建物_(数学)とは? わかりやすく解説

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建物 (数学)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/05 02:46 UTC 版)

数学における(ティッツの、あるいはブリュア–ティッツの)建物[1](たてもの、: building, : immeuble)は、フランソワ・ブリュア英語版ジャック・ティッツに名を因む、旗多様体、有限射影平面およびリーマン対称空間英語版のある種の側面を一斉に一般化する組合せ論的かつ幾何学的な構造である。初め、建物はジャック・ティッツによってリー型の例外群英語版の構造を理解するための手段として導入され、その理論は自由群の研究にが用いられたのと同じ仕方で、 p-進リー群その離散的対称変換部分群の等質空間の幾何および位相を研究するのにも用いられた。

概観

建物の概念は、ジャック・ティッツによって、任意の上の単純代数群を記述するための手段として考案された。ティッツはそのような種類の任意の G が、G の球建物あるいは球面型建物 (spherical building) と呼ばれる、G作用を持つ単体的複体 Δ = Δ(G) にどのように対応させられるかを具体的に示して見せた。群 G はこの方法によって得られる複体 Δ に、非常に強い組合せ論的正則性条件を強いることになる。それらの条件を単体的複体のクラスに対する公理として扱うことにより、ティッツは建物の最初の定義に到達した。建物 Δ を定義するデータの一部は、ワイル群と呼ばれるある種のコクセター群 W であり、これはコクセター複体と呼ばれる高度に対称的な単体的複体 Σ = Σ(W,S) を決定する。建物 Δ は、そのアパート[1]と呼ばれる Σ の複数のコピーをある正則なやり方で貼合せることによって得られる。W が有限型コクセター群ならば、コクセター複体は位相的球面であり、対応する建物は球面型 (spherical type) と呼ばれる。W がアフィンワイル群(つまり、コクセター群としてアフィン)ならば、コクセター複体はアフィン平面の細分であり、建物はアフィン型あるいはユークリッド型であるという。~A1-型のアフィン型建物は、終端頂点を持たない無限と同じものである。

半単純代数群の理論は建物の概念に対する最初の動機を与えるものであったけれども、全ての建物が群から得られるわけではない。特に、射影平面および一般化された四角形英語版は、接続幾何学英語版において研究される、建物の公理を満足するが群と無関係であるような、グラフの二つのクラスを形成する。この現象は、対応するコクセター系が低階数(つまり二階)であるようなものに関係することが分かる。ティッツは、

階数が 3 以上の任意の球面型建物は群に関連する。さらに階数が 2 以上の建物が群に関連するならば、その群は建物によって本質的に決定される。

という驚くべき定理を証明した。

岩堀-松本、ボレル-ティッツ、およびブリュア-ティッツは、球面型建物に関するティッツの構成のアナロジーとして、アフィン型建物もある種の群(つまり非アルキメデス局所体上の簡約代数群)から構成できることを示した。さらに、そのような群の分裂階数が 3 以上であるならば、それは本質的にその建物から決定される。後にティッツは、建物の理論の基礎となる部分を、専ら最も大きい次元の単体の隣接性のみを用いて建物の情報を記述する、小部屋系 (chamber system) の概念を用いて再構成している。これにより、球面型、アフィン型ともに簡略化されることとなった。ティッツは球面型の場合のアナロジーとして、アフィン型の階数が 4 以上の任意の建物が群から得られるということを示した。

定義

n-次元建物 X抽象単体的複体英語版であって、アパート (apartments) と呼ばれる以下の条件を満たす部分複体 A の和となっているようなものである。

  • X の各 k-単体は、k < n ならば少なくとも三つの n-単体に含まれる。
  • アパート A に属する任意の (n − 1)-単体はちょうど二つの隣接する (adjacent) An-単体に含まれる、かつ隣接 n-単体のグラフは連結である。
  • X に属する任意の二つの単体に対し、それらをともに含むアパート A が存在する。
  • 二つの単体が、二つのアパート A および A′ のいずれにも含まれるならば、A から A′ の上への単体同型で、二つの単体の頂点を固定するものが存在する。

