定理
f(x) および g(x) は絶対可積分であるとし、そのフーリエ変換をそれぞれ (ξ) および (ξ) と表す。f(x) および g(x) がともに自乗絶対可積分であるならばパーセバルの定理
が成立する[6]。ここで上付きバーは複素共役を表す。
パーセバルの定理と同値なプランシュレルの定理によれば
が成立する[7]。プランシュレルの定理により、L2(R) に属する関数の後述する意味でのフーリエ変換を定義することが可能になる。プランシュレルの定理は、フーリエ変換はもとの量のエネルギーを保存するという自然科学における解釈を持つ。著者によってはこれらの定理のどちらともをプランシュレルの定理あるいはパーセバルの定理と呼んでいる場合があるので注意を要する。
局所コンパクトアーベル群に関する文脈におけるフーリエ変換の概念の一般の定式化についてはポントリャーギン双対の項を参照されたい。
不確定性関係
一般的に言って、f(x) が凝縮されればされるほどそのフーリエ変換 はより拡散される。特に、フーリエ変換のスケール性からわかることとして、関数を x において「圧搾」するならば、そのフーリエ変換は ξ において「伸展」される。したがって、関数とそのフーリエ変換の両方ともを勝手に凝縮させることはできない。
関数とそのフーリエ変換のコンパクト化のあいだの得失評価は不確定性関係の形で定式化することができる。ƒ(x) は絶対可積分かつ自乗絶対可積分であると仮定する。一般性を失うことなく関数 ƒ(x) は
に正規化されているものと仮定してよい。このとき、プランシュレルの定理により (ξ) も同様に正規化される。
x = 0 の周りでの拡散を
で定義される「0 の周りでの分散」(dispersion about zero) によって測ることにする[3]。確率の言葉で言えば、これは |f(x)|2 の 0 の周りでの二次のモーメントである。
このとき不確定性原理は、関数 ƒ(x) が絶対連続で、関数 x·ƒ(x) および ƒ′(x) が自乗絶対可積分であるならば
が成り立つことを述べる[3]。等式が成立するのは
したがって、
である場合に限る。ただし、定数 σ > 0 は任意であり、係数 C1 は ƒ を L2-正規化する定数である[3]。言い換えれば、 ƒ は 0 を中心に持つ(正規化)ガウス関数のとき等号が成り立つ。
事実として、この不等式は任意の x0, ξ0 ∈ R について
が成立することをも含む[2]。
量子力学において、運動量と位置の波動関数は(プランク定数を因子に持つ)フーリエ変換対である。プランク定数でスケールしなおせば、上述の不等式はロバートソンの不確定性関係を記述する。これは、ハイゼンベルグが構想した不確定性原理そのものではないが、深い関係がある。
ポアソン和公式
ポアソン和公式はフーリエ変換とフーリエ級数の間の関連性を提供する。絶対可積分関数 ƒ ∈ L1(Rn) が与えられたとき、ƒ の周期化が
によって与えられる。このとき、ポアソン和公式は f のフーリエ級数を ƒ のフーリエ変換に結びつけるもので、特に f のフーリエ級数は
で与えられることを述べるものである。ポアソン和公式を用いて、大きな次元のユークリッド球面における格子点の数に対するランダウの漸近公式を導出することができる。また、絶対可積分函数 f と がともにコンパクト台を持つならば ƒ = 0 を示すこともできる[3]。
畳み込み定理
フーリエ変換は、関数の畳み込みと関数の(点毎の)積とを相互に変換する。ƒ(x) および g(x) が絶対可積分関数であるとし、そのフーリエ変換をそれぞれ (ξ) および (ξ) で表す。さらに ƒ と g との畳み込みが存在して絶対絶対可積分であるならば、この畳み込みのフーリエ変換はフーリエ変換 (ξ) と (ξ) との積で与えられる(ただし、フーリエ変換の定義の仕方によっては定数因子が現れる場合もある)。
これを式で表せば、∗ を畳み込みとして
と表されるとき、
が成立することを意味する。線型時不変 (LTI) 系理論において、f(x) を単位インパルスで置き換えたものが h(x) = g(x) を与えることから、通例 g(x) は、入力 ƒ(x) と出力 h(x) に関する LTI 系のインパルス応答として解釈される。この場合、(ξ) はこの系の周波数応答を表す。
逆に、ƒ(x) がふたつの自乗絶対可積分函数 p(x) および q(x) の積に分解されるならば、 ƒ(x) のフーリエ変換は、各因子のフーリエ変換 (ξ) および (ξ) の畳み込みで与えられる。
相互相関定理
同様の方法で、h(x) が ƒ(x) と g(x) との相互相関
であるならば h(x) のフーリエ変換が
で与えられることが示される。
固有関数
L2(R) の正規直交基底の重要な一つはエルミート函数系
で与えられる。ここで Hn(x) は「確率論者の」エルミート多項式と呼ばれる、 で定義される関数である。この規約の下、フーリエ変換は
で与えられる。言い換えれば、エルミート関数系は L2(R) 上のフーリエ変換の固有関数からなる完全正規直交系を成す[3]。しかしながら、この固有関数系の選び方は一意ではなく、フーリエ変換の相異なる固有値は {±1, ±i} の 4 つしかなく、同じ固有値に属する固有関数の任意の線型結合はふたたび固有関数になる。この結果として L2(R) を 4 つの空間 H0, H1, H2, H3 で、フーリエ変換が Hk 上で単に ik-倍として作用するものの直和に分解することができる。この方法によるフーリエ変換の定義はウィーナーによる[8]。エルミート関数を選ぶのが便利なのは、それらが周波数域と時間域の両方で指数関数的に局在することと、それゆえに時間周波数解析において用いられる非整数次フーリエ変換が得られることにある [要出典]。
球面調和関数
で次数 k の斉次調和多項式全体の成す集合を表す。集合 は体球面調和関数系として知られる。高次元において体球面調和関数系はエルミート多項式と同様の役割を演じる。具体的には、 の適当な P(x) に対し、f(x) = e−π|x|2P(x) のフーリエ変換は
で与えられる。集合 を f(|x|)P(x) (P(x) ∈ ) の形の関数から作られる線型結合全体の成す集合の L2(Rn) における閉包とする。このとき、空間 L2(Rn) は空間 の直和に分解され、フーリエ変換は各空間 をそれ自身に移す。また、各空間 へのフーリエ変換の作用を特徴付けることができる[5]。ƒ(x) = ƒ0(|x|)P(x) (P(x) ∈ ) と表される関数のフーリエ変換は
となる。ただし、
であり、J(n + 2k − 2)/2 は次数 (n + 2k − 2)/2 の第一種ベッセル関数である。k = 0 のとき、これは動径関数のフーリエ変換に対する有用な公式を与える[9]。
- ^ Kaiser 1994.
- ^ a b Stein & Shakarchi 2003.
- ^ a b c d e f g Pinsky 2002.
- ^ a b c d e Katznelson 1976.
- ^ a b c d e f g Stein & Weiss 1971.
- ^ Rudin 1987, p. 187.
- ^ Rudin 1987, p. 186.
- ^ a b Duoandikoetxea 2001.
- ^ Grafakos 2004.
- ^ Stein & Weiss 1971, Thm. 2.3.
- ^ Stein & Weiss 1971, Thm. IV.3.3.
- ^ Stein & Weiss 1971, Thm. 4.13.
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