縦向きに硬貨差し込む涼しさよ
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評 言 |
宿題の計算ドリルをゆっくり解いていくように、仮屋賢一の丁寧な作品構成は、読者を思わず頷かせるのに心地よい型を持っている。句は全体的に素直で屈託のない雰囲気を纏いながら、「涼しさよ」と下五に主観を叩き込む図太さも備えているようだ。作者は1992年京都府生まれ。洛南高校時代は俳句創作部に所属し、俳句甲子園に3度出場。現在は関西の大学生を中心とする俳句団体、関西俳句会「ふらここ」の代表を務めている。 さて、現在のどこにでもある飲料用の自動販売機は、硬貨投入口が横向きのものがほとんど。縦向きに硬貨を差し込む場面と言えば、駅の券売機が想像できる。駅の券売機は利用者が集中することを想定し、硬貨を縦向きに投入させることで落下速度を上げ、同時に硬貨の識別処理能力を高めている。ところが、縦向き投入口に使用される硬貨識別装置は、設置の際に奥行きが必要な形状となっており、大量の商品を保管しながらも、出来る限り奥行のスペースを抑えたい飲料用の自動販売機には適さないそうである。 暑い日の通勤または通学の途中に、ふと出合う清涼感。慌ただしい時間の中で立ち止まることを要求される一瞬。硬貨を持つ指がスローモーションで投入口に近づき、指を離れたと思えばストンと投入口を滑り落ちる感覚。硬貨の残像。そして涼しき余韻。この句に表現された情景は、作者の現在地であり、詩心のスタート地点だと言えよう。 |
評 者 |
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備 考 |
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