菜の花や菜の花色の汽車がくる
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春 |
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評 言 |
童話の一場面を思い起こす作品である。黄色一面の菜の花畑の中に『クレヨン王国』に出てくる汽車の登場。この一句だけで作者の優しさが判る。「山笑うバス停『トトロ』猫の寝屋」「卒業の子を未だ舐めて居たりけり」こんな俳句を詠む作者が癌を宣告され、不安と闘っていたと誰が思うだろうか。 春の夕地球の裏に洗濯屋 ああ、こんなにも大胆でひょうきんな一句を編み出せる貞永まこと、という作家は、どこまで心の大きい男なのだろうか。心の大きさに加えて想像力は奔放に飛んでゆく。何よりも映像的な鮮やかさには目を見張るものがある。 掲句「菜の花色の汽車」はただ黄色いだけの汽車ではない、汽車の吐く煙まで黄色く思えてしまう。しかし、深読みをすると、菜の花の黄色い世界=黄泉の国、後何年と区切られてしまった自分の人生への迎えの汽車かもしれない。それでも明るく迎えてしまうのだ。 五十二歳でこの世を去った貞永の俳句人生はたった十六年程であった。しかし残した俳句は病魔と闘う悲惨を感じさせない。不思議と郷愁の世界を見せてくれる穏やかで優しい俳句が多い。 ヤッホーの似合う秋なり空ひとつ 貞永にとっての俳句は、これが原点だからだと思う。確かに 「癌告知部屋は真四角春うらら」「夏ヤセを云わせておいて病みにけり」「十月や母に詫ぶ痩せさまのあり」という自分の病を静かに受け取る句は散見される。 この道を曲がるを赦す夜のすみれ この句は貞永を看病し続けた妻を「すみれ」に託しているような句だ。真っ直ぐには生きられなかった自分を認めてくれたことへの深謝である。そして「春しぐれけづる命は眠たくて」平成14年7月31日没享年52歳。若すぎる死は、俳句も未完のままだ。私の中で貞永まことの名前は消えることはない。 生涯を字余りとして大昼寝 |
評 者 |
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備 考 |
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