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黒色火薬

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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/01/16 14:15 UTC 版)

黒色火薬

黒色火薬(こくしょくかやく : black powder: Gunpowder)は、酸化剤である硝酸カリウム硝石)と燃料である木炭と燃焼促進剤である硫黄、の混合物からなる火薬の一種である[1][2]。この3成分の配合比率は品種によって異なり、硫黄を含まない2成分黒色火薬もある。反応時にはかなり大量の火薬滓と白煙を発生させる。

歴史

最古の火薬であり、中国で唐王朝の時代には発明されたといわれている。四大発明(紙、印刷術、火薬、羅針盤)の一つである。いずれもルネサンス期ごろまでにヨーロッパに伝えられ、実用化された[3]

発明

黒色火薬は不老不死の神仙になるための丹薬製造(錬丹術)の過程で偶然発見されたとされる[4]。黒色火薬発明以前の錬丹術の書には硝石と硫黄の混合に関する記述が見られ、650年ごろに孫思邈はこれにサイカチの実を加える処方を記述している。これは配合こそ違うものの黒色火薬の原料・製法と同じであり、ここから徐々に火薬の発明につながっていったと考えられている[5]。また、中国では黒色火薬の成分の一つである硝酸カリウムが天然に産出されるが、これは世界中でも限られた地域にしか存在しないものであり、火薬発明につながったとされる[6]

火薬の発明の時期については諸説あるものの、おおよそ800年から850年ごろに発明されたとみられている[7]。1044年には軍用としての黒色火薬類似の配合組成の記述が中国の北宋政府編集の「武経総要」に現れているが、この時の配合は硝石が50%、硫黄と木炭が残り50%とされており、爆発物としては使用できなかったと考えられている[8]。このため兵器としてはまず火矢(火箭)に用いられ、次いでの先端に火薬の入った容器を縛り付けた火炎放射器である火槍が開発された[9]。その後徐々に硝石の割合が高められ、それに伴い爆発力が増加して、13世紀前半にはごく初期の爆弾である「震天雷」が開発され、第二次対金戦争モンゴル・南宋戦争で用いられたのち、1274年の元寇の際には軍が鎌倉幕府軍に対しこれを使用している[10]。また北宋末期には、それまでを火に投じていた爆竹に火薬が用いられるようになり、各種の花火も開発されるようになった[11]。1225年には地老鼠、すなわちねずみ花火が王宮で宴会の際用いられたと記録されている[12]

宋代には初期のロケットが開発されたと考えられており[13]、同時期にも開発されていた[14]

伝播

中国で発明された火薬は13世紀にイスラム世界とヨーロッパに伝播するが、ヨーロッパへの伝播に関しては詳しい経路が判明していない。1267年にロジャー・ベーコンが著した『大著作英語版』では火薬についての言及がみられるが、製法は木炭・硝石・硫黄を混合することしか判明しておらず、実用性はなかったと考えられている[15][16]。いずれにせよ、1270年から1280年ごろにはムスリム技術者を通して火薬及び火薬兵器の技術がモンゴルからイスラム世界に伝播しており[17]、1300年ごろにはヨーロッパにも火薬の製法が伝播したと考えられている[18][19]。火薬兵器の普及は急速であり、1320年代には大砲がヨーロッパ各地で使用されるようになっていた[20]

初期の火薬の配合は安定しておらず、中国では14世紀以前、ヨーロッパでは16世紀までの記録では配合比率にぶれがみられるが、ヨーロッパでは17世紀には硝石の比率が75%でほぼ安定するようになった[21]。これは中国でも同様で、硝石1斤・硫黄2両・木炭3両、すなわち硝石76%・硫黄10%・木炭14%にほぼ落ち着いた[22]。日本でも、花火師は硝石77%・硫黄8%・木炭15%での配合を行っていた[23]

ヨーロッパにおいては火薬の原料のうち木炭と硫黄は十分に供給されていたが、硝石は微量にしか発見されず[24]、ほとんどを輸入に頼っていた[25]。1340年ごろからヨーロッパ各地で作硝丘による硝石製造が始まったことでボトルネックが解消され、火薬価格の低落をもたらした[26]。しかしこの方法で製造された硝石には硝酸カリウムのほか、硝酸ナトリウム硝酸カルシウム硝酸マグネシウムが大量に含まれており、爆発力に問題はなかったものの吸湿性が非常に高かったため急速に劣化した[27]

これを避けるために、14世紀には戦場で使用する直前に原料を混合してその場で火薬を製造することも行われたが[28]、やがていったん火薬を湿らせてペースト状にし、それを乾かしたのち小さな粒に砕いて使用する、いわゆるコーニング (火薬)(粒状化)が編み出された。この方法では火薬の劣化を遅らせることができたほか、粉末の火薬に比べ爆発力が強力となる効果があり、1420年ごろまでには広く使用されるようになった[29]。一方でこの初期粒火薬は安定性に欠けるうえ当時の銃砲に対しては爆発力が強力すぎ、砲身の破裂も珍しくなかったため、しばしば硝石の配合を減らして爆発力を低下させる処方が見られた[30]。なお、硝石・硫黄・木炭の粒子は比重が近く、輸送中などに分離する可能性は低かったため、当時の文献に成分分離による劣化への不満の記述は見られず、これが火薬を粒化した要因ではないとみられている[31]

