行きゆきて深雪の利根の船に逢ふ
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評 言 |
私が俳句を始めた高校三年生の頃、同時に始めた友人が二人いた。その二人とはよく関東周辺の名所に出かけた。鎌倉や箱根、少し遠くでは平泉や松島。たいていは日曜日の日帰りであった。旧跡を巡るという訳ではなく、やたらと歩き回まわった。また平泉の時などは高館に上った後衣川の土手の桜の木の下に半日近く寝転んでいた。 そんな中で日光・中禅寺湖へ行った時のことは印象深かった。確か11月の中頃の土曜日だったと思う。その日になって急に日光へ行こうということになった。半ドンの授業が終わるとそのまま電車で日光に向かった。日光駅に着いたのが午後2時少し過ぎだったろうか。曇っていて寒かった。東照宮や輪王寺、二荒山神社などのお決りのコースを観て回ったあと中禅寺湖にゆこうということになった。 我々はバスで二荒山神社中宮祠まで行ったが、観ているうちに降り出した雨が霙に変わった。このまま雪になりそうである。すぐに日光へ下りることにした。バスは中禅寺湖駅から出ると言う。そこまでは歩かなくてはならない。学校を出るとき用心のために傘立にあった傘を拝借してきたのは正解だった。しかしこの三人、律儀にも学生服姿で学生鞄を提げている。その恰好はこの状況のなかで妙に滑稽に思えた。 我々はすっかり暗くなった道をバス停に向かって歩く。霙は重たい雪になっていた。自分たちの周囲だけが雪に照らされているように明るい。我々はひたすら歩いた。その時である「びゅっびゅっ、ざっざっ、」というような不思議な音に包まれた。その音は眼前の闇の壁の奥から聞こえてくるようだ。次第に大きくなってゆく。我々は闇に眼を凝らした。その時に銀色の波が闇を抉るのが見えた。音は中禅寺湖の水面に雪が突き刺さる音だったのだ。 |
評 者 |
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備 考 |
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