斎宮なりける人
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/28 09:17 UTC 版)
第六十九段に、「斎宮なりける人」という呼び名で登場する女がおり、古来よりこれを恬子内親王本人とする解釈がある。 その「斎宮なりける人」のもとに、親(女を恬子内親王とした場合、通説では紀静子)から一通の手紙が届く。そこには近々勅命により狩の使が下向するが通常よりは丁重にもてなすように、と記されてあった(この「狩の使」が、内親王の従姉(紀有常女)の夫であり、平城天皇の孫でもある在原業平と考えられている)。女は親の言うとおり、きちんと心をこめてもてなした。男は丁重なもてなしに感動し、女に恋心を抱いてしまう。そして「逢いたい」と言ったという。女も男に惹かれていたらしく、「絶対逢ったりはしまい」とは思っていなかったのだが、人目が多く、逢うことができなかった。だが、人が寝静まった子の一刻(夜中の11時ごろ)、女が女童を先に立たせ、女のことを思って眠れずにいた男の寝所までやって来た。男はたいへんうれしく思い、彼女を寝所に迎え入れた。そして丑三つ時(午前2時ごろ)まで一緒にいたが、何も語り合えずにいるうちに(思いを遂げられずにいるうちに)、とうとう女は帰ってしまった。男は悲しく、その後も眠れず、翌日も女のことが気にかかって仕方がなかったが、自分のほうから様子を尋ねるわけにはいかなかったので、非常に心細く待ちわびていると、女から 君や来し 我や行きけむ おもほえず 夢かうつつか 寝てかさめてか(昨夜はあなたがいらっしゃったのでしょうか、私が行ったのでしょうか、あなたとの逢瀬も、夢だったのでしょうか、それとも現実だったのでしょうか) という、詞書のない歌が贈られて来たので、男は激しく泣き かきくらす 心の闇に まどひにき 夢うつつとは こよひさだめよ(私も、あなたへの募る想いで惑ってしまいました。今宵こそ、夢か現実かを定めましょう) と返した。そして日中、狩に出たが、心は上の空で、早く夜にならないかと待ち望んでいた。だが、伊勢国の国司で斎宮寮の長官も兼任している人が、狩の使が来ていると聞き、一行を招いて一晩中宴をはり、ついに再び女に逢うことはできなかった、という。
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