やがて木灰を使用して硝石から硝酸カルシウムと硝酸マグネシウムを取り除く方法が開発され、火薬の吸湿性はやや改善されたものの、硝酸ナトリウムの除去はこの方法でも不可能だった[32]。一方、粒状化はさらに進展し、遅くとも1540年ごろまでには火薬ペーストを一定の大きさの穴の開いた板などに押し付け、火薬の粒の大きさをいくつかのサイズに揃える方法が編み出され、これによって火薬の表面が滑らかになって安定性が増すとともに、銃砲の種類に合わせた火薬の生産が可能になった[33]

日本への黒色火薬の伝来は鉄砲伝来と同時であり、1543年(天文12年)に種子島に漂着したポルトガル人から種子島時堯が家臣の篠川小四郎に「搗篩・和合の法」とよばれる黒色火薬の製造法を学ばせたことで製法も同時に伝わることになった[34]。しかし日本でもヨーロッパと同様、硫黄と木炭の供給に問題はなかったが硝石が不足しており、主にや東南アジアからの輸入に頼っていた[35]。やがて、五箇山合掌造り集落などで生産が行われるようになった[36]

15世紀にはヨーロッパにおいて花火の利用が始まり、祝典の際に広く利用されるようになった[37]。ただし当初は金属粉を混ぜず黒色火薬のみを利用していたため暗橙色のみのものであり、炎色反応による多彩な発色は1780年代の塩素酸カリウムの発見と19世紀の各種金属の利用を待たねばならなかった[38]。採掘や土木工事の際の発破としての利用も中国やヨーロッパにおいて見られたものの、高価で信頼性が低いうえ非常に危険だったため、特に閉鎖環境である坑道での利用は避けられる傾向にあった[39]

黒色火薬は17世紀の適正配合の発見以来、19世紀中ごろまでほぼ技術革新が停止していた。しかし19世紀中盤になるとニトログリセリンニトロセルロースといった強力な爆発を起こす物質が発見され、これを利用したダイナマイトゼリグナイトといった安全な爆薬も開発されて、軍用や産業用の爆発物の主流は黒色火薬ではなくなった[40]。これらは強力すぎたため、火器の発射用として黒色火薬はいまだ使用されていたが、大量に発生する煙が問題視され、19世紀末には無煙火薬が発明されて黒色火薬にとってかわり[41]、これ以降軍事用途ではあまり使用されなくなっている[42]

日本では20世紀中盤以降は専ら花火の装薬、導火線や採石[43]消防士消防団員が用いる信号拳銃(索投銃)、あるいは火縄銃の実演射撃に用いられる程度となっており、銃器用途での使用は極度に減少している。朝日新聞(1988年3月15日付朝刊)が日本の警察の捜査資料を通じて報じたところでは、赤報隊事件が発生した1980年代末の時点で全国の猟銃所持者約20万人のうち、火縄銃村田銃を用いているとみられる猟用黒色火薬購入者は、全国でも約300人(0.15%程度)にまで減少していた。一方、花火の打ち上げ用火薬には無煙火薬が適さないため、現代でも黒色小粒火薬が用いられる[44]。また、導火線にも黒色粉状火薬が用いられている[45]

種類

標準的な比率(化学量論的組成比)は、質量比で、硝酸カリウム:木炭:硫黄=75:15:10。

種類
種類 硝酸カリウム(%) 木炭(%) 硫黄(%) 粒の直径・性状 用途
黒色粉火薬 58 - 70 10 - 20 16 - 26 0.1mm以下、微粉末状 導火線
黒色鉱山火薬 65 - 70 10 - 20 10 - 20 3 - 7mmの球状、黒鉛光沢 砕石
狩猟用黒色火薬 73 - 79 10 - 17 8 - 12 0.4 - 1.2mm以下、黒鉛光沢 狩猟
黒色小粒火薬 73 - 79 10 - 17 8 - 12 0.4 - 1.2mm以下、黒鉛光沢なし 煙火

[46]

性質

黒色火薬は化学的に安定していて自然分解の心配がなく、点火は容易で、乾燥した環境の場合は永年の貯蔵に耐える[47]

なお、玩具用花火に使用されている火薬は硝酸カリウムの代わりに過塩素酸カリウムが使われているものが多く、過塩素酸カリウムは吸湿性が高いため、湿度の高い環境下で保管すると花火は湿気を吸収してしまう。また硝酸カリウムの代わりに硝酸ナトリウム(チリ硝石)を使用した場合も同様であるが[6]、厳密には硝酸カリウム以外の酸化剤を使用したものは黒色火薬には分類されない。

黒色火薬に含まれている硫黄は着火温度を下げ、炎を大きくし、ガス発生量を増す作用があるが、特に反応の途中で生成される硫化水素や酸化窒素の触媒効果によって、有害な一酸化炭素や青酸ガスの生成をおさえる作用がある[6][48]

炎に対して敏感で、衝撃や摩擦静電気、火花に対しても敏感である。燃焼速度は混合比や粒の大きさなどの条件によって大きく異なり5cm/s - 400cm/sまでと幅広く、爆発熱は約3MJ/kg(700 - 750kcal/kg)。

黒色火薬の燃焼は以下の反応で行われると推定されている[49]

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