非線形系
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/14 21:49 UTC 版)
問題の微分方程式が非線形系の場合、解析的な解が得られることはまれである。しかし、非線形系であっても平衡点を求めることなら可能である。そして、線形系の平衡点に対する安定判別法を非線形の平衡点に対する安定性判別に応用することはできる。1つは、平衡点周りで線形化する方法である。 下記のような一般的な自励系的微分方程式が与えられているとする。 d x d t = f ( x ) {\displaystyle {\frac {d{\boldsymbol {x}}}{dt}}=f({\boldsymbol {x}})} この微分方程式の平衡点を xe とする。xe を原点とする新たな変数を y として導入すると、x = xe + y である。f が滑らかであれば、f(xe + y) を xe 周りでテーラー展開し、y の2次以上のオーダーの項を無視することで、 d y d t = D f ( p ) y {\displaystyle {\frac {d{\boldsymbol {y}}}{dt}}=Df({\boldsymbol {p}}){\boldsymbol {y}}} という、平衡点近傍で線形近似した微分方程式を得ることができる。ここで、Df(xe) は次のような xe についての f のヤコビ行列である。 D f ( x e ) = ( ∂ f 1 ∂ x 1 ( x e ) ⋯ ∂ f 1 ∂ x n ( x e ) ⋮ ⋱ ⋮ ∂ f n ∂ x 1 ( x e ) ⋯ ∂ f n ∂ x n ( x e ) ) {\displaystyle Df({\boldsymbol {x}}_{e})={\begin{pmatrix}{\cfrac {\partial f_{1}}{\partial x_{1}}}({\boldsymbol {x}}_{e})&\cdots &{\cfrac {\partial f_{1}}{\partial x_{n}}}({\boldsymbol {x}}_{e})\\\vdots &\ddots &\vdots \\{\cfrac {\partial f_{n}}{\partial x_{1}}}({\boldsymbol {x}}_{e})&\cdots &{\cfrac {\partial f_{n}}{\partial x_{n}}}({\boldsymbol {x}}_{e})\end{pmatrix}}} A = Df(xe) と書き換えれば、近似した微分方程式は上記の線形系とまったく同じである。 一方で、平衡点 xe のヤコビ行列 Df(xe) の全ての固有値の実部が零ではない場合、そのような平衡点 xe を双曲型平衡点という。もし平衡点 xe が双曲型平衡点であれば、ハートマン・グロブマンの定理によって、元の非線形微分方程式とそれを線形近似して得られた微分方程式の解は xe の近傍で位相共役であることが知られている。言い換えれば、線形近似の方程式の解は xe の近傍で元の方程式の解と質的に同じである。 ハートマン・グロブマンの定理により、元の非線形微分方程式の平衡点の安定性を、線形近似した微分方程式によって正確に判別することができる。また、平衡点 xe が双曲型であるか否かにかかわらず、Df(xe) の固有値が少なくとも1つ以上の固有値が正であれば、xe が不安定であることが分かっている。以上をまとめると、非線形系の平衡点についてもヤコビ行列の固有値にもとづいて次のように判別できる。 平衡点 xe のヤコビ行列 Df(xe) の全ての固有値の実部が負の値であるとき、xe は漸近安定。 平衡点 xe のヤコビ行列 Df(xe) の少なくとも1つ以上の固有値が正のとき、xe は不安定。 しかし、平衡点のヤコビ行列の固有値が実部が負の値と実部が零の値から成るとき、ヤコビ行列だけから安定性を判別することはできない。非双曲型平衡点に対して安定性を議論する一般的方法を与えるのは中心多様体による方法である。次のような微分方程式系が与えられているとする。 d x d t = A x + f ( x , y ) {\displaystyle {\frac {d{\boldsymbol {x}}}{dt}}=A{\boldsymbol {x}}+f({\boldsymbol {x}},{\boldsymbol {y}})} d y d t = B y + g ( x , y ) {\displaystyle {\frac {d{\boldsymbol {y}}}{dt}}=B{\boldsymbol {y}}+g({\boldsymbol {x}},{\boldsymbol {y}})} ここで、 x ∈ R c , y ∈ R s {\displaystyle {\boldsymbol {x}}\in \mathbf {R} ^{c},\ {\boldsymbol {y}}\in \mathbf {R} ^{s}} f ( 0 , 0 ) = 0 , g ( 0 , 0 ) = 0 {\displaystyle f({\boldsymbol {0}},{\boldsymbol {0}})=0,\ g({\boldsymbol {0}},{\boldsymbol {0}})=0} D f ( 0 , 0 ) = 0 , D g ( 0 , 0 ) = 0 {\displaystyle Df({\boldsymbol {0}},{\boldsymbol {0}})=0,\ Dg({\boldsymbol {0}},{\boldsymbol {0}})=0} であり、A は全ての固有値の実部が零であるような c 次正方行列、B は全ての固有値の実部が負の値であるような s 次正方行列である。この場合、平衡点は原点 o に平行移動されている。このような微分方程式系に対しては、平衡点を通る中心多様体およびその中心多様体に制限されたベクトル場を平衡点近傍で計算することで安定性を判別できる。これらを解析的に厳密解を求めるのは難しいが、中心多様体の定理によって好きな精度で近似的に計算できることが保証される。 ヤコビ行列の固有値を調べることなく平衡点の安定性を判別する方法としては、リアプノフ関数を見つける方法がある。平衡点 xe を含む開集合 U 上に定義された実数値関数 L(x) が条件 L(xe) = 0 かつ x ≠ xe ならば L(x) > 0 U − {xe} 上で dL(x)/dt ≤ 0 を満たすとき、L(x) をリアプノフ関数という。条件2の代わりに、 U − {xe} 上で dL(x)/dt < 0 を満たすとき、L(x) を狭義リアプノフ関数という。平衡点 xe に対してリアプノフ関数が存在するときは、xe はリアプノフ安定である。平衡点 xe に対して狭義リアプノフ関数が存在するときは、xe は漸近安定である。ただし、リアプノフ関数を見つける一般的で決まった方法はなく、発見的に試行錯誤して探すしかない。
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