HYFLEXとは? わかりやすく解説

HYFLEX

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/18 16:28 UTC 版)

HYFLEX

  • 用途:極超音速飛行実験
  • 製造者三菱重工業ほか
  • 運用者NAL / NASDA
  • 初飛行:1996年2月12日
  • 生産数:1
  • 運用状況:退役
画像外部リンク
[1]
機体写真
[2]
機体透視図
[3]
J-Iロケット搭載状態
出典:JAXAデジタルアーカイブス

HYFLEX(Hypersonic Flight Experiment)は、航空宇宙技術研究所(NAL)と宇宙開発事業団(NASDA、後に統合しJAXA)による極超音速飛行実験、及びその実験機の名称。

1996年平成8年)に飛行実験に成功したが、回収は失敗した。日本で初めて極超音速揚力飛行に成功[1]。極超音速で飛行する機体の設計・製作・飛行技術の蓄積、および再突入機の飛行実証が目的の無人リフティングボディ機である。

HOPEの研究開発の一環として計画され、りゅうせい(OREX、1994年)に次ぐ小型実験機の2番機となった。

計画

  • 1991年(平成3年)、NAL・NASDAにより検討開始[2]
  • 1993年(平成5年)、実験機の本格的な開発開始[2]
  • 1995年(平成7年)11月、機体完成[2]

飛行実験

  • 1996年(平成8年)2月12日
    • 8:00、種子島宇宙センターからJ-Iロケット試験機1号機で打ち上げ[2]
    • 打上げから238.4秒後、ロケットから分離[3][4]
      • 高度:107km(計画:109.1km)
      • 速度:3.895km/s(計画:3.9025km/h)
    • 分離から[5]
      • 39秒後、地上局からの追尾開始[4]
      • 60秒後(予定[6])、誘導フェーズ1開始
      • 64秒後、最大マッハ数(約マッハ14)
      • 109秒(予定)、誘導フェーズ2開始
      • 126秒後、最大空力加熱
      • 133秒後、最大加速度
      • 135秒後(予定)、誘導フェーズ3開始
      • 141秒後、最大空力圧力
      • 174秒後(予定)、誘導フェーズ4開始
      • 300秒後(予定)、誘導終了
      • 339秒後、誘導制御終了
      • 463秒後、地上局からの追尾終了[4]
      • 837秒後、着水

実験機の各部に各種センサが取り付けられており、機体表面への空力加熱や表面圧力などのデータの収得に成功。その後父島の北東海域にパラシュートで着水した。しかし、フローティングシュートとライザが切断され、機体の回収には失敗した。水中で機体の機首が上向きの場合に金具のエッジ部とライザ(ワイヤー)がこすれ破断に至ったと推定される[7]

飛行経路

種子島から東向きに飛行し、小笠原ダウンレンジ局(父島)からレーダー追尾とテレメトリ伝送を実施するため、アンテナを機体の右側面に配置し、右バンクのみによって南方向へ旋回する円弧状の飛行経路がとられた。また、故障時でも島に接近しすぎないよう配慮された[6]。小笠原局は距離3,000kmまで追尾できるが、分離後206秒から262秒の間は稜線下の飛行となりレーダデータは取得されなかった[4]。受信は地上局のほかに船舶局、航空局でも受信された[5]

機体

HYFLEXはHOPEの予備実験という位置づけの元に機体設計されている。概念設計の過程では打上げロケットと実験機形状、実験内容のトレードオフや成立性が検討され、最終的にはHOPE相似形である必要はないと判断された[8]。機体の設計においては風洞での実験やCFD(数値流体力学)の3次元解析による空力・熱力学的シミュレーションと飛行実験による実測が綿密に行われ、HOPE-Xの設計に貢献するための設計結果の検証が行われた。

機体設計においては次のような特徴を持つ[8]

