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ラエリウス・友情について

(友情について から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/21 02:41 UTC 版)

ルネサンス期の写本バチカン図書館蔵)

ラエリウス・友情について[1]』(ラテン語: Laelius de Amicitia)通称『友情について[2][3]』は、古代ローマキケロの著作。前44年成立[4]ラエリウスを主人公とする対話篇の形で、ラエリウスと小スキピオ友情や、アリストテレス倫理学フィリア論を踏まえ、友情の素晴らしさを説く。

題名

題名は『ラエリウス』で副題が『友情について』だったと推定されるが、現代では『友情について』が題名として扱われる場合が多い[5]

背景

成立

キケロ最晩年の前45年から前44年にかけて、『ホルテンシウス』を皮切りに成立した一連の哲学著作の一つにあたる[6]。具体的な成立時期は、前44年3月のカエサル死亡から11月の間頃と推定される[4]

本作は、同時期頃に成立した『大カトー・老年について』の姉妹篇にあたる[6]。両作の共通点に以下がある[6]

  1. 「友情」「老年」という具体的で日常的な倫理学の題材を扱う[6]
  2. 友人アッティクスの勧めで書かれ、彼への献辞がある[6]
  3. 対話篇だが実質的には過去の偉人の独り語りであり、その偉人の名を題名とする[6]

本作の背景には、キケロとアッティクスの友情や、死期を悟ったキケロからアッティクスへの遺言の面もあった[7][8]前43年、実際にキケロは死亡し二人は死別することになった。

古代の友情論

古代ギリシアでは「少年愛」と並んで、男性間の義兄弟としての「友情」(友人間のフィリア友愛)が讃美された[注釈 1][注釈 2][10]。この「友情」は、アキレウスとパトロクロス英語版の逸話に顕著なように「死別」「惜別の念」とも深く関わった[10]

ギリシア哲学では、この「友情」が伝統的な論題としてあった。例えば、プラトンリュシス』『国家』、アリストテレスニコマコス倫理学』第8-9巻、『エウデモス倫理学』第7巻、クセノポンソクラテスの思い出』第2巻、キュレネ派エピクロス派、その他『ギリシア哲学者列伝』などに伝わるピュタゴラス、アナカルシス、ソロンの箴言、シミアススペウシッポスペリパトス派テオプラストス、クレアルコス、ストア派のクレアンテス、クリュシッポスらの佚書で、「友情」が論題となった[11][10][12]

ローマ哲学でも、キケロの本作、セネカ倫理書簡集英語版』、アウグスティヌス告白』のほか[13]プルタルコスの随筆『似て非なる友について』『友人の多さについて』、ルキアノスの小説『トクサリスまたは友情』で論題となった[11][10]

内容

登場人物・場面

登場人物は以下の3人である。いずれもキケロが理想視した小スキピオの知的サークル「スキピオ・サークル英語版」に属する[14]

本作は、キケロが若き日にスカエウォラから直接聞いた話、として記されるが、実際はほぼキケロの創作と推定される[注釈 3][15]

時代設定は前129年、小スキピオの急死から数日後であり[15]、小スキピオの追悼から対話が始まる。時系列的には『大カトー・老年について』『国家について』の後日譚にあたり、『国家について』の復習的内容が含まれる[16]

構成

全104節からなり、以下に分けられる[6]

  • 1-5節:「献辞」(キケロからアッティクスへ)[6]
  • 6-16節:「プロローグ」(談話への促し、小スキピオ讃)[6]
  • 17-24節「ラエリウスの第1の談話」(友情讃)[6]
  • 25節「小休止」(談話継続への促し)[6]
  • 26-32節「ラエリウスの第2の談話」(友情の起源)[6]
  • 32節「小休止」(談話継続への促し)[6]
  • 33-104節「ラエリウスの第3の談話」(諸論点の分析、友情の定義、小スキピオ讃)[6]

思想

他著作と同様、キケロは折衷主義的立場をとっている。一方で他著作と異なり、「ギリシア哲学をローマに紹介する」面が弱く、キケロの個人的著作の面が強い[17]

