第二の手帳
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 06:50 UTC 版)
6年後、23歳となった汐見は、藤木の妹である藤木 千枝子(ふじき ちえこ)を愛するようになる。女子大の数学科に通う千枝子は「知的な瞳」を持つ才女で、無教会基督教の信徒でもあった。汐見は伝道の重要性を説く彼女を批判し、孤独な信仰を主張するなど議論を交すこともあった。汐見は藤木忍に向けたのと同じ精神的な愛を、彼女に対し試みようとする。だが千枝子は「だってあなたの言う千枝ちゃんは、あなたの頭の中にだけ住んでいる人よ、このあたしのことじゃない」として不満を抱く。次第に両者の間の溝は深くなり、千枝子は汐見を訪ねた帰りに、「あたしたち、もう会うのをやめましょう」と言う。 それでも8月下旬、汐見は信州追分の油屋で休暇を取った際、同じく追分の女子大寮に来た千枝子と共に林の中を歩きながら会話を交し、そこで千枝子は汐見への愛を直接に打ち明ける。やがて二人は抱き合って草の上に倒れ、汐見は「もう一歩を踏み出せば、時は永遠にとどまるかもしれない」と感じ取れる状態に到達する。しかし尚も自身の孤独から逃れることはできず、千枝子の身体を愛撫して内部に入ることは、自身の内部の恐怖、死の観念からの逃避ではないかとの思いから、最後の一歩を踏み出すことができなかった。そんな汐見のもとから、千枝子は去っていった。 やがて汐見は召集令状を受け取り、死の迫った「英雄の孤独」に自らを置くが、召集直前になってショパンのコンサートの切符を千枝子に送る。しかしコンサートが開かれる出征前夜、千枝子は遂に姿を現すことはなく、汐見は「藤木、君は僕を愛してはくれなかった。そして君の妹は、僕を愛してはくれなかった。僕は一人きりで死ぬだろう……」と心の中で呟き、戦場へと一人旅立っていった。
※この「第二の手帳」の解説は、「草の花」の解説の一部です。
「第二の手帳」を含む「草の花」の記事については、「草の花」の概要を参照ください。
- 第二の手帳のページへのリンク