日進 (身延3世)とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > 日進 (身延3世)の意味・解説 

日進 (身延3世)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/14 07:35 UTC 版)

日進(にっしん)は鎌倉時代の僧、山梨県にある日蓮宗の総本山・身延山久遠寺3世である[注 1]。三位公、大進阿闍梨とも称す[2]。日進は日蓮の直弟子で六老僧に準ずる中老僧の1人としても知られ[注 2][注 3][4]、青年期に比叡山延暦寺京都などで学んだのち[注 4]六老僧・日向に師事した[6]正和2年(1313年)日進は日向の跡を継ぎ身延山久遠寺3世に就任、寺院経営に力を注ぎ諸堂の建立や整備を数多く行った。また日進は大本山の一つ[注 5]千葉県中山法華経寺3世日祐と親交を深め[注 6][9]上総(現・千葉県中部)や下総(現・千葉県北部、茨城県南西部、埼玉県東部、東京都東部)での布教にも尽力[2]、下総・相模地方の豪族の外護も得て身延山を大きく発展させた。日進は多くの著述を残しているが、特に日蓮の著作「十法界明因果鈔」「顕仏未来記」「立正観鈔」などを書き写した写本は、日蓮自身が書いた真筆が残っていない今日に於いて貴重な研究資料となっている[9]


