松下文法とは? わかりやすく解説

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松下文法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/06 04:40 UTC 版)

松下文法(まつしたぶんぽう)は、松下大三郎による日本語文法である。四大文法の一つ。松下による漢文法を指すこともあるが、本項では主に日本語文法を扱う。

概要

松下は言語の普遍的性質について考察し、一般理論を志向するものである。松下は文法学を一般言語学に対応する「一般文法学」と、個別言語学に対応する「国語文法学」に分類し、あくまでも一般文法学のうえに国語文法学があるのであり、その逆ではないことを強調している。

四大文法の中では最も難解とされ、独特の用語法により近づきがたい部分もあるが、構造概念を洗練されたものに仕上げ、を構成する要素のレベルの違いを厳密に捉えるものである。言語過程説による時枝文法と並び、ある種の哲学心理学[1]を理論の背景とする点も特徴である。

説話の構成

言語の三階段

松下の理論においては、一般に「説話」(言語行為)は構成要素は次のものからなる[2]

  • 原辞(げんじ)
  • (し、: word
  • 断句[注釈 1](だんく、: sentence

の三段階をふむ。これを松下文法では言語の三階段(げんごのさんかいだん)と呼ぶ。

「詞」と「原辞」には、統語論の要素と形態論の要素というレベルの区別が担わされている。例えば、名詞「桜を」「桜」はともに詞であり、「桜」はまた原辞でもある。これは形態論における自由形式が統語論におけるにもなることを考えると理解しやすいだろう。一方「を」は原辞であって、これ単独では詞になりえない(束縛形式にあたる)。詞である「桜」のような名詞とともにさらに大きな詞を構成して断句の要素となる。

原辞は詞(単語)の構成要素で、最も基本的な文法単位である。形態素に相当するが、接頭辞・接尾辞のほか助詞・助動詞もここに入る。助詞・助動詞を詞(単語)と認めなかったのは松下文法の大きな特徴の一つである。

詞は断句を構成する要素であるが、詞が集まれば必ず断句となるわけではないことが経験上知られている。松下の理論はこの点を説明するために、断句を成立させる要件として統覚[注釈 2]: Apperzeption)を持ち出した。

詞の間に緊密な関係を持ち、そしてそのような複合体が他のものに従属していない場合、断句となり得る。しかしこれだけではなり得るだけで断句とはいえない。断句となるためには、要件を備えている複合体が統覚作用という統一性を帯びて断句となる。

なお、統覚作用が重視されているのは、当時は要素主義統覚心理学が隆盛しており、20世紀の構造主義ゲシュタルト心理学はまだまだ未発達であったという時代背景も挙げられる[4]

思念の二階段

また、一般に思想・思考は、

  • 観念
  • 断定

以下の二段階をふむ。これを思念の二階段(しねんのにかいだん)と呼ぶ。

原辞と詞は観念と、断定は断句と対応する。即ち、

  • 観念 - 原辞・詞
  • 断定 ‐ 断句

のような関係があり、「言語の三階段を論ずるには思想の構成の過程を考察する必要」[5]が生じる。

文法学の体系

松下文法では、文法学の体系を以下のように構成する。

  • 文法学
    • 総論
    • 各論
      • 原辞論
      • 詞論
        • 詞の単独論(etymology)
          • 詞の本性論
          • 詞の副性論
            • 相の論
            • 格の論
        • 詞の相関論(syntax)

断句は詞論によって説明可能であるとされ、断句論は存在しない。

原辞の分類

  • 原辞の分類
    • 完辞
    • 不完辞
      • 助辞
        • 助辞(一般性)
          • 動助辞
          • 静助辞
          • 頭助辞
        • 接辞(特殊性)
          • 接頭辞
          • 接尾辞
      • 不熟辞
        • 実質不熟辞
        • 形式不熟辞

助辞の細目

  • 頭助辞
    • 一般
    • 特殊
  • 尾助辞
    • 動助辞
      • 一般
        • 使動
        • 被動
        • 尊称
        • 否定
        • 完了
        • 過去
        • 未然
        • 当然
        • 不確
        • 断定
      • 特殊
    • 静助辞
      • 格助辞
        • 体言
        • 用言
      • 感動助辞
      • 提示助辞
        • 題目
        • 特提
      • 名助辞
        • 一般
        • 特殊
      • 副助辞

詞の分類

    • 観念詞
      • 事物
        • 名詞
          • 本名詞
          • 代名詞
          • 未定名詞
          • 形式名詞
      • 作用
        • 動詞
          • 動作詞
          • 形容詞
      • 属性
        • 連用
          • 副詞
            • 実質副詞
            • 帰著副詞
            • 接続詞
        • 連体
          • 副体詞
    • 主観詞
      • 感動詞
        • 実質感動詞
        • 形式感動詞

構造概念

構造概念は次のように洗練された:

  • 補充
  • 修飾

現代的に見れば広く受け入れられている区別であるが、それまでは「連用」「連体」という概念のもとで同種のカテゴライズがなされていた。

また、松下は主題を持つ文と持たない文の違いについても注目し、次のような区別を立てた:

  • 題目態
  • 平説態

参考文献

  • 松下大三郎『標準漢文法』1927年
  • 松下大三郎『改撰標準日本文法』1928年
  • 松下大三郎『標準日本口語法』1930年

関連項目

脚注

注釈

  1. ^ 断句は、「断定」という行為が可能な句であるという意味。いわゆるフレーズの意味ではない。
  2. ^ 統覚はカントも用いる[3]

出典

  1. ^ 当時、心理学は哲学の一部とみなされていた。
  2. ^ 松下文法の成立原理―詞の副性論(相と格)―”. kumagaku.repo.nii.ac.jp. 2025年5月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年5月20日閲覧。
  3. ^ 統覚の「統一」とは何か”. hirokoku-u.repo.nii.ac.jp. 2025年5月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年5月20日閲覧。
  4. ^ 松下文法”. www.ab.cyberhome.ne.jp. 2025年10月31日閲覧。
  5. ^ 松下 1928、9頁。




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