開閉の機構
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 00:14 UTC 版)
気孔の開閉には日周性があるが、それ以外でも様々な環境条件に左右される。例えば、光、湿度や二酸化炭素濃度などである。これらの環境に対する気孔の応答がどのような機構でなされているかは、いまだ完全な解明には至っていないが、孔辺細胞の浸透圧調節を介した基礎的な気孔開閉の機構については解明されつつある。 強光や多湿といった、気孔の開口が促進されるような条件においては、プロトンポンプが活性化され水素イオン(プロトン、H+)を孔辺細胞外へと排出することが知られている。水素イオンが排出されることで、静止膜電位からマイナスの方向に膜電位が変化するが(過分極)、これを埋め合わせるため、アポプラストからカリウムイオン(K+)が細胞内に取り込まれる。結果として、孔辺細胞内の浸透圧が上がり、水が細胞内に流れ込むことで細胞の体積と膨圧が上昇する。孔辺細胞の細胞壁は環状のセルロースミクロフィブリルを形成しているため、体積の上昇に伴い細胞は横ではなく縦に伸長する。両端は隣接する表皮細胞により堅く固定されているため、向かい合う二つの孔辺細胞は伸長すると互いとは逆方向に湾曲することとなり、結果的に孔辺細胞間に隙間が開くこととなる。 一方、気孔の閉鎖に関しては、アブシジン酸を介した機構がよく研究されている。孔辺細胞において、アブシジン酸受容体であるPYR/PYL/RCARタンパクがアブシジン酸を受容すると、陰イオンチャネルが活性化され、塩化物イオン(Cl-)等の細胞外への放出を引き起こし、膜電位が脱分極する。アブシシン酸による細胞膜の脱分極は、細胞膜のH+-ATPaseの阻害によっても促進されることが示唆されている。この脱分極により電位依存性カリウムイオンチャネルが開口し、カリウムイオンの細胞外への排出も促進される。これらのイオンが細胞外に排出されることで、孔辺細胞の浸透圧が低下し細胞内の水が流出するため、細胞の体積と膨圧が低下する。結果的に孔辺細胞が萎れる形となり、孔辺細胞間の隙間がなくなる(気孔が閉鎖する)こととなる。 大気中の二酸化炭素濃度に応答して、気孔の開閉を調節するたんぱく質として、SLAC1タンパク質が同定された。このタンパク質は、大気中の二酸化炭素濃度の上昇に伴い、孔辺細胞から塩化物イオンやリンゴ酸を排出して、気孔を閉鎖する役割を担っていることが明らかになった。このタンパク質の基質が、リンゴ酸であることは、メタボロミクスによって解明された。
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