注釈

  1. ^ 日蓮宗の総本山・身延山久遠寺は日蓮が晩年の9年を過ごし、日蓮の遺骨が奉られている寺院で祖山とも称す[1]
  2. ^ 六老僧とは日蓮が亡くなる直前に宗派を託した本弟子6人のことで、日持、日頂、日向、日興、日朗、日昭をさす[3]
  3. ^ 中老僧とは六老僧に準ずる直弟子12人、または18人のことで身延山久遠寺36世日潮が著した「本化別頭仏祖統記」は日法、日家、日源、日満、日秀、日忍、日進、日賢、日保、日辯、日門、日高、日実、日傳、日祐、日位、日合、天目の名を挙げている[4]
  4. ^ 比叡山延暦寺とは滋賀県大津市にある天台宗の総本山、延暦7年(788年)に最澄が創建した。平安末期から鎌倉時代にかけ、数多くの僧が比叡山で学び修行した。同寺を出て新宗派を開いた僧に、浄土宗の法然、浄土真宗の親鸞、時宗の一遍、臨済宗の栄西、曹洞宗の道元、日蓮宗の日蓮がいる[5]
  5. ^ 日蓮宗の大本山とは、総本山・身延山久遠寺に次ぐ由緒ある7つの寺院。千葉県にある日蓮誕生の霊跡・誕生寺、日蓮が出家得度し立教開宗した清澄寺、日常が日蓮を招いて創建し祈禱修行道場となった中山法華経寺、東京にある日蓮入滅の霊跡・池上本門寺、富士の裾野に日興が開いた修学道場・北山本門寺、日蓮から京都開教の遺命を受けた(日像が開いた妙顕寺、日蓮が鎌倉松葉谷に初めて開いた草庵で京都に移転した本圀寺をさす[7]
  6. ^ 中山法華経寺とは通称名で正式には正中山法華経寺、千葉県市川市中山にある。当初は法華寺と本妙寺の2寺で1貫主体制だった。戦国時代末から法華経寺と称した[8]
  7. ^ 「身延山史」は大正12年(1923年)に身延山久遠寺が編纂した通史で、身延文庫所蔵の典籍・古文書、同寺36世日潮著述の「本化別頭仏祖統記」等の関係書籍、他資料を典拠として下里是察、井上恵宏により執筆された。昭和48年(1973年)新たに執筆した「続身延山史」を加えて「身延山史」の復刻版が刊行された[10]
  8. ^ 「新編武蔵風土記稿」は文政11年(1828年)に成立した江戸幕府官撰の地誌。編纂者は昌平坂学問所地理局総裁の林述斎。265巻、付録1巻からなり、武蔵国の総国図説から建置沿革、山川、名所、産物、芸文、各郡村里に分けて記述。文書や記録もあり、村の地勢、領主、小名、寺社、山川、物産など、正確で詳細な情報は武蔵国研究の貴重な資料となっている[13]
  9. ^ 「伝灯抄」は文明2年(1470年)に日親が日蓮の後継として正当性を示すために著した書で、有力な門流の批判が主な内容だが、14、15世紀の日蓮宗の動向を知る上で貴重な資料とされる[21]。日親は「立正治国論」を著し将軍足利義教を諫言した事で焼鍋をかぶせられる拷問を受け、通称「鍋かぶり日親」として知られる[22]
  10. ^ 「一期所修善根記録」は中山法華経寺3世日祐が、貫主就任12年目の嘉歴元年(1326年)から没年までの48年間にわたる自身の仏事を記録したもので、内容は「法華経転読事」「精舎勧進造営並結縁事」「妙法蓮華経書写事」「京上四ヵ度」「御堂本尊等唱導勤仕事」「身延山参詣事」の項目からなる[23]
  11. ^ 妙法華寺は六老僧の日昭が鎌倉の浜に草庵を構えたのが始まりで弘安7年(1284年)から経王山法華寺と称した。その後、移転と名称変更を重ね、天文7年(1538年)に兵難を避けるため越後(現・新潟県)へ、文禄3年(1594年)に伊豆加殿村に移り、元和7年(1621年)に現在の静岡県三島市玉沢に寺院が完成した。妙法華寺と公称したのは24世日迅の代からである文章[28]
  12. ^ 清原氏は天武天皇の皇子・舎人親王の後裔である。平安時代には清原夏野や清少納言らの文人も生れている[36]
  13. ^ 「日蓮聖人註画讃」とは室町期に成立した日蓮の代表的な伝記本である。5巻32項目からなり、日蓮の生涯を絵と漢文の絵詞で著した絵巻物で、日蓮の一代的体裁を備えた初の絵詞伝でもある。日蓮を超人的な覚者として捉えた宗教的奇跡の面が多く語られ、豊富に盛り込まれた潤色記述が世の興味を引き普及した[38]。著者の円明院日澄は嘉吉元年(1441年)誕生、京都の本圀寺で出家し、多くの著述で宗義を興隆した一致派の学匠である。文永11年(1479年)頃に伊豆に至り、三崎に円明寺を創建し、鎌倉妙法寺に隠居した[39]
  14. ^ 妙覚寺の由緒では弘安7年(1284年)に等覚院日全が開山したとあり、日全は千葉介宗胤の子・頼胤の弟して生まれ、康永3年(1344年)に没したと伝わる[14][15]。日蓮宗事典では日全は中山法華経寺2世日高、または3世日祐の弟子とされ 、身延山久遠寺3世日進に師事し抄物・相伝・口決を相承、比叡山や仙波に遊学して天台学を学び「法華問答正義抄」22巻を著したとされる[42]。妙覚寺は六老僧・日朗の作とされる日蓮の木造坐像を本尊とし[14][15]、明治から昭和初期にかけて活動した仏教運動家・田中智学が得度した寺としても知られる[43]
  15. ^ 竹之房の開基について「本化別頭仏祖統記」の日元の項では日元の開基とあるが、日進の項では日朗の開基とし日元を2世としている。また「身延山坊跡録」でも日朗の開基、日元は2世とされている[44]
  16. ^ 「金綱集」は六老僧・日向が自身の見聞と日蓮からの聴聞に従って諸宗破立の大綱を記述した書である。広く経論疏釈の金言を引用し、華厳宗見聞、小乗三宗見聞等をまとめて「金綱集」と題した身延門流の秘書で、日向に師事した身延山久遠寺3世日進をはじめ、4世日善、中山法華経寺3世日祐、その弟子日全らによる多くの写本が伝えられている[18]
  17. ^ 元弘と正慶は鎌倉時代に混在した元号。元徳3年(1331年)元弘の変が起った。討幕計画が発覚した後醍醐天皇が京都を脱出し笠置山に籠城、元号を「元徳」から「元弘」へ改元した。しかし鎌倉幕府と持明院統はこれを認めずに後醍醐天皇を捕えて光厳天皇を擁立、元徳4年(1332年)新元号「正慶」を定めた。正慶2年または元弘3年(1333年)各地で反幕勢力が蜂起し鎌倉幕府が滅亡。後醍醐天皇が京都で親政を始めた。この建武の新政で「正慶」は廃止、無効となり「元弘」へ復帰した[46][47]

