自己対象転移(自己愛転移)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/27 17:05 UTC 版)
「自己心理学」の記事における「自己対象転移(自己愛転移)」の解説
自己愛性パーソナリティ障害の患者に見られる特殊な転移であり、神経症患者やジークムント・フロイトの精神分析において発生する感情転移とは別のものとして現れるものである。 理論的にはフロイトの転移という概念は、幼少期における両親に対してのリビドーや攻撃性を現在の医師との関係に再演することであるが、自己心理学で言う転移は、自己の損傷部分を回復させたり、自己を形成するために自然と発生する本質的なものとして捉えられている。特に自己が損傷している時にはこの転移を生じやすいと言われる。自己愛性パーソナリティ障害の患者だけではなく、人間一般にも広く見られる転移である。現在では論者によって様々な自己対象転移が想定されているが、基本的なものは以下の四つである。 鏡転移(鏡自己対象転移) 能力があり完全である自己をほめてもらいたいという欲求。そのような自分をほめてくれる他人を求め、そのような他人を自己対象とする。理論的には幼少期における誇大自己から派生したものであり、「私は完全である」という自己愛を満たすためのものとして現れる。しばしば母親の肯定的側面として子供には認識される。 理想化転移(理想化自己対象転移) 落ち着くことができたり自分の進むべき方向性を見出すことができるような他人を手に入れたいという欲求。そのような完全でもあり、理想的な親となってくれるような他人を自己対象とする。理論的には幼少期における理想化された親イマーゴから派生したものであり、「私は完全ではないが、あなたは完全である。そして私はあなたの一部分である」という自己愛を満たすためのものとして現れる。しばしば父親の動じない指針となるような立派な側面として子供には認識される。 双子転移(双子自己対象転移) 自分と同じような他人を確認したいという欲求。自己心理学においては比較的遅くに提唱されたもので、同じ言語を話したり、自分と同じ民族であるという感覚からこの自己対象転移が想定された。 融合転移(融合自己対象転移) 上記の三つの転移の前に生じる自己対象転移。自己と他人が融合している無境界な状態として現れる。 これらの自己対象転移は自己の欠損や混乱を埋めるようなものとして機能する。自己対象からの適切な反応があると、患者の自己の中にある野心や理想が徐々に形成されるようになり、患者は自己をしっかりさせると言われる。
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