貞操帯と信仰
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/06 01:53 UTC 版)
アイヌの貞操帯は、貞淑な女性として身の証しを立てる象徴である。これを締めていなければ神に対する不敬とされ、神を拝んだりカムイプヤㇻ(チセの一番奥にある神聖な窓)に近づいたりできない。さらにアペフチ(火の女神)に失礼だとして火を焚けず、食事の支度もできない。また、狩りに出た夫の留守に貞操帯を外していれば、夫は猟運を失って不猟に見舞われるともいう。 一方、常に身に着けていることで神の加護を得ることができる。コタンに火事が迫ってきた折は、自身と同じく女性である火の女神に向けて貞操帯を振り回し、「女の帯ですよ神様。それに向かってくるのですか」と唱えることで火伏せをする。山中で野営する際、周囲に貞操帯を張り巡らしておくことで害獣の侵入を避けられる。また、ヒグマに遭遇した場合は素早く貞操帯を振り回し、以下のような呪文を唱える(表記は原文ママ)。 アイヌ語メノコウプソロウ、メノコウプソロウ、メノコネネー。カッケマツクウプソロウネネー。メノコウプソロウ、カッケマツクウプソロウ、オウイカラカムイ。アイヌモシリカタ、パツクヌプルカムイ、イサンベネナ。エイチヤウレイシツク、エンロンノ。エンロンノチカラネコンヌプルカムイエネヤヤツカイ、エカシカムイワノ、エペタイサム、ナコンナ。 — 日本語訳これは女の懐にあるもので、火の神から授かった女の一番大事なものだ。女の大事な守り神で、これほど偉大な神様にはどこにもおらぬ。それが嘘だと思うならばこの俺を殺してみれ。いかにお前が偉くとも、魂が解けて消えるぞ。 火の女神と同じ貞操帯を持つ身であることを誇れば、熊でも退散するという。アイヌの伝承では「熊は蛇を嫌う」とされているため、細長い貞操帯を見た熊が蛇だと誤解して恐れるとも考えられる。 また、どうしても勝たなければならないチャランケ(談判、裁判)に出る男は、妻の貞操帯を持って行く。貞操帯を振れば敵は悶絶し、波風も立たず丸く収まるという。 貞操帯の端は3本以上の房状に分かれているが、位の高い女性が使用するものほど房の数が多くなり、最高は8本である。そのため、「天上界の女神が地上に残した貞操帯が命を持ったものが、蛸である」との伝説がある。
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