ADT運用の詳細
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/13 09:15 UTC 版)
「ADT (音響機器)」の記事における「ADT運用の詳細」の解説
再生用と疑似ダブリング生成用に合計2台のテープ・レコーダーを使用する。 基本原理は、1台目の再生用テープ・レコーダーのシンク・ヘッド(録音ヘッド)からの再生音とリプロ・ヘッド(再生ヘッド)からの音声を用い、シンク・ヘッドからの再生音を2台目のテープ・レコーダーへ送り、2台目で録音された音をリプロ・ヘッドから再生音として取り出して1台目の再生音とミキシングして使用する。使用する2台のテープ・レコーダーは録音ヘッドと再生ヘッドのギャップが等しい前提から、両方の再生ヘッドから再生される音の時間軸は基本的には揃うこととなり、その2つの音声トラックをミキシングする事によって時間軸がほぼ同じ物から互いに前後へ時間軸をずらしたり、回転むらを与えて擬似的なダブリング効果を得られる手法となる。 同じメーカー、同じ機種のテープ・レコーダーを2台用意し、通常は録音ヘッドか再生ヘッドの一方からしか再生音を出力できない機種が多いが、内部回路や設定などの変更により1台目の送り出し側テープ・レコーダーはシンク・ヘッドとリプロ・ヘッドの両方から同時に同じ再生音を出力できるようにする必要がある。 1960年代半ば、最初にADT手法を使ったアビー・ロード・スタジオにおいては、テープ・レコーダーの速度調整用としてキャプスタン・モーターの回転数を変える為に電源周波数を任意に変えられる機材を製作し、50cps(50Hz)の電源周波数を上下へ自在に変えられる機材をテープ・レコーダーへの電源供給用に用いた。この運用方法としては、キャプスタン・モーターの周波数が50cpsより増えるとモーターの回転数が上がり、テープ・レコーダーの録音再生スピードが上がる為、録音ヘッドと再生ヘッドの間隔が物理的に狭まった事と同様になるので、ヘッド間ギャップの時間軸は早まり、再生タイミングが前に移動する事になる。その逆に、周波数を50cpsより少なくすると物理的ヘッド間ギャップが広がったのと同様になる為に時間軸は遅くなり、タイミングが後ろにずれる。 実際にダブル・トラッキングを行ったときのように演奏歌唱タイミングのムラと同様の現象を再現するため、時間軸を細かく連続的に変える為に電源周波数を連続的に上下、またはテープ・リールへの負荷を与えたり、キャプスタン軸に加工をするなどして故意にワウ・フラッター(回転むら)を与えてやることにより、より一層自然なタイミングの揺らぎも生成できる。 疑似ダブル・トラッキング生成以外にも、数ミリ・セカンド(ms = 1/1000秒)単位で時間軸に揺らぎを生じさせることによって、フランジング効果やフェイジング効果も生成することが出来る為、ADT運用方法から派生しアナログ・テープレコーダーを使用したフランジング・マシーンとしても数多くのスタジオ・セッションにて運用された。
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