金魚玉とり落しなば鋪道の花
作 者 | |
季 語 | |
季 節 | 夏 |
出 典 | 鋪道の花 |
前 書 | |
評 言 | 爽波の第一句集『鋪道の花』の句。句集の題名はこの句から採られた。 金魚玉は買った金魚を持ち帰るために作られた小さなガラス器である。江戸時代に誕生し、戦後ビニール袋が普及するまで、持ち帰りの器として活躍していた。 金魚を入れて細紐をかけて持ち帰る。 家で待つ妻や子供たちへの土産だろうか、自分が楽しむためのものだろうか。金魚玉をぶら提げ、何処か浮き立つ気持ちで鋪道を歩いて帰る。裏腹に、取り落とせば粉々に砕けてしまう危ういものであることに思い至った瞬間から、提げている指は知らず緊張を増してゆく。もしもと考えたその刹那、赤い金魚・緑の藻、砕けたガラス片が鋪道に散る情景が脳裏を掠め、その情景に『鋪道の花』という言葉が舞い降りたのだ。しかもそれは強迫観念が生み出すものであるにも関わらず、高い美意識によりもたらされた言葉である。 爽波は自身の俳句は虚子の説いた写生句であり、見たまま感じたままを事実に即し、作るというよりも授かるのだと書いている。『鋪道の花』はまさしく授かった言葉であろう。 句集『鋪道の花』の扉に「写生の世界は自由闊達の世界である」と書かれている。 写生の世界を説き続けた俳人である。 出典:『鋪道の花』 写真提供:Photo by (c)Tomo.Yun |
評 者 | |
備 考 |
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