化学的多様性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/20 13:51 UTC 版)
上記のように、コンビナトリアル・ケミストリーは、ハイスループットスクリーニングのニーズに対応した大規模なスクリーニングライブラリーを効率的に生成することを可能にする重要な技術であった。しかし、現在、コンビナトリアル・ケミストリーの20年の歴史を経て、化学合成が効率化したにもかかわらず、リードや薬物候補の増加には至っていないことが指摘されている。そのため、コンビナトリアル・ケミストリー製品の化学的特性を、既存の医薬品や天然物と比較して分析することが求められている。それらの物理化学的特性に基づいて化学空間における化合物の分布として描かれるケモインフォマティクスの概念「化学的多様性」(chemical diversity) は、コンビナトリアル・ケミストリー・ライブラリー化合物と天然物との違いを説明するためにしばしば用いられている。合成コンビナトリアル・ライブラリーの化合物は、限られた非常に均一な化学空間しかカバーしていないように見えるが、既存の薬物、特に天然物は化学的多様性が大きく、化学空間により均等に分布している。天然物とコンビナトリアル・ケミストリー・ライブラリーの化合物の間の最も顕著な違いは、キラル中心の数 (天然化合物の方がはるかに多い)、構造剛性 (天然化合物の方が高い)、および芳香族部位の数 (コンビナトリアル・ケミストリー・ライブラリーの方が高い) である。これら2つのグループ間の他の化学的な違いは、ヘテロ原子の性質 (天然物ではOとNに富み、合成化合物ではSとハロゲン原子が多く存在する)、非芳香族性不飽和度 (天然物では高い) などである。構造の剛性とキラリティーの両方が、化合物の特異性と薬剤としての有効性を高めることが知られている医薬品化学において確立された要因であることから、天然物は潜在的なリード分子として、今日のコンビナトリアル・ケミストリー・ライブラリーに匹敵することが示唆されている。
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