救命ボート問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/06 01:20 UTC 版)
もし救命ボートが転覆して人間の赤ん坊と犬のどちらか一方しか助けられないとしたらどうするかと聞かれて、PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)のアウトリーチ・コーディネーター、スーザン・リッチは「はっきりとは分からない…赤ん坊を助けるかもしれないし犬の方を助けるかもしれない」と答えた。動物の権利哲学者のトム・レーガンは、たとえ犠牲になる犬の数が何匹であろうが、赤ん坊の方を助けるべきだと述べた。これはカント以来の伝統的な義務論の延長上に権利論を展開した、レーガンの立場を示すものと言える。一方で、廃止論的動物の権利の法律学者ゲイリー・フランシオンは、仮に赤ん坊を助けたとしてその犬の方を置き去りにしたとしても、人間以外の動物の搾取や虐待は正当化されるものではないとした。同様に、動物の権利活動家のラリー・カイザーは「私たちが直面しているのは、そうした緊急事態ではない。私たちは赤ん坊と犬の両方を助けることができる」とし、こうした設問自体が意味のあるものではないと述べている。 救命ボートの問題に対して、ロールズが「正義の情況」と呼んでいるような、一定の情況下でしか正義は適用されないという指摘がある。この状況は、自分の危険をさらさずに互いの権利を尊重するのが可能な時だけ、正義の義務を負うというものである。救命ボートの問題は正義の情況での尊重すべき権利について何も示唆しないというのである。今の社会では正義の情況が成立することがほとんどであり、極限状況を誇張すべきではない。動物が襲ってくる等、正当防衛が成り立つような正義の情況でない状況は、減らすべきである。
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