行為の組み立て
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/29 10:02 UTC 版)
私たちは、「もっとアイスティーいかがですか」などと聞かれた時に、その発話を単なる質問として捉えるだけではなく、発話者がアイスティーを「提供」していると理解することができる。つまり、順番交替しながら、ひとつひとつの発話で、どんな事柄について話されているのかといった発話の内容(トピック)だけではなく、どういう「行為」がその発話で行なわれているのかということが、明示的に示されなくても(たとえば、「私はこの発言によって『提供』という行為を行なっています」というように言われずとも)認識可能になっている。そうした発話による行為がどのように形成され、参加者にとって認識可能になっているのかという問題は会話分析で最も重要なトピックの一つである。 この行為形成は、発話の連鎖上の位置や発話のデザイン、また参加者の身体や参加の枠組みなどを資源として、なされている。たとえば、参加者Aが、部屋に遊びに来た参加者Bに対して、「アイスクリームサンドイッチ持って来なかったね」と発言し、それに対して、参加者Bが「うん、私は欲しくなかったから」と自己弁護する応答をした場合、この応答により、Aの発言がBとの約束(アイスクリームサンドイッチを持ってくること)を果たさなかったことに関する不平としてBに理解されたことが分かる。このAによる「不平」という行為は、より直接的な形で(たとえば、Bを直接責めるような発言によって)なされるのではなく、「Bがするべきだった行為の不在を指摘する」という組み立てによって、認識可能となっている。 こうした行為の組み立てに関する問題を扱う際に留意しなければいけないのは、発話を行為の種類のカテゴリー(依頼、命令、質問など)に当てはめて考えるのではなく、どのようにしてその発話がある行為を行なっていることが認識可能になっているのかを見極めなくてはならない点である。その見極めには、その発話の受け手である参加者たちがどのようにその発話による行為を理解しているかに基づいて考えることが必要になってくる(上記の例だと受け手Bの応答)。観察を行う際に、既存のカテゴリーではなく、データに基づかなければいけないというのは、それが参加者本人たちによって解決されている問題であるからにほかならない。こうした観察によって、一般的な呼称を持たないような行為の発見も初めて可能になってくるであろうし(参照:3-2-4)、一つの発話で複数の行為が行われていることも記述可能になってくる。
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