扱われるトピックに以下がある。

  • 「友情は善き人生に不可欠」「友情は有の善人同士にしかありえない」「友情は共同体的結びつきの中で最高のもの」「友情は人間本性に由来する」「友人は第二の自己」といった友情論[10][11][16]。多くはアリストテレスに由来し、テオプラストスの佚書経由でキケロに伝わったと推定される[10]
  • ラテン語で「友情」を意味する「アミキティア(アミーキティア)英語版」(amicitia)と「愛」を意味する「アモル」(amor)の同語源性[10]
  • 友情と政治[18]、友情と祖国愛の関連性[19]
  • 友人のために不正を犯すことの可否[20]。否定するが曖昧[20]
  • 友情の安定に必要なものは「フィデス」(fides信義信頼[21]
  • 友情を脅かすものは「利害の対立」「国政に関する見解の相違」「性格の変化」「名誉ある公職や栄誉」「女性をめぐる争い」[22]
  • エピクロス派批判[23]
  • スキピオの夢」を踏まえた「霊魂の不死」[24][7]
  • 小スキピオはラエリウスの記憶の中で生き続ける[7]

トピックが重複するキケロの他著作として、『国家について』『トゥスクルム荘対談集』『義務について』などがある[19][7]

本作の真のテーマは諸説あり「政治と友情[18]」とも「霊魂の不死[7]」とも言われる。

後世の受容

マテオ・リッチ交友論

2世紀ゲッリウスは『アッティカの夜』で本作に言及し、本作が「友人のために不正を犯すことの可否」について曖昧に済ませていることを批判した[11]

13世紀ダンテベアトリーチェ英語版の死後、ボエティウス哲学の慰め』と本書を読んで感銘を受けた[25]

16世紀マテオ・リッチ漢文で書いた『交友論』は、本作を主な影響源とする[13][26]。『交友論』は西洋と中国の友情論を架橋し、明代中国の知識人に注目された[26]

日本語訳

新刊順

参考文献

著者名順

脚注

注釈

  1. ^ 代表例として、アキレウスとパトロクロス英語版オレステスピュラデス英語版テセウスペイリトオスダモンとピュティアス太宰治走れメロス』の原話)が挙げられる[9]
  2. ^ 女性間の友情英語版が論じられることは基本的に無かった[10]
  3. ^ 国家について』や『弁論家について』も同様[15]

出典

  1. ^ 中務 1999.
  2. ^ 中務 2004.
  3. ^ 大西 2019.
  4. ^ a b 中務 1999, p. 372.
  5. ^ 中務 2004, p. 111.
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n 中務 1999, p. 376-379.
  7. ^ a b c d e 中務 1999, p. 378.
  8. ^ 大西 2019, p. 296.
  9. ^ 大西 2019, p. 203.
  10. ^ a b c d e f g h 内田 2023, p. 362-366.
  11. ^ a b c d 中務 1999, p. 372-375.
  12. ^ 大西 2019, p. 297f.
  13. ^ a b 神崎 2004, p. 32.
  14. ^ 近藤智彦 著「ローマに入った哲学」、伊藤邦武山内志朗中島隆博納富信留 編『世界哲学史 2』筑摩書房〈ちくま新書〉、2020年。 ISBN 9784480072924 36頁。
  15. ^ a b c d e f 大西 2019, p. 293f.
  16. ^ a b 大西 2019, p. 300.
  17. ^ 中務 1999, p. 375;377.
  18. ^ a b 大西 2019, p. 304-307.
  19. ^ a b 大西 2019, p. 206.
  20. ^ a b 大西 2019, p. 297.
  21. ^ 大西 2019, p. 235.
  22. ^ 大西 2019, p. 301.
  23. ^ 大西 2019, p. 201.
  24. ^ 大西 2019, p. 202.
  25. ^ 星野倫「キケローの哲学的著作とダンテ」『イタリア学会誌』第69号、イタリア学会、2019年。 NAID 130007974275https://doi.org/10.20583/studiitalici.69.0_49 53頁。
  26. ^ a b 竹中 2024, p. 33f.

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