出典

  1. ^ うちの寺は日蓮宗 (2016), pp. 202-203
  2. ^ a b 日本人名大辞典 (2003), p. 1449
  3. ^ 日蓮宗事典 (1981), p. 747
  4. ^ a b 日蓮宗事典 (1981), p. 552
  5. ^ 延暦寺』 - コトバンク
  6. ^ a b c 宮崎 (1971), p. 137.
  7. ^ うちの寺は日蓮宗 (2016), pp. 204-210
  8. ^ a b 日蓮宗事典 (1981), pp. 701-703
  9. ^ a b c d e 日蓮聖人遺文辞典 (1985), pp. 875-876
  10. ^ 日蓮宗事典 (1981), p. 392
  11. ^ a b c d e f g h i j k l m n 身延山史 (1973), pp. 39-44
  12. ^ a b c 正法寺”. 日蓮宗静岡県中部宗務所公式サイト. 日蓮宗静岡県中部宗務所. 2018年3月24日閲覧。
  13. ^ 新編武蔵風土記稿』 - コトバンク
  14. ^ a b c 蘆田 (1996), p. 101.
  15. ^ a b c 蘆田 (1929), p. 101.
  16. ^ 小西法縁名鑑 (1977), pp. 31-32
  17. ^ 江戸川区史 (1976), p. 524
  18. ^ a b c d e f g h 日蓮宗事典 (1981), pp. 570-572
  19. ^ a b 執行 (1966), pp. 73–75.
  20. ^ a b 日蓮教団全史 (1964), pp. 192-194
  21. ^ 日蓮宗事典 (1981), p. 279
  22. ^ 日親』 - コトバンク
  23. ^ 日蓮宗事典 (1981), p. 12
  24. ^ a b c d e f g h i j k l 日蓮宗事典 (1981), p. 663
  25. ^ 数え年』 - コトバンク
  26. ^ a b c d e 日蓮宗事典 (1981), pp. 509-510
  27. ^ 日蓮宗事典 (1981), p. 367
  28. ^ 日蓮宗事典 (1981), pp. 732-733
  29. ^ a b c d 日蓮宗事典 (1981), pp. 680-681
  30. ^ a b 日蓮聖人遺文辞典 (1985), p. 857
  31. ^ a b 日蓮宗宗学全書18 (1959), pp. 174-175
  32. ^ a b 日蓮宗宗学全書19 (1960), pp. 263-264
  33. ^ 日蓮宗事典 (1981), p. 101
  34. ^ a b 日蓮宗事典 (1981), p. 268
  35. ^ a b 曽谷教信篇 (1990), pp. 11-13
  36. ^ 清原氏』 - コトバンク
  37. ^ a b c 日蓮宗事典 (1981), p. 540
  38. ^ 日蓮宗事典 (1981), pp. 300-301
  39. ^ 日蓮宗事典 (1981), p. 679
  40. ^ 日蓮聖人遺文辞典 (1985), pp. 685-686
  41. ^ a b 感應寺について”. 感應寺公式サイト. 感應寺. 2018年3月25日閲覧。
  42. ^ a b 日蓮宗事典 (1981), pp. 619-620
  43. ^ 田中智学』 - コトバンク
  44. ^ a b 日蓮宗事典 (1981), p. 595
  45. ^ 日蓮宗事典 (1981), p. 1313
  46. ^ 正慶』 - コトバンク
  47. ^ 元弘』 - コトバンク
  48. ^ 日蓮宗事典 (1981), p. 664
  49. ^ a b 執行 (1996), pp. 58–59.
  50. ^ a b 日蓮宗事典 (1981), p. 654
  51. ^ 日蓮宗事典 (1981), p. 677
  52. ^ a b 日蓮宗事典 (1981), p. 1296
  53. ^ 日蓮聖人遺文辞典 (1985), pp. 426-427
  54. ^ a b 日蓮聖人遺文辞典 (1985), pp. 369-370
  55. ^ 日蓮辞典 (1987), pp. 297-298
  56. ^ 日蓮宗事典 (1981), p. 1315
  57. ^ 竹之坊”. 山梨県公式観光情報. 山梨県. 2018年3月25日閲覧。
  58. ^ 藻原寺縁起”. 日蓮宗東身延藻原寺公式サイト. 藻原寺. 2018年3月25日閲覧。


「日進 (身延3世)」の続きの解説一覧

「日進 (身延3世)」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「日進 (身延3世)」の関連用語

日進 (身延3世)のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



日進 (身延3世)のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの日進 (身延3世) (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2024 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2024 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2024 GRAS Group, Inc.RSS