アルコール
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/16 01:00 UTC 版)
語源
アルコール (alcohol) の語源については正確な起源が判明しているわけではないものの、"al-" がアラビア語の定冠詞であることから、アラビア語に由来すると考えられている。そもそも、12世紀にイスラム社会の錬金術の発見を大衆向けに翻訳した数々のヨーロッパの翻訳者によって、アルコールは蒸留技法とともにその蒸留物のこととしてヨーロッパに紹介された。
多くの辞書では الكحل( al-kuḥl )から来たとする説を紹介している。al-kuḥl は、アラビア語の原義では殺菌剤と眉墨に利用されたアンチモン硫化物 Sb2S3 の非常に微細な粉体のことである。すなわち「さらさらしている」という意味であり、エタノールが水に比べてさらさらしているところから来ていると考えられる。
『Oxford English Dictionary』によると、1672年以来イギリスで流通している説では、アンチモン硫化物は天然鉱石の輝安鉱を閉じた容器の中で昇華し精製する。このことから他の精製技法も含め、蒸留一般のことを指していうようになり、その後、蒸留物であるエタノールを示す語に転化したものと考えられている。
ただし、この説にも異論があり、コーランにある الغول( al-ghūl )が由来であるという説がある。グールの原義は、精霊 (spirit) や魔人 (demon) で「ワインの性質を与えるもの」という意味である。蛇足になるが天体の "Algol" も起源を الغول に持つ。"spirits" や "spirits of wine" がアルコールの意味として同義なので、西側社会言語では広く受け入れられている。語源「アルコール」=「悪魔」は、1930年代のアメリカ禁酒運動のときに宣伝の目的で使われた。
日本には江戸時代にオランダ語 alcohol [ˈɑlkoˌɦɔl] ( 音声ファイル)が取り入れられ、オランダ語の発音のまま日本語でも「アルコホル」(ローマ字:arukohoru)と表記・発音した[5]。なお、英語における発音 [ˈælkəˌhɔl] ( 音声ファイル)は「アルカホル」が近い(ただし、歴史的仮名遣いでは文節のはじめ以外の「ほ」は「お」と発音するので、「アルコオル」(ローマ字:arukooru)と発音する者もいたと考えられる)。昭和初期頃になると "alcohol" に該当する物質は「アルコホル」「酒精」「エチル・アルコール」「エタノール」「木酸化エタン」「メチルカビビノール」などと呼称が多数になっていたので、1931年(昭和6年)4月に資源局が標準用語を決めて発表した際、「アルコール」に表記・発音が統一された[6]。Hの発音のないラテン語系言語のフランス語では「アルコル (alcool [alkɔl])」、イタリア語では「アルコル (alcol [ˈalkol])」と呼ばれる。
- ^ a b c d e f g h i "アルコール". 岩波理化学辞典 (第3版増補版第3刷 ed.). 岩波書店. 5 November 1982. p. 48.
- ^ "第一化合物". 岩波理化学辞典 (第3版増補版第3刷 ed.). 岩波書店. 5 November 1982. p. 768.
- ^ "グリコール". 岩波理化学辞典 (第3版増補版第3刷 ed.). 岩波書店. 5 November 1982. p. 361.
- ^ "グリセリン". 岩波理化学辞典 (第3版増補版第3刷 ed.). 岩波書店. 5 November 1982. p. 363.
- ^ Zeitlicher Hintergrund von japanischen Fremdwörtern - Edo – Zeit - (PDF) (13頁、獨協大学)
- ^ 資源局の標準用語 今回一定して発表さる 督府官房調査課 川角道夫氏談(台湾日日新報 1931年4月3日 - 1931年4月5日)
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