狙撃任務に伴う心的外傷
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/29 14:42 UTC 版)
米陸軍特殊部隊の狙撃手として33人以上の命を戦場で奪い、「死神」との異名を持つニコラス・アービングは、PTSDの苦痛について、以下のように述べた。 同じ夢を何度も見た。銃弾を受けてバラバラになった男の顔や手足がまとわり付いてくる。二〇〇五年、十八歳の時だった。イラク南部に赴任した翌朝。装甲車に、うつろな目をした男が運転する車が近づいてきた。「撃て、早く撃て」。四カ月の訓練で覚えた通りに狙いを定め、引き金を引いた。弾は男に当たった。車には手製爆弾が積まれていた。これが戦場か。初めて人の命を奪った戸惑いと、役目を果たしたという手応えが同時にやってきた。射撃を命じた下士官は言った。「興奮はやがて消え、人を撃った感触だけが残る」その夜は落ち込んだ。人を殺してはいけないと教えられてきた。あの男に家族はいるのか-。五年後に第一線を退いた後も、頭上を飛ぶ戦闘機を見ると、逃げ惑うアフガンの子供たちの姿が頭をよぎった。風が運んでくる乾いた土のにおいは、射殺した兵士の顔を思い出させた。その都度、自分が正しいと信じてきたことと罪悪感の間を行き来した。PTSDに悩み、自ら命を絶った仲間は知っているだけで十二人。運を天に任せよう。自分も二年前、回転式のピストルの弾倉に一発だけ弾を込め、頭に当てて引き金を引いた。弾は出なかった。 — ニコラス・アービング、東京新聞2017年6月26日朝刊
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