機械状態機能主義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 07:38 UTC 版)
「ヒラリー・パトナム」の記事における「機械状態機能主義」の解説
こうした機能主義理論の最初の定式化はパトナム自身によって行われた。この理論は現在では「機械状態機能主義」(英: machine-state functionalism)と呼ばれているが、パトナムなどによって注目された、心とはどんなアルゴリズムでも計算することのできる理想的チューリングマシンのようなものだ、と考える類推的思考を発想の源にしている。 大ざっぱに言えば、チューリングマシンとはたくさんの区画(記憶装置)に分かれた無限に長いテープのようなものである。そしてこのテープの横には箱型の読み取り装置が備えられており、この読み取り装置によって記憶装置のそれぞれの区画が順番に読み取られる。各区画は空白(B)であるか1と書き込まれている。これらが機械に入力されるとき、以下の五種類の出力がありうる。 休止 - 何もしない。 R - 区画一つ分、右に動く。 L - 区画一つ分、左に動く。 B - 区画上の書かれているものをすべて消去する。 1 - 区画上に書かれているものをすべて消去し、1を書き込む。 チューリングマシンの簡単な例として、3つの空白の区画を読み取った後に'111'という列を書き出し、停止するという例を考えてみよう。この例は以下の状態遷移表によって表される。 状態1状態2状態3B 1を記入し状態1を維持 1を記入し状態2を維持 1を記入し状態3を維持 1 右に移動し状態2に移行 右に移動し状態3に移行 (停止) この表は次のことを述べている。 もし、機械が状態1であって、かつ空白(B)の区画を読み取ったならば、機械は1を記入し、かつ状態1を維持する。もし、機械が状態1にあって、かつ1を読み取ったならば、機械は区画一つ分右に移動し、かつまた状態2に移行する。もし、機械が状態2であって、かつ空白(B)の区画を読み取ったならば、機械は1を記入し、かつ状態2を維持する。もし、機械が状態2にあって、かつ1を読み取ったならば、機械は区画一つ分右に移動し、かつまた状態3に移行する。最後に、もし、機械が状態3であって、かつ空白(B)の区画を読み取ったならば、機械は1を記入し、かつ状態3を維持する。 機能主義を考える上で重要なのは、チューリングマシンの「状態」とはいったい何を意味するのかということである。各状態を定義してくれるのは、それが他の状態や入出力との間にもっている関係なのである。例えば状態1とは、もし機械がBを読み込めば1を書いて同じ状態を維持し、もし機械が1を読み込めば区画一つ分右に移動して別の状態に移行するという状態であるにすぎない。これが状態1の機能主義的定義である。それはこの過程全体の因果関係において状態1が果たしている役割なのである。どうやって状態1のようになるかとか、状態1の具体的構成は何かといったことはまったく関係ないのである。 機械状態機能主義にしたがえば、心的状態というものは上記のようなオートマトンにおける状態というものとまったく同一である。ちょうど「状態1」がBが入力されたときこれこれのことが起こるという状態であるにすぎないのと同じように、痛いと感じるということも、人に「痛いっ」と叫ばせ、取り乱させ、痛みの原因は何かと考えさせ……等々させるようになる状態である。
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