A に属する n-単体を部屋[1]または小部屋 (chamber, chambre) と呼ぶ。

この建物の階数n + 1 と定められる。

基本的性質

建物の任意のアパート Aコクセター複体である。実は、平行または (n – 1)-次元単体で交わる任意の二つの n-次元単体に対して、A鏡映 (reflection) と呼ばれる周期 2 の単体的自己同型で、二つの n-単体の共有点を動かさず、一方を他方の上に移すようなものが一意的に存在する。このような鏡映は Aワイル群と呼ばれるコクセター群 W を生成し、単体的複体 AW の標準幾何的実現に対応する。このコクセター群の標準生成系は A のある固定された小部屋の壁(境界となる (n − 1)-次元の単体)に関する鏡映によって与えられる。アパート A は同型を除いて建物によって決定されるから、同じことは共通のアパート A に属する X の任意の二つの単体に対しても正しい。W が有限型のとき、建物は球面的であると言い、アフィンワイル群となるとき建物はアフィンあるいはユークリッド型であるという。

小部屋系は小部屋の全体の成す隣接グラフによって与えられ、さらに隣接する小部屋の各対に対してコクセター群の標準生成元によるラベル付けを行ったものである[2]

任意の建物は、頂点をヒルベルト空間正規直交基底と同一視することによって得られる幾何的実現から受け継がれる標準長さ函数英語版を持つ。アフィン型建物に対して、標準長さはアレクサンドロフ英語版の比較不等式CAT(0)英語版を満足する。この設定は測地三角形に対するブリュア-ティッツの非正値曲率条件として知られる。つまり、頂点から対辺の中点までの距離は、辺長が同じであるような対応するユークリッド的三角形での距離よりも大きくはならない[3]

ティッツ系との関係

G の建物 X への単体的な作用が、小部屋 C とそれを含むアパート A の対の上に推移的であるとき、そのような対の安定部分群としてBN対あるいはティッツ系と呼ばれるものが定まる。実は、部分群の対

BGC および NGA

はBN対の公理を満足し、そのワイル群は N/NB と同一視される。逆に、建物はBN対から復元することができるから、任意のBN対は自然に建物を定義する。実は、BN対の用語法を用いて、B の任意の共軛をボレル部分群、ボレル部分群を含むような部分群を抛物型部分群と呼べば、次のことが言える。

  • 建物 X の頂点は極大抛物型部分群に対応する。
  • k + 1 個の頂点は、対応する抛物型部分群の交わりが再び坊物型となるときは常に、k-次元単体を成す。
  • アパートは、B を含む極大抛物型部分群の N-共軛によって与えられる頂点全体から成る単体的部分複体と G-共軛である。

同じ建物が、相異なるBN対によって記述されることもしばしば起こる。さらに、必ずしも全ての建物がBN対から得られるものではない。これは階数や次元が低い場合に、分類が上手くいかないことに対応している(後述)。

SLn に対する球面型・アフィン型建物

SLn(p) に対応するアフィン型および球面型の建物の単体構造は、それらの相互接続同様、初等的な代数学および幾何学の概念のみを用いて直接的に説明することが容易である[4]。この場合、三種類の異なる建物が存在する(球面型二種類とアフィン型一種類)。それぞれは「アパート」の和として、それ自身単体的複体である。アフィン群に対して、アパートは単にユークリッド空間 𝔼n−1 の等辺 (n − 1)-次元単体による標準空間分割から得られる単体複体である。一方、球面型建物に対しては、アパートは与えられた共通の頂点に関する (n − 1)! 個の単体全体の成す有限型単体的複体で、𝔼n−2の空間分割に対応する。

各建物は単体的複体X であって、以下の公理

  • X はアパートの和集合である。
  • X の任意の二つの単体は共通のアパートに含まれる。
  • 単体が二つのアパートに含まれるならば、一方のアパートから他方への単体同型で、共有点を固定するようなものが存在する。

を満足するものでなければならない。

球面型建物

F と、VFn の非自明な部分線型空間を頂点とするような単体的複体X を考える。ただし、二つの頂点(つまり部分空間)U1, U2 が連結されるのは、一方が他方の部分集合となっているときとする。Xk-次元単体は互いに連結された k + 1 個の部分空間からなる集合であり、連結性が極大となるのは、n − 1 個の部分空間をとったときであり、対応する (n − 2)-次元単体は極大旗英語版


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