MUSES-Cの目標天体となる
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 06:08 UTC 版)
「イトカワ (小惑星)」の記事における「MUSES-Cの目標天体となる」の解説
1998 SF36がMUSES-Cの第3の目標天体として浮上する中で難題が持ち上がった。既にMUSES-Cの製作はかなり進行しており、推進剤タンクの製作も終了していた。MUSES-Cの目標天体であった1989 MLは1998 SF36と比べて到達に必要なエネルギー量が低く、1989 ML用に完成していたMUSES-Cの推進剤タンクの能力では1998 SF36に到達することが不可能であった。 MUSES-Cが1998 SF36に到達することが可能な手法について検討を進めていく中で、EDVEGA(Electric Delta-V Earth Gravity Assist)と命名されることになる、イオンエンジンと地球スイングバイを組み合わせた新たな軌道技法が編み出された。スイングバイは探査機を天体に会合させ、その天体の引力を用いて探査機の進行方向の変換を行うとともに、天体の公転運動を利用して探査機の加速、減速を行う技法であるが、EDVEGAでは比推力が大きく、長時間をかけた加速に優れた能力を発揮するイオンエンジンを、探査機の軌道離心率を大きくするように噴射して軌道変更を行い、地球との軌道離心率の差という形でエネルギーを蓄え、地球との再会合時の経路角差によって生じる地球との相対速度からエネルギーを取り出す軌道技法である。 MUSES-CはEDVEGAを用いることにより、探査機重量に換算して25-30キログラムの軽量化がなされた形となり、1998 SF36へ向かうことが可能となった。またEDVEGAを用いた軌道計画には他にも優れた点があった。まず太陽電池を用いて電力供給を行うMUSES-Cにとって、地球軌道近辺でイオンエンジンを駆動させながら軌道変更を行うことは、安定した電力供給を受けながらイオンエンジンを駆動せることが可能であるため都合が良かった。そしてMUSES-Cの打ち上げは2002年11月から12月以外に2003年5月にもチャンスがあり、打ち上げ機会の複数化というメリットがあった。また打ち上げた地球へいったん戻ってくる特異軌道と呼ばれる軌道を取るため、地球脱出の速度が多少ずれても地球スイングバイの実施が可能である利点もあった。こうして2000年7月の宇宙開発委員会で、MUSES-Cは第三の候補である1998 SF36を目指すことが決定された。
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