水分子の赤外吸収
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/12 04:30 UTC 版)
対称伸縮振動変角振動非対称伸縮振動 結合角と結合距離 水分子 水分子には3つの基本振動モード(基音)がある。この振動は極めて速く、例えば対称伸縮振動の周波数は cν1 = 1.0962×1014 Hz にも及び、赤外線の周波数に相当する。 ν1 : 3657 cm-1 : 対称伸縮振動 ν2 : 1595 cm-1 : 変角振動 ν3 : 3756 cm-1 : 非対称伸縮振動 水のヒドロキシル基 (-OH) は高い極性を持ち、伸縮振動および変角振動により分子の双極子モーメントが著しく変化するため赤外線の強い吸収帯が存在する。3つの基本振動は何れも赤外領域にあり、これらは水の色に直接関係しないが、対称伸縮振動および非対称伸縮振動の2倍音、3倍音の結合音は可視領域に達する。倍音振動は禁制遷移であり、完全な調和振動子としてシミュレーションを行うと遷移モーメントがゼロとなり、理論的には吸収が観測されないという結果になる。共有結合のポテンシャルエネルギー曲線はフックの法則による調和振動子のような放物線ではなく、実験的には倍音も弱いながら出現し3倍、4倍と増大するにつれその吸収は極めて弱くなり通常はほとんど観測されないが、水の場合は基本振動が強いため、倍音振動も弱いながら観測され、660nmにおけるモル吸光係数は約2×10-5mol-1dm3cm-1、760nmでは約2×10-4mol-1dm3cm-1である。すなわち3mの厚さの水を透過した660nmの波長の光は44%まで減衰する。 気相および液相中における軽水および重水の基本振動および結合音の振動数は、以下の通りである。 波数 / cm-1H2O(g)D2O(g)DHO(g)H2O(l)ν1 3656.65 2671.46 2726.73 3400 ν2 1594.59 1178.33 1402.20 ν3 3755.79 2788.05 3707.47 2ν2 3151.4 2782.16 ν2 + ν3 5332.0 3956.21 5089.59 5150 2ν2 + ν3 6874 5105.44 6452.05 ν1 + ν3 7251.6 5373.98 6415.64 6900 ν1 + ν2 + ν3 8807.05 6533.37 8400 2ν1 + ν3 10613.12 7899.80 10300 3ν3 11032.36 3ν1 + ν3 13831 13160 (760nm) ν1 + 3ν3 14318.77 13510 (740nm)sh 3ν1 + ν2 + ν3 15348 15150 (660nm) ν1 + ν2 + 3ν3 15832 15150 (660nm) 3ν3 + 2ν2 + ν1 16822 4ν3 + ν1 16899 16530 (605nm) 水蒸気の吸収帯と液体の水の吸収帯は若干異なり、液体の水も温度および圧力により吸収帯はやや移行し、この変化は主に水素結合の変化に起因するが、変化は小さく色に与える影響は少ない。
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