  • J-Iロケット試験機1号機による打上げとなったことから、ロケット外形を変更しないようHYFLEXはフェアリング内に収める必要が生じ、主翼のないリフティングボディ形状となった
  • 熱防護系はHOPEに準じたコンセプトとして基本構成や最高温度環境を近づけた設計となった[9]
  • 姿勢制御系はHOPEで主に検討されたRCS/空力舵面併用とした
  • HYFLEXとしては再使用は考慮されなかった

実験機及びJ-Iアダプタのとりまとめは三菱重工業、後部胴体とりまとめは川崎重工業の体制、ほか富士重工業日産自動車日本電気日本航空電子三菱スペースソフトウェア石川島播磨重工業が参加して製造された[2]

諸元

  • 全長:4.400 m
  • 全幅:1.358 m
  • 全高:1.037 m
  • 全備重量:1,072.9 kg
  • 乗員:0名

脚注

出典

  1. ^ 白水, 正男、渡辺, 重哉、滝沢, 実、甲斐, 高志、高木, 亮治、鈴木, 広一、伊藤, 健、寺岡, 謙 ほか「極超音速実験機(HYFLEX)設計結果」『航空宇宙技術研究所報告』第1466巻、2003年8月、ISSN 1347-4588 
  2. ^ a b c d e 桜井, 浩己、谷, 正三、小杉, 健一、中嶋, 一貴、山田, 敏之、白水, 正男、下田, 孝幸、Sakurai, Hiroki ほか「HYFLEXの開発」『航空宇宙技術研究所特別資料』第32巻、1996年9月、43–50頁、 ISSN 0289-260X 
  3. ^ 佐藤, 寿晃、有田, 誠、三輪田, 真、Sato, Toshiaki、Arita, Makoto、Miwada, Makoto「J-1ロケットの開発と試験機1号機の飛行結果」『航空宇宙技術研究所特別資料』第32巻、1996年9月、27–34頁、 ISSN 0289-260X 
  4. ^ a b c d 滝沢, 実、鈴木, 広一、森戸, 俊樹、Takizawa, Minoru、Suzuki, Hirokazu、Morito, Toshiki「HYFLEXの航法系及び実飛行経路について」『航空宇宙技術研究所特別資料』第32巻、1996年9月、61–77頁、 ISSN 0289-260X 
  5. ^ a b 寺岡, 謙、森戸, 俊樹、Teraoka, Ken、Morito, Toshiki「電気系開発及びバス系評価」『航空宇宙技術研究所特別資料』第32巻、1996年9月、88–102頁、 ISSN 0289-260X 
  6. ^ a b 鈴木, 広一、Suzuki, Hirokazu「飛行経路設計及び誘導則について」『航空宇宙技術研究所特別資料』第32巻、1996年9月、51–60頁、 ISSN 0289-260X 
  7. ^ 科学技術広報財団 編『科学技術ジャーナル 5(9)(54)』科学技術広報財団、1996年9月、56-57頁https://dl.ndl.go.jp/pid/3212537/1/29 
  8. ^ a b 白水, 正男、Shirouzu, Masao「極超音速飛行実験の目的及び位置づけについて」『宇宙開発事業団特別報告』1996年11月30日、35–42頁。 
  9. ^ 甲斐, 高志、Kai, Takashi「飛行データに基づいた熱防護系の評価」『航空宇宙技術研究所特別資料』第32巻、1996年9月、151–162頁、 ISSN 0289-260X 

関連項目

参考文献


HYFLEX

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/09 03:29 UTC 版)

HOPE (宇宙往還機)」の記事における「HYFLEX」の解説

詳細は「HYFLEX」を参照 HYFLEX (Hypersonic Flight Experiment) 極超音速飛行実験機は、1996年2月J-Iロケット1号機によって打ち上げられた。高度110kmでロケットから分離し滑空飛行行った重要なデータ受信にも成功海面着水したのも確認した。本来の予定には無い機体回収計画実行したが、機体発見出来ず回収出来なかった。

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「HYFLEX」を含む「HOPE (宇宙往還機)」の記事については、「HOPE (宇宙往還機)」の概要を参照ください。

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